夏の陣の作戦
一年生ズは歌える曲が今のところ新曲を含めて六曲。
先輩たちについていける、お客さんに披露できるレベルのものが六曲だ。
他は練習中。
「なるほど――宇月先輩に『死ぬ気で詰め込め、まだ死んでないんだから入るだろ!』と厳しく言われていたのは一曲でも歌って踊れる曲を増やさなければならないからだったのですね」
「え? 美桜ちゃんってそんな言い方キツかったの……?」
周の暴露で綾城の前では猫をかぶっていた宇月の普段の姿がバレた。
思い切り目を逸らす淳。
だが、周の言う通り一年生で六曲披露できるのは星光騎士団第二部隊だけだろう。
「まあ、それに勝ち抜いて優勝、ね。わかった?」
「わ、わかった。とにかくめちゃくちゃ歌って踊るんだな!」
「うーん、まあ、そ、そうかな?」
それだけわかっていれば、いいの、か?
首を傾げつつ荷物を持ち上げる智子と父を振り返る。
「それじゃあ、父さんも母さんを手伝ってくるよ」
「智子は帰りまーす。星光騎士団の練習スタジオに入れただけで今年の運を使い果たした気がするよぉー。魁星くん、周くん、またSBOで遊ぼうねー!」
「うん!」
「ぜひ」
「妹を家まで送ってきてもいいですか?」
「そうだね。……え、家?」
「お兄ちゃん、心配性すぎ! タクシーで帰るってばぁ!」
「で、でも……」
変質者ホイホイの妹を、徒歩で帰すのは不安だ。
心配する淳を見て、綾城が「それじゃあ僕らの練習を見学していく?」と笑いかける。
「い、いいんですか!?」
「基本的に部外者は業者以外お断りなんだけれど、智子さんは今回業者として通行証を発行しているから、まあ……いいかなって。トイレは淳くんが連れて行ってあげてね」
と笑顔で言われるが、言葉の裏には「信用はしているけれどそれでも万が一を考えてトイレに行く際は監視役よろしくね」である。
一応私物の盗難事件などは特に気をつけて、と昨日注意されているので。
「ぜひ感想も聞かせてほしいし、一年生たちはお客さんの前でパフォーマンスをする回数はあればあるほどいいと思うし」
「わあー! わあー! ほ、本当にいいんですか!? う、嬉しい〜! 夏の陣に演る演目ですよね!? 見せてもらっていいんですか!? もちろん星光騎士団には投票しますけど!」
「厳しめに評価してほしいな」
「がんばりまーす!」
と、いうわけで淳が心配する中、Bスタジオに移動する。
音無父はパソコン室へ。
そしてパソコン室から花崗がBスタジオにやってきた。
智子がいるのに驚いたけれど、最終確認も兼ねているので人に見てもらった方がいいだろうと説得されて「まあ、珀ちゃんがそう言うなら」とそれでもやや渋い表情。
智子もちょっと申し訳なさそう。
「まず初日は七人の新曲をぶつけて、二日目は一年生たちの『Nova Light』を一曲目、二曲目は僕とひまりちゃんの『Sunflower』。MCは僕とひまりちゃんが担当するね」
「はい」
「三日目は七人の新曲、MCは二年生が担当、二年生の専用曲。勝ち抜けられたら僕の専用曲、MCは僕が担当、ひまりちゃんとこたちゃんの専用曲。勝ち抜けられたら『before it scatters』と『A flower of love patterned with stars』。二年生、三年生中心に歌って一年生はバックダンスをよろしくね。MCは全員で。勝ち抜けられたら八代目の曲『forward』をアレンジしたものと七人の新曲。MCは全員で。ここまでは大丈夫かな?」
「「「「はーい」」」」
「はい。実質一年生はわからないものはバックダンスに徹する形ですね」
「そう。そのために入団からずっと体力作りとダンスの練習を徹底させてきた。夏の陣は君たち一年生にとっては新曲に注力してもらえればいい、と」
やってきたことには意味があった。
とはいえ、定期ライブとは桁違いの会場と客員数。
一年生が経験してきたどのステージとも桁が違う。
「場数踏んでもあの人数を前に歌うと思うと身震いしてまうわー」
「IGだけはやっぱり慣れないよね〜」
「空気違いますもんね〜。参加する面子もヤバいしぃ。本戦にパスできるだけでもすごいことですもんね〜。本戦常連になれてるのがほんとすごいっていうか。先輩たちのおかげですよぉ。僕らの世代で予選落ちになるようになったらってプレッシャーやばーい」
ガチガチ震える宇月の言っていることに、一年生ズも顔を青くする。
次世代として、それは確かにプレッシャーだ。
「そんなこと言わないで、美桜ちゃん。星光騎士団は歴史がある分、曲数は多い。アレンジして使えるから大丈夫だよ。淳くんもいるし」
「はい! 宇月先輩、任せてください! 初代から十四代目まで星光騎士団の曲と振付は網羅しています! 知り合いに音楽関係者もいるのでアレンジも頼めます! 個人的に初代の曲のアレンジをして最後に歌うとか原点回帰っぽくてオタクが大好きな展開だと思うんですけど、どうでしょうか!?」
「おお! それええやん! 冬の陣でやろか」
「そうだね! 凛咲先生に相談しておこうか」
「オ、ァッ……こ、心強〜い……」
一気に謎の安心感が出た。