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IG夏の陣、二日目(1)


 ――八月十七日、IG夏の陣二日目。

 

「それでは行こうか」

『はい!』

「はいはーい」

 

 十二時四十分、中盤が出番になった星光騎士団。

 一曲目は一年生たちの専用曲『Nova Light』。

 二、三年はバックダンサーに徹して、MCを挟んだあとは綾城と花崗――コンビ名綾花(あやか)の『Sunflower』。

 昨日七人でライブしたが、一年生たちは自分のパート以外ほとんどバックダンサー。

 唯一目立ったのはラップを担当した魁星だが、今日は三人が前だ。

 舞台袖から登場した際の歓声は昨日よりも大きい。

 

「っ……!」

「魁星」

 

 あまりの圧。

 ステージ上から見える客席に怖気ずく魁星の背中を、淳がやんわりと押す。

 

「思い出して。大丈夫だよ。SBOのライブの時もこのくらいの人に見られてたんだから」

「……! そ、そっか……」

「ハァーーー。そうですね!」

 

 同じく緊張していた周も息を吐き出して、ステージの中心へと進む。

 センターは一番顔のいい魁星。

 右側に周、左側に淳。

 後ろに先輩たち。

 足がもつれそうになりつつ、定位置に立つ。

 スタートのポーズを取ると、魁星が本格的に大きく息を吸って吐き出す。

 本当に緊張している。

 

(大丈夫、先輩たちもいるから)

 

 けれど周も表情が固い。

 淳もそれなりに緊張しているし、この客数のステージはさすがに初めてだ。

 昨日よりも熱気が上がっているし、昨日よりも前に出てパフォーマンスを行うのだから。

 それでもやはり――三人の中では場数が違う。

 

(一応第二部隊の隊長だから、二人を少しでもサポートしなきゃ)

 

 でも、同時に自分のパフォーマンスも落としてはいけない。

 前奏が始まり、閉じていた瞼を開けた瞬間口元も笑みを浮かべる。

 

「笑って」

「「!」」

 

 先輩たちも「え?」という目で淳を一瞬見た。

 歌い出しは魁星だ。

 けれど、前奏の中で淳が呟いた言葉はしっかりとマイクに乗って客席にも届いた。

 そのまま笑顔を客席に向け、魁星も歌い始める。

 先程まで間違いなく強張っていた魁星と周の顔が、笑顔になった。

 

「〜〜〜♪」

 

 そのあとは比較的順調。

 練習の成果をしっかりと活かして、今できる最高のパフォーマンスをできたと思う。

 なにより、この大きなステージでのパフォーマンスは最高に気持ちがいい。

 客席から観るステージはいつもキラキラしていた。

 

(わかる。俺もアイドル大好き! 元気をもらえる。頑張ろうって思う。俺の大好きなアイドルを――魁星と周のことみんなにも好きになってほしい)

 

 観て、観て、俺の同期、かっこいいでしょ、という気持ち。

 自慢している気持ちで歌って踊っていたらあっという間に終わってしまった。

 ステージから見るサイリウムは綺麗で、魁星と周のカラーを見つけると嬉しくなる。

 ステージにいながら、完全にドルオタ気分。

 

「ちょりすちょりーーーす! IG夏の陣にご来場くださった皆様〜、あざすあざす〜! 星光騎士団、花崗(みかげ)ひまりくんやで〜!」

「こんにちは、紳士淑女の皆様方。星光騎士団、綾城珀(あやしろはく)と申します。今聴いていただきましたのは星光騎士団第二部隊――一年生たちの専用曲『Nova Light』です。いかがでしたか? フレッシュでしたね」

「ちょいちょいちょい。珀ちゃんいややわ〜、その言い方やとわしらがフレッシュじゃないみたいやないのぉ」

「ええ? そんなつもりはありませんけれど……そう聞こえてしまいました? すみません」

「フレッシュさならわしらも負けてへんやろぉ? なぁ?」

 

 と、マイクを客席に向ける。

 色々な答えが、客席各地から聞こえてきた。

 

「ほら〜、そないなことない〜ゆう声がたくさん聞こえるわ〜」

「本当ですね! 皆様方、ありがとうございます」

 

 丁寧に胸に手を当て、お辞儀をする綾城。

 その紳士のような振る舞いが「かっこいいいい」となる。

 客と同じ感想を心の中で叫ぶステージ上のドルオタ。

 

「言うてわしと珀ちゃんは来年卒業やからな〜。IGは今年で終わりやん? 三日目まで行きたいなぁ?」

「あ、僕は『Blossom(ブロッサム)』の方で三日目ほぼ確なので」

「見捨てないで!?」

「もちろん見捨てないですよ。星光騎士団の団長は僕ですから! というわけで、皆様方、お手持ちのスマートフォン、パソコン、リモコンで星光騎士団への『いいね!』をよろしくお願いしますね♡」

「もう『いいね!』押してくれた人ー! うんうん、ええ返事が聞こえてくるでぇ〜。でももっと、もっと聞かせてぇなー! もっかい聞くで〜? 『いいね!』押してくれた人ー!?」

 

 流れるような投票依頼。

 やはり二日目に生き延びているだけはあるが、プロとはいえここまでMCに慣れているグループは、実は意外に少ない。

 お笑い芸人にもよく聞く話だが、トークは後回しでまずは芸を磨く。

 歌って踊るだけでいっぱいいっぱいで、この大舞台でこれだけスムーズに話すことそのものがかなり緊張にさらされる。

 それをものともしないのだから、やはり三年生――というよりも東雲学院芸能科のスパルタな教育方針は間違っていないと言えるだろう。

 中でも星光騎士団はファンサービスにも力を入れているグループ。

 花崗のように、度々客席にマイクを向けるのはファンには嬉しい交流だ。



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