和解した?
魔王軍は初心者大歓迎、数で勝負。
三軍内でじわじわとした蟲毒を行い、そこから出られた者を四天王が率いるユニットに配置する方式。
顔のよさは最大級の武器。
そう思って少し甘やかしたが、こんなことなら日守も三軍の蟲毒から始めさせればよかったな、と反省する朝科。
「なにより他の一年生二人――なんなら魔王軍の一年より歌も動きもいいですね。これは想像以上に……。くっ、色んな意味でバトルオーディションの時に旭さんの言うことを聞いておかなくて失敗いたしましたね……!」
「マジそれな。声はちょっと、もう少し出てもよさそうな感じだけど……体幹が他の一年生二人と桁違いに安定してるし、多分体力も筋力もある。背もこれから伸びるだろうから 、魔王軍のニ軍ユニットでも十分やってけるポテンシャル……。ウワー! マジ惜しいことしたじゃん! 〆切開けでイライラして旭くんの言ってること頭ごなしに否定しなきゃよかった! マージ日織くん一生の不覚レベル!」
「いえいえ、雛森先輩はバトルオーディションの日、〆切開けだったんですから仕方ありません」
フォローを入れてくれたのは北四天王、茅原一将。
先輩たちの不信行動には眉を寄せていたが、ステージ上での淳のパフォーマンスを見て考えが変わったらしい。
「雛森くん、でしたかな? 君はなにか書きもののお仕事でもやっているのですか?」
端の方から彼らを見ていた鶴城が首を傾げながら近づいてくる。
会話の節々に出る「〆切開け」なんて、芸能科からはあまり聞かない単語なので気になってしまうのは仕方ない。
「ん~? 日織くんは校内のグループから有償で曲を書いてます。作曲と歌詞、両方です。最近は学校を通してプロの人とかからもお仕事をもらうのでマジ多忙気味っていうか? 楽器も一通りできる子日織くんなので、みんなに頼られます」
「『聖魔勇祭』トップ4が決まる校内売り上げランキングには関係ないのが可哀想ですよね」
「ああ~、雛森日織って聞いたことある~。最近アイドル系のゲームの楽曲で見かける~! え? 君がそうなの? おれ、『スタダン』で歌った『May tomorrow be sunny』超好き♡ ワイチューブで鬼リピしてる!」
え、と鶴城と魔王軍の面々が蔵梨を振り返る。
敵認定していた蔵梨からの援護射撃が予想だにしなかったんだろう。
「すただん……? ああ、『スターリズムダンス』のことですかな? 私も”亘理尊”役で出演しましたな。なんでしたっけ? おとげー? とかいう……」
「そうそう、アイドル育成ストーリーの音ゲー。最近落ち目でサービス終了の危機だったけど、人気作家の甘宮晴日が三章のストーリーを担当してから腐女子層を取り込んでダウンロード数が右肩上がり! 甘宮晴日って先輩と同じ劇団出身じゃなかったっけ?」
「甘宮先輩は舞台脚本担当も手掛ける俳優ですな。ああ、あの人ゲームのシナリオまで書くようになったんですか」
「なんで他人事なの~? 先輩、今度の『スタダン』のイベントのメインキャラじゃん。新曲のMV収録したんじゃないのぉ?」
「一月頃の記憶は曖昧ですな~。最近は久しぶりの夏の陣の準備で『スタダン』はどうなっているのかさっぱりわかりませんぞ」
「『花鳥風月』ですか? ちなみにそのイベントの曲も日織くんが担当しました。公開日が近いんですね。ちょっと楽しみです」
「おれも~~~! アプリゲーも音ゲーもあんまりやらないんだけど~、『スタダン』の曲は好きなのが多いし三章の主人公のボイスやらせてもらったからチェックしてんの。へ~、君があの雛森日織だったんだ。まさか現役魔王軍の子だったなんてねぇ。今度の『スタダン』ワイチューブ特番で話してもいい~?」
「詳細を聞かせていただければ検討します」
なんて話をしていると星光騎士団の曲が終わる。
蔵梨に「このチャンネル」と教わる雛森。
その雛森の首根っこを、檜野が掴む。
「出番ですよ、日織さん」
「そうだった。蔵梨先輩、そのお話はまたあとでもいいですか」
「いいよぉ~」
MCで場を繋ぐ花崗以外の星光騎士団メンバーは、その光景に困惑した。
歌っている間に魔王軍と蔵梨柚子が和解している……? と。
全員が頭にはてなマークを浮かべる中、登壇してくる魔王軍。
「我ら東雲学院芸能科が誇る三大大手グループの一角――魔王軍!」
花崗が紹介すると、わかりやすく朝科の空気が変わる。
アバター越しでも、肌で感じた。
ステージ中央に来た瞬間、魔王軍メンバーの衣装がステージ仕様に変化した。
漆黒のファー付きマントを靡かせた魔王と、執事のような装いの檜野、拷問官を思わせる軍服風衣装の雛森、胸元が大きく空いた露出の多い蛮族のような衣装の麻野、戦場歩兵のような迷彩衣装の茅原。
騒めく客席。
まあ、星光騎士団しか見てこなかったSBOユーザーはあまりの毛色の違いに混乱するのは仕方ない。
仕方ない、と思っていた淳だが、ステージ下で「ギャアアアアアアアアア!!朝科様ああああああああああああ!!」という雄叫びのような悲鳴に驚いて目を向ける。
ライブ応援アイテムサイリウムを両手に持ったゴリラ……ではなく智子のアバターを見つけて半笑いになった。
まあ、いるよね。
「チコちゃんじゃん。え、チコちゃんって綾城先輩最推しって言ってなかった?」
「三大大手グループのリーダーは等しくチコちゃんの最推しだよ」
「あ、そぉ……なんだぁ……」
もちろんどうしても優先順位はある。
神、神野栄治様が不動で覆りようがないのは当然として、その後輩である綾城は現在の最推し。
僅差の最推しが朝科旭と石動上総、というだけで。
「というか、淳はいつの間にサイリウム装備になっているんですか?」
「え? ここからは魔王軍と鶴城先輩と蔵梨柚子先輩のライブでしょ? 応援するでしょ? ステージ下りたら、そりゃ……」
ここからは魔王軍のオンステージ。
星光騎士団メンバーは一度ステージを下りて、客席とは隔離された場所で見守る。
だが、そこからでもステージを観ることは問題なくできる。
ので、淳は当然のようにサイリウムを装備。
ドルオタモードだ。
「え? ねえ、そのサイリウムってどこで手に入るの? 僕も柚子様を応援する時に使いたいんだけれど?」
「「う、宇月先輩まで……!」」
淳が「クエスト欄からライブを応援する、を受諾するとゲットできますよ」と教えると、速攻でサイリウムを手に入れる宇月。
もうなにも言うことはない星光騎士団メンバー。