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レーベンの洋館(後編)

 頬を何度も叩かれている気がする。

 まだ起きたくない。けど、頬をずっと叩かれる。叩いてくる相手の顔を見るために目を開けた。

 「やっと目を覚ましたか。体に異常とかある?」

 目の前にはかがみ込んで僕の顔を見つめるモワさんがいた。

 僕はモワさんがそこを退くのと同時に立ち上がった。

 「まさか、二日連続で気絶するとは、災難だね」

 周りは、夜中にあの幽霊と遭遇して魔法を使った場所だった。

 「おお、やっと起きてくれたのか」

 後ろを向くと、僕を置いて二階に逃げた雲神さんが目にクマをつけて仁王立ちしている。

 「まさかアレほどの魔法の威力と持続力じゃとは、予想外じゃ。おかげで、ほぼ徹夜じゃったぞ」

 訳が分からないことを言って、雲神さんは部屋に戻って行った。

 僕が気絶した後に何があったのだろう。

 そういえば、右手にも、どこにもあの棍棒杖が無い。また知らぬうちに消えている。一体何処へやら。

 「秋雲さ〜ん」

 榛真君が僕を見つけて駆け寄って来た。

 「秋雲さん。朝ごはんがあるので、食堂で食べてきてください」

 それだけ言うと、また廊下を走ってどこかに消えた。

 その後は食堂で朝ごはんを食べた。言うまでもなく、朝ごはんは絶品料理であった。

 朝ごはんを食べ終わった時にはすでに九時になっていた。

 「あの、秋雲さんでしょうか?」

 食堂を出た僕を後ろから話し掛ける。この声は聞いたことが無い。

 振り向くと、そこには、夜中に会った半透明が申し訳なさそうな顔で浮いている。上半身だけがある状態だ。

 「えっ、あっ、なんでしょうか?」

 驚き過ぎてぎこち無い声が出てしまった。

 それでも、その半透明は表情ひとつ変えること無く、丁寧に謝った。

 「すみません。夜中にちょっかいを出してしまって。久々に帰ってきたら、新しい人達がいて、試しに脅かしてやろうと思い、やりました。誠に申し訳ありませんでした」

 とても丁寧にお辞儀をした。彼は上半身だけがあるとはいえ、それでもしっかりと全身でお辞儀をしているように感じられた。

 「い、いえ、こちらこそ。なんか最後に除霊系の魔法を使ったような気がしますし、これで何かお怪我はありませんか?」

 「そうですね。右腕が丸ごと消失したことぐらいですかね。なので大丈夫です」

 「大問題じゃないですか!」

 「い、いえ。我ほどになると、自己修復能力がついてるので大丈夫です」

 本当か信用ならなかったので自分で彼の右腕を見ると、しっかりと右腕がある。僕はほっとした。

 「そうだ。あなたの名前は?」

 僕は安心して、少し興奮気味になった。まさか幽霊と対話できるなんて、夢にも思っていなかったからだ。

 「僕は丘です」

 彼は簡潔に答えた。

 すると、時間を見て、「そういえば、榛真という人があなたを外に呼んでいましたよ」と言って、教会がある方向に煙のように消えていった。

 僕は丘さんに聞いた通り、外に出た。今日の天気も雲一つ無い快晴である。

 「お〜い秋雲さん。こっちこっち」

 東側で榛真君が手を振って呼んでいる。

 僕は走って榛真君の所に行った。

 その榛真君の隣にはレールに乗った白の四角いトロッコがある。

 「秋雲さん。これに乗ってください」

 僕は榛真君に勧められてそのトロッコに乗った。

 榛真君もそのトロッコに乗ると、トロッコはレールに沿ってゆっくりと進み始めた。

 ここは山の上にある。だから、もし下に行くのならば、今の速度から加速することは間違い無い。

