それぞれの価値観。
稚拙な文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
『あなたは、命が尊いものと思いますか』
ありふれたこの問いに、いいえと答える人は少ないだろう。それが偽善であれ、嘘であれ、多くの人は尊いと答える。
だけど俺は、いいえと答えても良いと思っている。これは別に少数派を気取ってだとか、そういう事ではなく尊重すべき意見として受け止めて欲しい。
『生きる事とは、それだけで素晴らしい事です』
この世界、デナイに産まれて16年間、こんな宗教じみた思想に当てられ続けたせいかと、狭い部屋で1人頭を抱える。
生きる事が悪い事なわけが無い、人も動物も死んでしまえば悲しいもの。人によっては虫だって木だって、愛着があれば死んだ時には涙を流す。
窓から射し込む光に目を細め、思考を中断と言う形で終わらせる。
深いため息を1つ、そうして深呼吸をする。
腰掛けた椅子から身体を持ち上げ、コップに残る水を一気に飲み干した。
時刻は朝の7時を過ぎたところだ、仕事へと向かうべく家を後にする。
生きる事が素晴らしいかどうかはさておき、腹は減る。飯を食うためには働いて稼いで、食材を買う。もしくは食材そのものを調達する。
どちらかと言えば後者の方が好みだが、そこまで腕っぷしに自信があるわけでも無いので、出来る仕事で稼ぐ事にしている。
「マコト、今日も早いな! 外仕事は体力勝負だ、何か食ってけよ」
俺の名前を呼ぶのは、商店を営む髭を蓄えたうさんくさいおっさんだ。片手を上げ挨拶を返し、おっさんの店先へ近寄る。
「あんたもな、レパル。仕事とは言え毎日飽きずに良くやるよ、尊敬する」
小さく拍手をしつつ冗談を飛ばすとちげえねぇ、と豪快に笑っている。
「今日も街の外に行くのか?」
レパルは、俺がいつも買う安いパンの入った袋を差し出しながら聞いてくる。受け取り、銅貨を3枚手渡した。
「ああ、多少危険はあるが実入りが良いからな」
「だとしたら気をつけるこった、昨日の深夜に人型の魔物が現れたんだとよ。撃退成功の報せは出たが、討伐には失敗したらしいしな」
続けてレパルは、真面目な顔で俺に注意を促した。
「……怖いこと言わないでくれよ。情報ありがとな、暇なら無事を祈っといてくれ」
別れを告げ、街の出入り口へ向かうため通りを歩くがいつもより街が騒がしい。レパルの言っていた人型の魔物が原因のようだ。
「……なるほど」
街の出入り口にある依頼掲示板。誰でも自由に依頼を出し、内容と報酬に納得すれば誰でも受ける事が出来る。
それを見た瞬間、色々と理解し、つい独り言がもれた。
報酬が普段より大きく上乗せされている。薬草採取や近場の情報収集といった類の簡単とされる依頼でさえ、いつもの5倍はある。
行くべきかどうか迷っていたが、これなら行かない理由はない。簡単な薬草採取の依頼書を手に取り、出入り口の門にある小窓へ差し出す。
「……本当に行くんですか? 今は大人しくしていた方が良いと思いますが」
「こんなチャンス逃せないだろ、今日はいくつかこなしたら終わりにするさ」
気をつけて下さいね、と念入りに心配されたが出入り口の扉を開いてくれた。心配してくれる人が居るのはとてもありがたい。
「必ず戻るよ、ありがとな」
扉をくぐり、薬草採取へと向かうべく街を後にした。