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音無家総力戦?(3)


「〜〜〜♪ 〜〜♪♪♪」

 

 シャープでカッコいい系の夏の陣用の七人曲『Great Dipper』。

 冒頭花崗以外が歌を歌いつつ、花崗のラップが混じる独特な曲調。

 中盤に後藤のラップ。

 最後に魁星のラップが入る。

 もう練習した魁星のラップは、先輩たちに引けを取らない出来栄えだと思う。

 三回歌い終わるや否や、智子が全員分の水とタオルを差し出す。

 水分補給している最中、両親が撮影したばかりの映像をタブレットに転送してチェックをしていく。

 

「どう?」

「うーん、結構まとまってる。このまま使えるけど……個人のアップもほしいかな」

「きゃー! この角度の珀様がヤバーい! お父さん天才すぎない!?」

「でしょー? パパもこの角度の珀様かっこいいと思ってぇー」

 

 水を飲みながらなんとも言えない表情で淳を見る綾城。

 花崗に「えーと、趣味と実益を兼ねてはる?」と聞かれた。淳に。

 にこり、と笑ってごまかす音無家長男。

 

「いつも可愛い美桜ちゃんが真顔でキリッとしてるのもカッコいいわあ〜。ここ、ここのこれ、と、これとこれとここは切り取って使うから、後ろに下がる感じの絵を混ぜてこう、こうしてこうしたいんだけど」

「なるほど! いいね! じゃあここの角度からこーーーうやって撮影する感じにしようかな」

「琥太郎くんのラップのところ上から下にするか、下から上にするのもいいと思うんだけどね」

「智子は斜め上から斜め下から見下ろされる角度がいいと思う〜! 見下ろされるっていうか、見下される?」

「「それだ! 智子ちゃん天才!」」

 

 なにやら盛り上がってまいりました。

 

「俺たちMVって初めて撮影するんですけど、結構なんかこう、何回も撮影するんすね?」

「せやねぇ。でもさすが『映像会社Underdog』のスタッフさんっちゅーかなんちゅーか、色々短縮してはるで。いつもは打ち合わせっちゅー擦り合わせを二、三回してからディレクションに移るんよ。それも一発でまとまることあんまあらへんし」

「そうそう。今回は楽曲提供してそのまま淳くんのお母様のインスピレーションだけでディレクションまで進めてもらったんだけど、ざっくりとした絵コンテを見せてもらったら曲のイメージをとても綺麗に表してもらっていて驚いたよ」

「あれ本当すごかったですよねぇ! ナッシーんちのお母さんもすごいけど、ドローンの撮影っていうのも初めてでめっちゃびっくり!」

「というか、三機のドローンを一人で同時に、しかもこの狭いスタジオ内で自在に操作するってのいうのがもう人間離れしてる」

 

 後藤まで心底感心したように言う。

 淳にはいつもの両親なのだが、やはり凄まじいスキルなのだろう。

 というより、智子も顔をつっこんでタブレットを眺めつつ「ここをこうしてこーした画がほしーよー」「ここの全員の動きがマジ神〜!」とキャッキャしているのがもう完全にドルオタ。

 その様子に、つい不安になる。

 目線がファンすぎるのだ。

 もちろん、そのドルオタ目線だからこそいいものができるのだろうけれど。

 

「すみません! もう数枚ほしい画があるんですけれど、もう一度お願いできませんか!?」

「は、はい。大丈夫です。一度で大丈夫ですか?」

「はい〜! あと一回で完璧に撮ってみせます!」

 

 親指を立てて、三機のドローンを浮かべる音無父。

 その様子に綾城と花崗の表情が少し、引き締まった。

 

「さすがプロやなぁ。ほしい画を最低限の回数で撮影し切ってみせるとか」

「うん。ここまでの撮影者は初めてだね。『 Blossom(ブロッサム)』の方でもMVは撮影したけど、四回で全部撮影するなんて……。淳くんに見せてもらった映像の予算と見合わない完成度もこれは納得かも」

 

 二年生組がそんな三年生たちを見てから、ジト、という目で淳を見る。

 なぜ? そんな目で見られる理由がわからない。解せぬ。

 笑顔でごまかしつつ、内心首を傾げる淳。

 

「クランクアップでーす。『Great Dipper』はこれでオッケーです。次は一年生だけの『Nova Light』の撮影に入りますね」

「「は、はい!」」

「はーい」

「すごいねぇ、まだ撮影開始から一時間しか経ってないや」

「こりゃー残りの時間、夏の陣の仕上げに使えるんちゃう?」

「そうだね。僕まだ歌詞不安だし……」

 

 と、先輩たちはスタジオの端に移動。

 次に一年生ズが定位置につき、前奏が開始した。

 三人の周りを飛び回る三機のドローン。

 ブンブンとうるさいけれど、これらの音は編集で消される。

 インカムに取りつけられた小型マイクで録音も同時に行われるので、三人とも練習の成果を先輩たちにしっかりと見てもらう。

 振付やトレーニングにつき合ってくれた宇月はドヤ顔だ。

 つまり、宇月のお眼鏡に適う程度には完成している、ということだ。

 

「「「〜〜〜♪♪♪」」」

 

 最後まで歌い上げて、一息吐く。

『Nova Light』も三回連続で歌ったので、歌い終わると魁星と周がドシャっとその場で座り込む。

 

「二人ともどうしたの!? 大丈夫!?」

「いや……はぁ、はあ……キツ……さすがにほぼノンストップ七回は……!」

「少し休ませてください!」

「あ、あー……」

 

 淳はあと三回は余裕そうだが、なかなかに汗は出ている。

 智子からタオルと水を受け取って、お礼を言う。

 

「うーん、一年生たちのフレッシュさが出てていい〜〜〜! 淳ってばバッチリアイドルやれてるじゃない〜。うちの子やっぱり天才じゃないー?」

「んねー。目線もしっかりほしいところのドローンに向けてくれてて完璧! 周くんのパートのシーン、目線を一機に絞ってもらえないか試したいね。あと魁星くんのここ、脚の動きが二人とずれてるから合わせたバージョンがほしいというか」

「そこだけ切り抜いて撮らせてもらう?」

「いや、あとここ、背中から右上に動いて……」

「あ、やだー、淳〜。ここ演技間違ってるわよ」

「え? うそ、どこ!?」

 

 和気藹々とした音無家のやりとり。

 タブレットを確認して、顔を赤くする淳。

 ここは笑顔ではなく、甘くない表情で~という注文を完全に忘れていた。

 全体の流れとして淳のパートの部分は”絞める”ところなのだという。

 個別でそのパート部分のみ、撮影することにした。



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