 やはり、目の前はには坂があった。だが今回はあのジェットコースターと違い、山に沿った緩やかな下り坂だ。

 トロッコはその坂に差し掛かると、やっぱり速度は上がったが、恐怖を感じるほどではない。逆に風に吹かれて、気持ち良いくらいだ。

 トロッコから前方の景色は坂があって、その奥はもう海である。レールはちゃんと海岸まで繋がっている。

 トロッコは時間を掛けて、海岸に到着した。

 海岸は砂浜海岸である。

 波が何度も砂の上を滑っては海に戻る。その動作を繰り返している波を僕はしばらく見ていた。

 「榛真〜。秋雲〜。こっちだ!」

レーベンさんが風の音に声が掻き消されないように大声で僕達を呼んだ。

 人の身体に戻って久しぶりに踏む砂の感触はなんとも心地良いものであった。

 僕達はレーベンさんの前に横一列で並んだ。

 「さて、今日は魔法の練習だ。頑張るぞ」

 まさかの内容に少し驚いたが、すぐに切り替えた。

 「今日は一般魔法の練習と魔法への効果付与の練習だ。まず効果付与のやり方だけど」

 そう言ってレーベンさんは砂浜に置かれている二つのスイカを指差した。

 「モワ。お願い」

 「あいよ!」

 モワさんは杖を片方のスイカに先端を向けた。

 「雷」

 モワさんの杖から出た雷がスイカに当たり、スイカは弾け飛ぶように四散した。

 「これが効果付与の前。なんか物足りないでしょ」

 レーベンさんは四散したスイカを指差して言う。これでも十分物足りると思うけれども。

 「次に効果付与の場合」

 レーベンさんはモワさんに向けて左腕を上げて合図を送った。

 「雷(消失·強化·炎)」

 さっきとは違い、赤黒い雷がもう一つのスイカに向かった。

 スイカは当たった場合から赤い灰になって全体を文字通り跡形も無く消えた。

 「これが効果付与。見ての通り、全く違う効果になるの。ひとつの魔法に掛けれる効果は三つまで。組み合わせ型は無限大。絵の具を混ぜて新しい色を作る感覚で頑張ってね」

 そう言って彼女は山の緩やかな坂に座り込んだ。

 僕と榛真君は顔を見合わせて、とりあえず、杖を出して、やたらめったらに思い付く限りのことを唱えたり、やってみた。

 レーベンは彼らが魔法の練習をしているのをしばらく眺めていた。そこに、古鷹がレーベンの隣に腰をおろした。

 「あの、レーベンさん。いくつか質問よろしいですか?」

 「何だい?なんなりと聞き給え」

 「ありがとうございます。そのどうやって生計を立てているんですか?」

 「なるほど、まずはそれか。基本的に農業かな。屋敷の近くにある私の牧場やら畑やらで採れた製品をここから北のフラット軍港で売る。時間があればフラットの更に北のカ国首都マジェイルで売る」

 「なるほど。では、牧場の管理とかは誰がやっているんですか?」

 「あのメイドさん達よ」

 「そのメイドは、どこの人ですか?」

 レーベンさんの目付きが一瞬変わったのを古鷹は見逃さなかった。あの目付きは何かに怒っている様だった。

 「あの子達は私がクロイ戦争前に買った元奴隷よ」

 「なっ!」

 古鷹さんは思わず立ち上がり、レーベンの胸ぐらをつかんだ。

 「奴隷ってどういうことよ」

 古鷹の顔は今までに無いほどの怒りの形相であった。レーベンはそんな古鷹を一体落ち着かせた。

 「そもそも、クロイ戦争が起きてる理由って知ってる?」

 「それが奴隷とどう関係があるのよ」

 「ワ国とガドリ神聖王国は魔族奴隷制度のまんまなのよ。それで大日帝国と広陸帝国が奴隷制度に反対して戦争になったの。私は戦争前から大日帝国と共に奴隷制度に反対してたの」

