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IG夏の陣初日(1)


「予約完了っと」

「動画予約オッケー?」

「オッケー。それじゃあ、僕先に『 Blossom(ブロッサム)』の出番に行くね」

「はいはーい。無理せんとな」

「うんまあ……僕は出ないんだけど、それでも一応リーダーだから。すぐ戻るよ」

 

 八月十七日――

 IG夏の陣の初日。

 今日から三日間、一度負ければそこで終わりという緊張感漂う熱い戦いの火蓋が切って落とされた。

 昨年の夏の陣、星光騎士団は三日目初戦で敗戦。

 冬の陣は三日目二回戦目で敗退した。

 つまり、三日目までプロと戦ってこれた、ということらしい。

 会場は広大で、複数の財団と財閥がスポンサーとなって一年中アーティストがライブや劇団が公演を行っている。

 近隣にはテーマパークもあり、IG会場は総勢50000人収容の広さ。

 ステージは三つありスマートフォンから簡単に『いいね!』で投票できる。

 何回でも『いいね!』を押して投票できるので、ファンは最初から最後まで連打するのが通例。

 音無家は腱鞘炎になりそうなほど連打したと語る。

 宇月と後藤に「指大事にして」と心配される始末。

 控え室で青い顔のままベンチから動けない魁星と周も、会場の大きさとお客さんの数にようやく現実を理解した、らしい。

 

「そんな緊張することあらへんよ? わしらの出番は午前十時十五分。お相手はプロアイドルやけど地方のご当地アイドルってやつ。知名度ならうちの方が上やし、午前の出番のやつはいわゆる“前座”てやつや。時間が早ければ早いほど、知名度が勝つ」

「え? それじゃあ……でも、ええ?」

「なに? 魁星。どうしたの?」

「綾城先輩がいるBlossomって俺らより出番早……」

 

 言葉を詰まらせる魁星。

 それに対してアイコンタクトをする淳と花崗。

 

「星光騎士団の結成は約十年前。Blossomは今年の五月デビューだよ」

「お、おう」

「でもメンバーの知名度は抜群や。中でも子役から活躍しとる一晴先輩と、国内外で注目株の人気モデル栄治先輩の『ツルカミコンビ』――この二人が初戦に新曲で出る言われたら、お相手が可哀想になるわ」

「だよねぇ。なんていうか、さすが星光騎士団をIG本戦常連にした伝説のツルカミコンビって感じぃ。戦い方を熟知してるっていうかぁ」

 

 IG本戦初日は新曲をぶつけるのがセオリー。

 知名度が高い者が生き残るからこそ、元々のファンへ向けて新曲を披露して投票を呼びかける。

 かつ、新規を呼び込む。

 二日目に繋げるための、必要な布石だ。

 

「ァァァァァア……客席から見たいぃ……! スマホ投票早く開始しないかなぁぁぁあ!」

「そんな淳ちゃんに悲報や。わしら舞台袖待機時間中やからスマホはロッカーへイン」

「ええええええええええええ!?」

 

 音無家永遠の騎士(ナイト)、神野栄治の出番をスマホから観る気満々のドルオタにはまさしく悲報。

 膝から崩れ落ちた。

 

「その代わり舞台袖から生で観れるで。客席よりも間近で!」

「客席から見たいんですううぅ……! せめてうちわを持って行っていいですかぁぁあ!?」

「あーうん、まあ、ええよ。なくさへんようにね」

「え……? 推しうちわ持ってきてるの……?」

「もしかしたら出番次第では解散後にBlossomを見られるかもしれないと思いまして、万が一に備えて」

「あ、そ、そぉ……まあ、自分の荷物だからいいんじゃなぁい……?」

 

 ドン引きの宇月。

 だがさすがに慣れ始めている表情。

 ロッカーに入った紙袋から、ツルカミコンビの推しうちわ――かなり年季が入っている――を取り出す。

 

「Blossomバージョンとどっちを持っていくべきだろう? やっぱり新作のうちわの方が目立つかな? でもツルカミコンビうちわの方が手に馴染んでるしな……」

「全部持っていけばええんと違う? わしら振るの手伝うで?」

「え? いいんですか!? て、天才ですか!?」

「ちょっとぉ、ひま先輩! ドルオタを甘やかしすぎじゃないぃ!?」

「ええやん、先輩たちやし。――よそへのプレッシャーにもなるしなぁ」

 

 わっる。

 と、二年生組が眉を寄せる。

 実際花崗はかなり悪い顔をしていた。

 なにが? と言わんばかりの一年生ズに、SDを抱えていた後藤が「知名度の高さアピール。先輩たちとの繋がりを見せると、周囲の出番待ちアイドルへプレッシャーになるんだよ。想像するとわかる」と教えてくれた。

 確かに、真横で知り合いがうちわを振っていたら「同業者に応援されてるアイドルがいるのか」と緊張が増す。

 初日の午前中に出るのはセミプロか、地方のご当地アイドルが多いので。

 Blossomは鳴物入りでデビューしたばかりなので、知名度は非常に低い。

 それでもメンバーの知名度は四人中三人が全国区。うち二人は世界にもちらほら。

 すでにファンが同業者内にもいる、というのは、半数が敗退するIGで凄まじいプレッシャーになる。

 勝負する相手もさぞ緊張しているであろうに、これから戦う相手がプロと知り合いだと思うとより緊張して本来の実力を出しきれないかもしれない。

 

「ちなみにわしらの前は『魔王軍』やて。淳ちゃん、魔王軍の推しうちわ持って行ったら喜ばれるん違う?」

「持っていきます!」

「え……ナッシー応援して大丈夫? 魔王軍とか朝っぱらから観るもんじゃないよ? ナッシーが応援してやる気漲ったアイツらのパフォーマンスとか朝からR指定になりかねなくない? 失格になりかねないよ?」

「「「あ……ああ……」」」

 

 心配する方向はそれでいいのか宇月。

 だが、言わんとすることは納得すぎて顔を見合わせる一年生。

 

「いややわぁ、美桜ちゃん。それが目的やん」

「「わっる」」

 

 確信犯だった。




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