十二代目星光騎士団
「じゃあーん! 元星光騎士団十三代目団長、『NEWVOICE』所属の蔵梨柚子くんでーす!」
魔王軍が最後の一曲を歌い終わってから、入れ替わりにステージへ上がったのは蔵梨柚子。
大人気声優の突然の登壇に、魔王軍で温まり切っていた客席はすさまじい歓声で出迎えた。
現実のステージならば空気が震えたことだろう。
さらに後ろから登ってきた鶴城一晴が中心で先ほどの檜野よろしく胸に手を当てて片足を後ろに下げつつ紳士的にお辞儀をする。
「同じく――元星光騎士団十二代目副団長、春日芸能事務所『 Blossom』所属、鶴城一晴です。いやはや、仮にもプロモーション担当の私と栄治を差し置いて盛大に盛り上がらないでいただきたいですな。盛り上がるのはここから……何しろ星光騎士団にいただいたステージですからね。卒業生とはいえ我らも元々は星光騎士団。参加する資格は十分にありますよね」
笑顔で客席に問いかける一晴に、チコがよろよろ立ち上がりながら「一晴様ぁぁぁ!」と叫ぶ姿が見える。
淳も「ううううう、リアルなら推しうちわ振って応援するのにぃぃぃい……!」と歯を食いしばった。
サイリウムだけじゃ満足できないオタク。
推しうちわを実装してもらえるよう、運営に要望を出そうと誓う。
オリジナルデザインの旗や衣装を作れるのだから、推しうちわもきっと作れるはず。
レイドイベントのために今後も東雲学院芸能科のアイドルを招待し、ライブするなら必要だと思うのだが。
「では、我らが現役時代に歌っていたなつ歌でも歌いますか」
「ですねー! 一応おれたちの専用曲もサブスクにあるから~、課金している人はぜひ歌ってみてねぇ~。それじゃあ、先におれ、蔵梨柚子の専用曲『Love・Game』」
星光騎士団時代に歌っていた専用曲を歌い始める蔵梨柚子。
声優として歌う仕事も多いため、人気声優がステージで歌を披露することに抵抗はないだろうが、人気声優だからこそ無料で歌う彼を見られるのは貴重だろう。
柚子としては「無料で遊ばせてもらっているから、一回くらい無料で歌ってもいいか」ということなのだろうけれど。
「~~~♪」
テンポのよい、ポップな曲調。
星光騎士団はバラード調のノリのいい曲が多く、花崗の曲も落ち着きのあるテンポの速いバラード調の曲だ。
星光騎士団らしくはないといえば、星光騎士団らしくはない。
けれど、蔵梨柚子らしいといわれれば非常にらしい。
まさに蔵梨柚子のためだけに作られた、専用曲。
「「歌、上手っ!?」」
「だよねー!」
「当たり前でしょおー!」
気づくと淳の隣にサイリウムを持った宇月が来ていた。
魁星と周が驚くのも無理ないが、以前歴代星光騎士団メンバーが合同でライブした時に聴いてなかったのか。
まあ、あの頃はライブ自体不慣れで自分の出番をこなすことで頭がいっぱいだった。
先輩たちの歌を聴く余裕はなかったのだろう。
それプラス、あの頃に比べて魁星たちが成長している。
魔王軍のパフォーマンスを見たあとだからこそ、自分たちのできることとできないことがわかってきている今だからこそ、わかるようになっているのだ。
「柚子様はすごいんだから! 声の高低差、緩急、強弱……自由自在なんだよ! しかもそれは理論的に出し方を独学で勉強してわかっててやってるんだから!」
「そうだよ! 学生時代から声優として活動しており、声の魔術師と二つ名声の魔術師って呼ばれてるんだから!」
「っていうか柚子様が歌ってるんだから黙って拝聴しろ」
「「は……はい……」」
宇月のドスの利いた声。
うんうん、と頷く淳とともに、宇月はサイリウムを振る。
「続けて一晴先輩の『斬花繚乱』ー!」
柚子のあとは鶴城一晴の専用曲。
こちらも星光騎士団らしくはない、和風調の曲だ。
それだけれはなく、刀を引き抜き剣舞を加えてステージをすべて使ったパフォーマンス。
これが歴代でもっとも再現不可能と言われた鶴城一晴の専用曲。
熱した会場が、静かなる熱に支配される。
目が逸らせない。
瞬きする間も惜しいほどに美しい。
白刃の放つ逆光と、力強い歌声。
広範囲を自在に動き回るので、次はどうなるのか予想もつかない。
一曲終わるのがこんなにあっという間だったことはないだろう。
「――では最後は……」
「十二代目星光騎士団の専用曲『雪月風花』」
「「!」」
どこからステージに上がってきたのか。
淳たちがステージに注目していて気がつかなかったのか、現れたのは星光騎士団制服の神野栄治。
神野栄治、鶴城一晴、蔵梨柚子――十二代目星光騎士団が揃ってしまった。
ので、淳と宇月、客席のチコがどえらい顔で大興奮し始める。
「「ぎゃーーーーー!!」」
「なんでそんなに大興奮してるの!?」
「十二代目だよ! 十二代目星光騎士団第一部隊! マジ一番人気の世代! 歌もダンスもパフォーマンスもファンサもなにもかも、未だ越えられない壁になっているんだよ! 特にIG! 初めて東雲学院芸能科でIGに出場したのは黄金の十二代目なんだよ! 珀先輩がそれを超えるんじゃないかって言われてるけど、それでも初出場を学生セミプロで果たした功績は大きく、十二代目のおかげで東雲学院芸能科のアイドルグループが予選を通過しやすくなったのは間違いないんだ!」
と、熱く語る淳。
そうこうしている間に、その十二代目の歌が始まる。
個々の個性もしっかり現れた、指先から顔の角度まで客がもっとも自分を美しく映す場所をわざと魅せているダンス。
普通に歌って踊っているはずなのに……。
「栄治様、エッッッッチ!!360度どこから見てもエッッッ!!」
「わかるぅ……十二代目マジ全員カッコエロいぃぃい……!!」
リアルなら恐らく興奮しすぎて泣いている宇月と淳。
客席から見れば、表情管理までしっかり見られるけれど、それでも客席からは見られない後ろからのダンスはそれはそれでレア。
夢の時間は一瞬か。
いつの間にか『雪月風花』は終わっていた。