 古鷹はレーベンの胸ぐらから手を離し、丁寧にレーベンに謝罪した。

 「それで、古鷹さん。他に質問は?」

 レーベンはまた腰を降ろしてから古鷹の質問を聞いた。古鷹もまたレーベンの隣に座り込んだ。

 古鷹はずっと黙り込んだままであった。そこでレーベンは自ら話題を出そうと考えた。

 「それじゃさ、ここの防御について教えてあげようか?」

 古鷹は無言でただただ頷くだけだった。

 「まぁ、ここから見れば分かるけどさ、幻影魔法で外側から見るとただの山の山頂に見えるのがひとつ。もう一つはその内側に私が張った超強力な防御結界があるのよね」

 レーベンは自慢気に自らが構築した防御システムについて古鷹に話したが、古鷹は途中から話についてけいけず、頷くだけになってしまった。

 それでも、レーベンの話は続いた。古鷹も諦めてレーベンの話をただ聞いてたまに反応するくらいだった。

 榛真君や僕はあと一回で休憩、あと一回で休憩ともうすでにヘトヘトである。

 「いつになったらお昼ご飯ですかね」

 この言葉を何度もお互いに掛け合った。

 レーベンさんは古鷹さんとまだまだ話している。これはお昼ご飯まで遠い道のりである。

 ヒュ~ルルルルルル

 花火が上がっていくような音が海岸全体に鳴り響いた。

 「ヘイ!お昼ご飯だ」

 レーベンさんの口から待ちに待った言葉を聞いた。僕達はすぐに練習を止めて、レーベンさんの近くに走った。

 お昼ご飯はサンドイッチである。

 ただ、これを食べているとき、レーベンさんからまた新しい練習内容が告げられた。

 もしかして、ここに来た理由は魔法の練習だったかもしれない。

 お昼ご飯を食べ終わった後、早速新しい練習をしなければならない。それは、駆逐艦秋雲の召喚と操縦である。ただ、大日帝国からの脱出の際、駆逐艦秋雲を出したままだった様な気がするが、大丈夫だろうか。

 手を叩くなり、名前を呼んでみるなりしてみたが、駆逐艦秋雲は一向に現れない。

 榛真君も同じことをしてもらったが、海には出てこない。

 かれこれ一時間近く、粘ったが、全く召喚方法は分からず仕舞いである。

 「どうすれば良いですかね」

 榛真君はとうとう疲れたらしく、砂浜に座り込んだ。

 これほどまでに分からないのは高校、大学以来だ。鳥の鳴き声が「アホーアホー」と聞こえる。あらゆる物が僕をバカにしている様だ。

 僕も榛真君の様に砂浜に座り込む。

 「ハァー」

 思わずに口から深い溜め息を吐く。

 無駄に時間だけが過ぎていく。あの時はどうやって出したのだろう。

 「おうおう。苦戦しとるな。助けたろうか?」

 雲神さんが後ろからのふらりと現れた。朝に見た目の周りのクマはなぜかすっかり消えている。

 「何か助けられるんですか?」

 榛真君がここまで出来なかった事で苛ついた声になっている。

 「そうじゃな。まず前提として貴様らがやろうとしとる召喚は通常の召喚と全く違う。貴様らのは“先祖”のかなり強い記憶、思い出から構成されとる物で貴様らを護る思いが込められてる。そして、それはかなり複雑な条件を満たさんといけんぞ」

