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蟲毒


「ッ……!! 勝負……『決闘』しろ! 音無淳!」

「え、ええええ!?」

 

 あまりにも唐突に指先を突きつけ、淳へそう宣言する日守。

 A組生徒と朝科も日守の宣言に目を丸くした。

 

「俺が勝ったら、お前は魔王軍に来るな!」

「えー、勝手なことをしないでほしいな。それにそんなことをしても無駄だよ? 綾城くんには今月の定期ライブに『侵略』を行うと宣言済みだしね。今の星光騎士団の戦力だと上手く『侵略』で淳くんを手に入れられても、来月には『決闘』で取り返されてしまうだろう。まあ、卒業まであきらめずに口説くつもりだけれど」

「ぐっ……!」

「『決闘』を淳くんに申し込むよりも、私と檜野くんと雛森くん全員に『決闘』を申し込んで『淳くんを魔王軍に入れるな』に、した方がいいよ?」

 

 そろり、と淳の横に天皚が来て「同じグループ同士で『決闘』できるの?」とこそこそ聞いてきた。

 できるよ、とこっそり頷く。

 魔王軍と勇士隊の”特権”は他所のグループやユニットから人材を横取りするものだが、星光騎士団の”特権”はその限りではなく、生徒同士のいざこざ解決にも自由に使用されるようになっている。

 以前は星光騎士団メンバー最低一名の同席が必須だったが、一昨年あたりから「他グループの中立に判断ができる、教師に許可を得た者なら誰でもよしとなった。

 それ以降、一種の宣伝イベント――コラボとして『決闘』は手軽問題解決方法として広まったのだ。

 

(まあ、調べてみたら本当に蔵梨柚子の時代は戦国時代みたいな状況だったみたい。当時の『決闘』開催記録を見ると、中堅グループが新規グループとやり合う回数が定期ライブで午前中から午後まで十件以上あった。今考えると異様だよね)

 

 そして朝科の言う通り、淳を魔王軍に入れないようにするより先輩たちを説得する方が確実。

 ”説得”というのはいわゆる”実力を示す”という意味だ。

 魔王軍は星光騎士団以上の実力主義。

 練習は星光騎士団や勇士隊以上にぬるいが、だからこそグループ規定の練習以上の練習をして実力を身に着ければ容易く四天王所属の”ユニット”へ昇格できる。

 いかに同期を出し抜くか。相手を蹴落とすか。

 魔王軍は一見ゆるいが、中身は蟲毒だ。

 日守がいきなり顔のよさだけで四天王のユニットに加入できたのは、恐らく他の新入生への発破でもあったのだろう。

 そして半年弱であっさりと切り捨てられる日守は、先ほど朝科が言った通り練習を疎かにしていた。

 まんまと魔王軍の”蟲毒システム”に気づかず、呑まれたのだ。

 淳などのドルオタからすると魔王軍の”蟲毒システム”、星光騎士団の”地獄の洗礼”、勇士隊の”度胸試し”は有名なのだが、予備知識なしで入学してくる者はまんまとハマる。

 もちろん、バトルオーディションの内情など、ドルオタでも学院内の裏の事情など知らないことも多いけれど。

 そういう意味では、A組には淳という”情報源”がいる。

 B組よりも、その手の情報を仕入れやすい。

 

「もっとも――君一人で私たち三人を『決闘』で倒すのは無理だろうし、私たちが卒業したあとも四天王のユニットに君はもう入れないかもしれないけれどね。君はルイルイ……麻野ルイの忠告を三度も無視したし、期待を裏切られたルイルイは君をもう自分のユニットには迎えない。縋るなら一将か、私たちが卒業したあとの南か西のユニットだろう。でも一将はあれでルイルイより直情型だ。多分一回でも期待を裏切るようなことをすれば一発で除名にしてくるよ。魔王軍(ウチ)は他より練習が圧倒的に楽だけれど、だから君みたいに侮ってサボる者はそれ相応の結果をプレゼント! 星光騎士団や勇士隊のように早々に篩にかけて追い出さない分、取り返しがつかなくなることもあるから……ふふふ……たちは悪いんだけれどね。頑張ればそれに見合った地位を与えるし、実際今月の定期ライブからはちゃんと努力した子が四天王のユニットに昇格する。三人もね。落ちたのは君だけ」

「は……は!? お、俺の代わりに……!?」

「ううん、代わりではないよ。追加されるのは西軍に長緒くんと南軍に飯葛くんと北軍に緋村くん。東軍には淳くんを入れるつもりだけれど」

 

 ちらり、と淳が見たのは教室内で顔を青くしてハラハラしながら朝科を見つめる魔王軍に入った五人の生徒。

 淳に魔王軍の練習システムの真意を聞いていたので、彼らは通常の練習プラス、居残り練習をしていた。

 A組の五人中三人が引き上げられるのも魔王軍の”蟲毒システム”によるものだが、他の二人も淳に聞いていたので腐らず練習を続けるそのこと。

 そしてやはり、知っている、ということは強い。

 一種の武器だ。

 四天王のユニットに加入を許されたのは、全員A組の生徒なのだから。

 

「あのね、うちは一見するとゆるゆるのぬるま湯。でもそれに甘えているといつの間にか置いてけぼりになるんだよ。だって東雲学院芸能科でもっとも普通科への移籍が多いのは魔王軍(ウチ)だからね。ふふふ、君はどうするかな? どうなるかな? 優しい虐待に流されて、思考も努力も置き去りにして自分で自分の未来を台無しにしちゃうかな? 私は日織くんや久貴くんに言わせると言葉足らずらしいから、色々教えてあげたつもりでも足りてなさそうだけれど……どっちでもいいよね。だって思考停止した兵隊なんて魔王軍(ウチ)にはいらないんだもの」

 

 それはそれは残酷で優しい笑み。

 魔王の呼び名に相応しい、一切の慈悲のない言葉。

 心底、自分が仲間と認めた者、溺愛すると宣言した者以外には興味がない。

 むしろ慈悲を与える必要があるのか? と言わんばかり。

 

「おや、朝科くん? また来ていたのですか? 一年の校舎に来すぎですよ。『侵略』を開催するのならそれまで待っていては?」

「ああ、もう授業の開始時間か。愛しい人との逢瀬は本当にあっという間に時間が過ぎ去ってしまうなぁ。まあ、今日は余計な邪魔が入ったから、思う存分とはいかなかったけれど……。とても残念です。このあと仕事で今日はもう会いに来れないのに」

「そうなんですね。お仕事頑張ってください、朝科先輩」

「淳くん♡ 君にそう言われたら今日一日すごく頑張れる~~~」

「さっさと行きなさい、朝科くん。それと、日守くん、君も教室に戻りなさい」

 

 担任の先生が教室に入ってくる。

 日守のこともB組に追い返し、教壇で心底「まったく歴代魔王はこれだから」と呟く。

 

(((え? 歴代……?)))

 

 先生の一言に、なぜか淳にクラス中の視線が集まる。

 だが淳にはその視線の意味がわからない。

 それについては、休み時間に聴いてほしい。





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