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IG夏の陣、裏(3)


「石動財団はちょっと別の方向の意味になりますが、それは“不思議案件”に抵触するので内緒です。どちらにしても神座(かむくら)はいい意味では使われていません」

「そんな感じするね」

 

 他のデータも見比べる。

 ある一定の線の上に、誰も到達していない。

 この線に到達したら、恐らく――

 

(確かにSBOはかなり精密にリアルの声を分析して反映させていた。再現するついでに歌唱の解析データを集めてたってことね。悪趣味~)

(しかし……“とある要素”というものを持ちえる者は存外数が多いようですな)

(それな。……あの音無って子に唾つけたのもSBOで事前に知ってたから――かねぇ? はぁ、相変わらず抜け目ないっていうか)

 

 と、目だけで会話するツルカミ。

 サラダを食べ終えた彗が唇をぺろ、と舐める。

 

「恐らく、このIG夏の陣でも神座探しは行われることでしょう。こちらとしてもそれを調べる用意があります。ただ連中に比べて我らにはSBOに用いている解析システムがある分、アドバンテージがあります。ので――できればあなた方には飛び抜けて実力を示していただき、連中の目がまだ未熟なアイドルを抱き込もうとするのを、遠慮も容赦もいらないので骨も残さず薙ぎ払ってきてくださいね」

 

 語尾にハートでもつきそうな美しく可憐な笑顔で、とんでもないことをさらりと言う。

 IGは万を超える全国のアイドルが参加し、一年の前半の王者を決める戦い。

 この三日に残る四十あまりのグループは、ほぼプロ。

 経験はあるものの、それも約三年ぶり。

 横目でアイコンタクトをし合う。

 

((守るんじゃなくて薙ぎ払うの?))

 

 と、いう純粋な疑問。

 今の彗の発言的に、守るべき神座候補とやらを守るどころか舞台から蹴り落とせと言っているように聞こえる。

 

(たまに思うけどこの人も結構過激だよね)

(過激ですな)

 

 口には出さない。

 だがそれなりのつきあいなので言いたいことは頭の中でしっかり会話になる。

 

「薙ぎ払っちゃっていいの? 本気でやるよ、俺」

「ん? 栄治?」

「ええ、いいですよ。やっちゃってください、遠慮も容赦もなく。スパーと。あなたたちが優勝してしまえば、IGで神座(かむくら)候補になりえる人材を見つけ出すことそのものが困難になりますからね。ふふふ」

「す、彗殿?」

「社長からのオーダーだし、一晴も本気でやってよね。俺だけ本気でやったら全部食べちゃうよ? お前ごと、ね」

「む……」

 

 煽る笑み。

 彼の魅力をたっぷりと詰め込んだ、妖艶で自信の詰まった“プロ”の。

 ぐぬぬ、と睨む。

 鶴城一晴にとって、アイドルといえば“岡山リント”だけだった。

 完全無欠の頂点アイドル、当時は『Ri☆Three』。

 その一角。

 到底肩を並べられるような存在ではなく、幼馴染の友人、程度の仲。

 けれど神野栄治は違う。

 ゼロからアイドルを始めた時、同じくゼロからのスタートだったのに器用にアイドルをこなす“対等なライバル”。

 誰よりもアイドルに興味なかったくせに、誰よりも真面目にアイドルになった男。

 

(ああ、まったく。本当に消えそうなほどに儚いくせに、血気盛んで好戦的。私と同じ“空っぽ”に見えて、やはり幸せになるべき資格のある熱の通った“人間”ですな、栄治)

 

 そういうところが、尊くて好ましい。

 強く強く憧れて、擦り切れてほとんどなにも感じなくなった底に残った“心”で尊敬している。

 同時に『負けてなるものか』とも。

 少しだけ残った“心”を動かせるもの。

 演技の世界ですっかり擦り切れた鶴城一晴という“子役”にとって、そういう人間(モノ)は希少だ。

 大切にしなければ。

 

「栄治は本当に煽るのがお上手ですね。――食えるモノなら食ってみなさい。返り討ちにして差し上げましょう」

「そうこないとねぇ」

「二人とも負けず嫌いで可愛いですね。それではよろしくお願いします。お残しはお相手に申し訳ないですから、ひとかけも残さず平らげてあげてくださいね」

「「当然」」







 ――八月十六日、午後四時。

 

『結果発表~!』

『初日のバトルで残ったのはこの二十組! 明日はこの二十組でさらに戦うよ! 明日以降、歌う曲数は二曲! トーク時間も加わるから、推しアイドルをたくさん見つけられるといいね!』

 

 ウインクした司会兼殿堂入りのアイドルの“頂点”『CRYWN』の空風マオトと岡山リントが頭を合わせてモニターに映る。

 次にモニターに表示されたのは、今日の『いいね!』数ランキング。

 

『ダントツトップは――Blossom(ブロッサム)! 今年の五月にデビューしたばかりの新進気鋭だね! なんと今日は四人中二人だけで初戦を突破!』

『は? すごすぎなーい? メンバーはモデルの神野栄治、俳優の鶴城一晴、学生アイドルグループ星光騎士団の綾城珀と、同じ学生アイドルの甘夏拳志郎! えー、一晴じゃーん!』

『リント、鶴城一晴と知り合いなの?』

『幼馴染だよー。テレビ局でたまーに会ったら遊ぶって感じの浅い仲だけどねー』

『そうなんですね』

 

 二人のサポート役である某テレビ局アナが興味深そうに聞き返す。

 実は午前中に同じ話題を取り扱っている。

 それでも、朝から観ていた人は少ない。

 この話題初見の人の方が多いだろう。

 

『それではBlossomのパフォーマンスを見逃した方のために、観ていただきましょう!』

 

 そう言ってツルカミコンビの歌うBlossomの新曲がモニターに流される。

 あの衝撃をもう一度。

 あるいは、初見さんは驚きのパフォーマンス。

 

『……これ、すごすぎん? え? 初日にこれぶっ込む、マ?』

『ヤバいよねこれ。誰が作ったのこの曲。歌えるこの二人もヤバい』

『ヤバいですよね。サブスク出てるんでしょうか……?』

『聞いたところによるとワイチューブの春日芸能事務所チャンネルで、MVが公開されているそうです!』

『えー、絶対お気に入り登録してリピしまくるんだけどヤバすぎでしょこの中毒性』

 

 大絶賛である。

 無理もない。

 局アナさんも目がマジである。

 

『鶴城一晴と神野栄治といえば有名なツルカミコンビだよね! 三年前? に、学生セミプロとして殴り込んできた!』

『そうそう、星光騎士団!』

『その星光騎士団も新入生を加えた七人体制の新曲を披露し、セミプロながら初日を突破してるね! まあ、先輩たちがあんなパフォーマンスしたあとじゃあ手なんて抜けないよね』

『それに星光騎士団のリーダーの綾城珀くんは、そのBlossomのリーダーも兼任しているんでしょう? 明日は星光騎士団、Blossomの両方で出演かな? え? めちゃくちゃハードだね!? というか、抽選で当たっちゃったらどっちを優先するのかな?』

『さあー? それも見どころになりそうだねー!』

『うんうん! 明日も午前九時からIG夏の陣が放送されるから、みんな忘れず応援しに来てね!』



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