 それは大まかに分かっている事だ。けど、一体どうすれば。

 「あっ」

 もしかすると、いけるかも知れない。

 「秋雲は気付いたようじゃな」

 僕は海に向いて榛真君の肩を掴みながら右指を鳴らした。

 突然、海面から一本の棒が出たと思うと、その棒に引っ張られる様に海面が隆起した。

 激しい水しぶきと音をたてながらあの艦首フェアリーダーを海の中から出し、そのまま艦の全貌を海から出した。そして、右舷を僕達に堂々たる態度で見せてくれた。

 「おお!」

 僕達は子供の様にはしゃいだ。この時にはすでに日は水平線に沈み始めていた。

 「やっと出来たのか」

 レーベンさんが拍手をしながら僕達に近づく。

 「さて、色々と出来たお祝いだ。今日はこの砂浜でバーベキューだ!」

 レーベンさんの提案に僕達は「おおー!」と掛け声を上げた。

 この時僕は達成感でかなり興奮していた。

 皆が食事の準備をしている時、僕は照明の明かりのため、駆逐艦秋雲の中にいる。

 艦内はひっそりとしており、僕しかいない。

 艦尾から順に明かりをつけて陸地に向ける。

 最後に艦橋の照明さえ付ければいい。

 艦橋もやっぱり誰もいない。この艦は雲神さんによると先祖の記憶と思い出から構成されているらしい。だとしたら、かつてここで戦っていた人達がいたのかな。

 僕は一回でいいからその人達と話してみたい気持ちになった。

 艦首に立って周りを見渡した。

 日は完全に沈み、海は漆黒の闇に覆われた。

 体にあたる風がとても気持ちよく感じる。

 「おーい秋雲。早く来い。肉無くなるぞ」

 艦首でボーっとしている僕に坂井さんが呼び掛ける。

 僕は無言で艦首から艦内に戻り、砂浜に向かった。

 砂浜のバーベキューは僕のさっきの感想を完全に忘れさせた。

 駆逐艦秋雲の照明はそんな僕達を見守るかのように照らし続けた。

 午後八時頃まで食べたり、喋っていた。そこに坂井さんがひとつの提案をした。

 「ねぇ、打ち上げ花火やろうよ」

 坂井さんの提案はとても良かったが、打ち上げ花火の花火が無い。古鷹さんはその点を坂井さんに聞いたが、坂井さんは「考えがある」と言って引かなかった。

 その考えとは、魔法で花火をつくるというものである。

 僕は不幸なことに、ジャンケンに負けて、その花火打ち上げ役になった。

 あの緩やかな坂を登って打ち上げ予想地点に着いた。あの午前中の魔法の猛特訓でやった成果を見せる時だ。

 杖を土に刺して棍棒のゴツゴツした部分を空に向ける。これで準備完了である。

 坂の下では榛真君や坂井さん、山岸さん、雲神さんが今か今かと花火を待ち望んでいる。

 「いっちょ修行(半日)の成果見せたるか」

 土に刺した杖に魔法を込めて、その杖を左手で掴み続けた。

 すると、それぞれの先端から花火が打ち上げられた。

 打ち上げられた花火は赤や緑、オレンジなどさまざまな色を出した。

 「これが修行の成果」

 僕は下から花火を眺めながらしみじみと半日の修行を思い返した。

 花火を見るとき、下は見ず、どんな色かどんな模様かと花火を見るだろう。

 花火はそして消える。また新しい花火が上がる。今、目の前のことで精一杯だ。まさに今がその状態だ。

 僕達は、見逃していた。忘れていた。坂井が国際指名手配犯である事を。

 そして、僕達は知らない。僕達にかけられた呪いのことを。

  

 外で花火が何度も上がる中、レーベンとモワは屋敷にすでに戻っていた。

 「あああ。花火見なくていいんだ。綺麗なのに」

 「だったら見てくれば良いじゃない」

 「一緒じゃないと嫌だ」

 レーベンはまるで子供からの八つ当たりを受けている様な気持ちであったが、目的の部屋に到着した。

 部屋の中はさまざまな機械や無線機でいっぱいである。

 「さて、何か来てないかな」

 レーベンは椅子に座り、機械から出てきたプリントに目を通した。

 「レーベンってば、いっつも情報収集欠かさないよね」

 「フッ、だって、カ国総司令部から新聞社まで私の情報網があるのよ。そして…」

 「待って。話題とズレてるし、その先の話はもう何百回も聞いたことある」

 モワはこの先の話は暗記に近いほどレーベンから聞かされていた為、全力で拒否した。

 レーベンは自らの自慢話が出来ないのを少し残念に思いつつも、次々に情報が書かれたプリントや新聞を確認する。

 「な、」

 レーベンは一枚の新聞に目を通した途端、椅子から立ち上がり部屋の中をクルクル回りながら読んだ。

 「私とした事が、とんでもない事を見逃していたわ」

 「どうしたのレーベン。そんなにヤバいこと?」

 「えぇ。この国の存亡にも関わる」

 モワはこの時、レーベンの考え過ぎと思っていた。

 それでも、レーベンの表情はいつもよりかなり真剣である。そもそも、立ち上がって部屋をクルクルすること事態、今までのレーベンの行動からして異常である。

 新聞をチラッと盗み見ると、大きな文字で「国家非常事態宣言、午後四時ニ大本営宣言ス」と書かれていた。

 

 花火は空に次々と打ち上げられる。その光景を見ていたのは秋雲達だけではなかった。

 花火がひとつ上がるたびにその姿を漆黒の海上に表した。

 それは、フラット軍港から出撃した装甲巡洋艦一隻や水雷艇多数の艦隊だ。

 クリ島では何があったか、それは三石と別れた時まで遡る。

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