第一話 「豚鬼来襲」
【大豚鬼帝国・執務室】
「遂に大陸のほとんどを我が手中に収めたブヒ。ここまで来れば、東アジアの支配は目前だブヒ。」
大豚鬼帝国の大元帥、豚鬼は、薄暗い執務室で重厚な机に地図を広げた。太い指で地図を叩くと埃が舞い上がり、彼の鋭い目がぎらりと光る。側近である豚鬼海軍元帥の拳が一歩進み出て、恭しく報告する。
「残すは日本の占領地のみでありますな。」
豚鬼は低い声で笑い、顎を撫でながら言った。
「だが、そのまま攻め込むのは危険だブヒ。まずはここを押さえるブヒ。」
彼の指が示したのはフィリピンだった。
拳が眉をひそめ、慎重に口を開く。
「フィリピンですか…そこには米軍が多数駐屯しているはずですが。」
豚鬼は唇を歪めてニヤリと笑い、拳を一瞥した。
「米軍も日本軍もまとめて叩き潰してやるブヒ。それが我が帝国の力だブヒ。」
1936年3月、豚鬼率いる軍はマニラ近郊に上陸を開始した。米軍による激しい迎撃が続くも、2か月後、フィリピンとその周辺地域は大豚鬼帝国の支配下に落ちた。
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【横須賀鎮守府】
日本の横須賀鎮守府の一室では、第一航空艦隊司令部の要員たちが緊迫した会議を開いていた。
「大豚鬼帝国が急激に領土を拡大している。このままでは我が国も危ういな。」
山本五十六大将はじっと地図を睨みつけた。薄暗い部屋に響く彼の声は冷静だが、内に秘めた焦りが滲む。
軍令部から出向中の黒島亀人少将が立ち上がり、力強く進言する。
「海軍として早急に対策を講じるべきです、このまま手をこまねいていては、敵の侵攻を許すだけであります!」
参謀の一人が苦々しく呟くと、山本が鋭く問い返す。
「ではどうする?」
黒島は一息置き、目を光らせて答えた。
「大規模な軍拡しかありません。具体的には戦艦の増強です。敵は多数の戦艦を保有しており、それに対抗できる戦力が必要です。さらに補助戦力の増強も急ぐべきです。」
「分かった。戦艦の増強は軍令部と協議して決定する。補助戦力の増強計画も進める。詳細は後日伝える。」
こうして日本軍は、迫り来る脅威に対抗すべく軍備増強へと動き始めた。
同年12月、第七十回帝国議会に新型戦艦「A140-F6」の予算が提出され、1億793万3075円で建造が承認された。翌1937年3月、計画名は「第一号艦」「第二号艦」と仮称され、第一号艦『大和』は11月4日に呉海軍工廠で起工。1941年頃の完成が見込まれた。この大和型戦艦の存在は国民や海外に秘匿され、対豚鬼海軍との決戦に備えて極秘裏に建造が進められた。
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【大豚鬼帝国】
日本が軍備増強に奔走する頃、大豚鬼帝国は着実に勢力を拡大していた。
「フィリピン及びその周辺を完全に支配下に置いたブヒ」
豚鬼は執務室の椅子に深く腰掛け、満足げに呟いた。拳が一礼し、進言する。
「次は日本のみです。しかし、彼らはかなりの戦力を持っているはず。油断は禁物かと。」
豚鬼は拳を睨みつけ、低く唸るように答えた。
「分かっているブヒ。まずは海軍を屈服させ、日本本土への道を開くブヒ。」
1937年8月、大豚鬼帝国海軍はフィリピンから北上を開始し、日本への奇襲を仕掛けた。
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【戦艦長門・艦橋】
「呉にて豚鬼海軍が襲来したとの報告です!」
水兵が息を切らせて艦橋に駆け込み、叫んだ。長門の艦長が眉を寄せ、即座に問う。
「迎撃は出ているのか?」
「柱島に停泊していた戦艦『扶桑』『山城』以下、巡洋艦4隻、駆逐艦6隻が迎撃に向かっています!」
「敵艦隊の規模は?」
「報告では戦艦2隻、巡洋艦4隻、計6隻とのことです!」
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【柱島・戦艦扶桑】
戦艦『扶桑』の艦橋では、艦長の草鹿任一大佐が双眼鏡を手に指示を飛ばしていた。
「敵艦隊を確認!距離一万二千!」
見張り員の声が響き、草鹿は鋭く命令を下す。
「主砲発射用意!撃ち方始め!」
轟音とともに36cm砲12門が一斉に火を噴き、砲弾が弧を描いて敵艦へ向かう。次の瞬間、敵戦艦の弾薬庫に命中し、爆発とともに真っ二つに割れて沈んでいった。
「敵艦撃沈!」
乗組員の歓声が上がる中、草鹿は額の汗を拭い、次の標的を見据えた。
「左舷の大型戦艦を狙え。主砲発射用意!」
再び砲弾が放たれるが、敵艦の厚い装甲に阻まれ、凹むだけで有効打にならない。
「敵艦発砲!!」
見張り員の叫びに、草鹿は即座に反応した。
「取り舵一杯!衝撃に備えろ!」
艦が大きく傾き、甲板が軋む中、敵の砲弾が左舷をかすめた。火花が散り、艦体が震える。
「被害報告!」
「左舷に被弾!損傷は軽微ですが浸水しています!」
「応急作業を急げ!」
草鹿の声が響く中、敵戦艦が再び接近してきた。
「このままではやられる!弾種を通常弾に換えろ!」
数分後、砲術長が叫ぶ。
「全主砲斉射準備完了!」
「撃て!」
轟音が再び響き、砲弾が敵艦の前部に次々と命中。だが、敵は怯まず反撃してきた。
「敵戦艦発砲!」
激しい衝撃が扶桑を襲い、左舷に火災が発生。三、四番砲塔が使用不能となる中、草鹿は冷静に指示を続けた。
「艦橋を狙え!撃沈できなくとも指揮系統を潰すのだ!」
主砲の照準が修正され、再び砲弾が放たれる。次の瞬間、敵戦艦の艦橋が吹き飛び、炎と煙が空を覆った。指揮系統を失った豚鬼艦隊は混乱に陥り、次々と白旗を掲げた。
こうして日本は、豚鬼海軍との初戦に勝利を収めたのである。