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IG夏の陣、二日目(3)


「マイスイート~! とっても素敵だったよ~!」

「んぎゃあ!?」

 

 ジャージに着替え、ホテルに帰る前に屋台で昼ご飯を買っていこうという話になって控室から出た途端だった。

 後ろからものすごくいい匂い。

 振り返るとノースリーブ軽装魔王スタイルの朝科旭(あさしなあさひ)率いる魔王軍ベストメンバー面々。

 ひ、と喉が引き攣る淳。

 

「ああ、我らのオーニソガラム。今日も素敵な笑顔でしたよ。とても愛らしかったです」

「ひ、檜野(ひの)先輩っ」

「え~、久貴(ひさたか)くんは回りくどいなぁ。日織くんはリリーでいいと思うな☆ ねえねえ、スイートとオーニソガラムとリリー、どれがいい?」

「むぎゅう! ……ぜ、全部結構ですぅ……! 暑……! ひ、雛森(ひなもり)先輩苦し……」

 

 魔王軍の三年生トリオに左右背後から抱き締められて、一気に熱が籠る。

 星光騎士団の直後が魔王軍の出番だったらしい。

 見れなくて残念、としょんぼりする気持ちよりも、ライブ帰りの熱のこもった体にこの暑い時期の廊下でむぎゅむぎゅ抱き締められる方がつらい。

 

「顔面が! 綺麗な顔面に囲まれて、どうしていいのかわからない! こんなのもはや拷問! 目のやり場に困る! 魔王軍ファンの皆様ごめんなさい!」

「謝っちゃったやん」

「ドルオタは大変だねぇ」

「た、助けた方がいいんじゃ……」

 

 ぐぬぬ、となる魁星と周の横で二、三年の先輩たちは傍観。

 幸せ苦しそうな悶絶をするドルオタは、ついに魔王軍箱推しファンに謝って許しを乞い始める始末。

 その様子をもっと複雑そうに見ているのは、魔王軍の二年生組。

 麻野と茅原だ。

 

「先輩たちがその一年を可愛がる理由は聞いたけどよぉ……なんかこう、アレじゃねぇ?」

「いや、もう少し具体的に言って。なに言いたいのかなにもわからない」

「だーからー! アレだよアレ! 生々しい!」

「馴れ馴れしい?」

「それ!」

 

 だいぶ意味違って聞こえてきたそれに茅原が完全に怪訝な顔になって麻野に聞き返す。

 そこ間違えるのよくない。

 

「馴れ馴れしいのは先輩たちの方だからな。はあ……先輩たち、我々ライブ帰りなのですから汗臭い衣装と体でお気に入りに抱き着いたら嫌がられるのでは?」

「「「はっ!」」」

 

 茅原に言われてハッとした三人がようやく淳を解放してくれた。

 はあ、と息を吐き出す淳。

 ドルオタとしてはアイドルに愛でられすぎるとキャパオーバーになってしまう。

 過度なファンサは他のファンに殺されかねないので、嬉しいよりも生きた心地がしないのだ。

 

「そっちも勝ち抜いたん?」

「え? ああ、今年は三日目に進めたよ。魔王軍では三日目に進めたのは快挙だね」

「勇士隊も進んだみたいやなぁ。やっぱIG夏の陣の間までは大人しゅうしてんのやろうか」

「そうなんじゃない? というか、今年は他のプログループがなんというか……覇気がないのが気になるね? どうしたのだろう?」

「言われてみると確かにそやなぁ? なんでやろ?」

 

 スマホ片手に現在の勝ち抜き情報を眺めつつ、花崗が朝科の意識を淳からそっちに移す。

 暴れん坊の問題児集団、勇士隊は夏の陣の間も警戒されている。

 だが、三年生たち曰く他にも気になることがあるらしい。

 

「プログループ、元気ないんですか?」

「毎年もっと激戦なんよ」

「去年は魔王軍(私たち)、二日目で落ちたからね。そのくらいプログループのパフォーマンスは素晴らしいものだったのだよ。しかし今年はどうもやる気がないというか、他のことに気を取られているような……?」

「マジそれなー。なんかさなんかさー、お客さんと向き合ってない感じするよねー、マジで」

「そうですね、どうしたのでしょうか? さすがに明日はシード枠も参加して参りますから、簡単に勝ち抜けはできなくなりますが……」

「なに言ってんすか! 俺たちがプロと遜色ない成長を遂げたってことっすよ!」

 

 と、魔王軍三年生に噛みついてくる麻野に、朝科が首を横に振る。

 

「それももちろんあるかもしれないけれど、プログループ全体がそんな雰囲気なのだよ。そうじゃないのは綾城がいる『Blossom(ブロッサム)』くらいだろう。控え室や廊下ですれ違うグループ、みんなどこもなにか警戒しているように見える」

「そうそうー。どうしたんだろうねー? マジ気になるんだけど?」

「綾城さんはなにかおっしゃっていませんでしたか?」

「なーんも。うちの珀ちゃんは過労気味でそっちが心配やねん」

「ああ、プログループの方もリーダーでしたものね、彼。勝ち抜いて抽選で星光騎士団とぶつかったら、どうするつもりなのですか?」

「普通に出演するんやて。着替え持ち歩いとるよ」

「「「うわあ……」」」

 

 ハードすぎる。

 同じく三年生でその反応なのだから、やはり綾城のやっていることは結構な無茶なのだろう。

 

「一応明後日からの仕事はスケジュールNGで、珀ちゃん抜きでやるつもりやけど」

「そうなんだね。夏の陣が終われば年末の『聖魔勇祭』があるし、そっちの練習が忙しくなるだろう。その前にちゃんと疲れを癒しておいてもらわなければね」

「トップ4の限定ユニットの練習も入るんやもんなぁ。珀ちゃんほんま体がいくつあっても足らんやろ。心配やわ」

「上総くん、このままおとなしくしてると思えないしねー」

 

 雛森が出した名前に双方の二、三年生ズが神妙な面持ちになる。

 魁星が心の底から不安そうに「マジでヤバい人なの?」と淳に耳打ちしてきた。

 残念ながら、淳はステージ上の石動上総(いするぎかずさ)しか知らない。




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