一年生スペック
「お、時間やね。ほな始めようか」
ボーン、ボーン……と、広場の時計塔の時計が鳴る。
午後六時。
階段からステージに上がる今代星光騎士団メンバー。
団長綾城不在なので、副団長の花崗が先陣を切ってマイクをオンにする。
「ちょりすちょりすー。星光騎士団第一部隊副団長の花崗ひまりくんやでぇー! 最近SBOを始めた人も、そうでない人もわしらのことを知っている人も知らん人も、今夜はわしら星光騎士団ライブを楽しんでほし~な~! ま、でもまずはわしらの自己紹介! 改めて――わしは花崗ひまりくんやで! そんでわしと同じ第一騎士団の~~~」
「にゃは~! 東雲学院芸能科二年生、星光騎士団第一部隊宇月美桜ちゃんだよぉ~!」
「同じく東雲学院芸能科二年生、星光騎士団第一部隊の後藤琥太郎でーす!」
一瞬、「後藤先輩……」と困惑する一年生ズ。
やはりまだ慣れない。もしかしたら後藤が卒業しても慣れないかもしれないぐらい、ギャップがすさまじい。
「東雲学院芸能科一年生、星光騎士団第二部隊隊長、音無淳です〜! 今夜は二十一時までゆっくりゲームとライブを楽しんでいってくださいね〜!」
「やっほい! 同じく一年で第二部隊所属の花房魁星だぜー! 先輩たちを食っちまう勢いで歌って踊るからみんなでたのしもーなー!」
「同じく一年、第二部隊所属の狗央周です。名前だけでも覚えて帰ってくださいね」
ラジオや専用チャンネルで多少、MCも鍛えられてきた。
入学した頃を思うとかなりスムーズに喋れるようになったと思う。
笑顔で手を振りながらステージの中央に進むと定位置につく。
三年を中心、二年を上座、一年は下座。
中央に立っていた花崗が大きく手を挙げて、ゆっくりと紳士的な礼を客に向けて行い「『Meteor shower』!」と、顔を上げた瞬間声を上げて星光騎士団のセカンドシングルのタイトルを叫ぶ。
綾城がいないので、三年生コンビの曲や二、三年用の専用曲は歌えない。
なのでセカンドシングル。
一年生パートに淳も加わり、六人での歌唱となる。
息の合ったダンスは、今までの練習の成果が出ているようで歌唱の開放感もあり、ミスなく踊れることも気持ちがいい。
(あ)
と、思っていたのは淳だけだったのか。
魁星と周は表情が硬い。
フルフェイスマスク型のVR機はらではの再現力なのだろう。
ちなみに淳も今夜はフルフェイスマスク型VR機解禁。
ならばなおさら、魁星と周の強張った表情は本人たちの今現在の表情そのもの。
ステップを踏んで淳が中心に一年生が後列に下がった時、淳は二人を振り返る。
お客さんに見えないように、違和感もないように曲の流れに合わせつつ本来の振付にはない両腕を一度上げる動きのあとすぐに頬に人差し指を当てて口角を上げて笑顔を見せた。
”笑って”という意味で。
淳の笑顔と仕草で、ハッとしたような顔をする魁星と周。
星光騎士団の曲はそれほど満面の笑顔を振りまく曲調ではないが、あまり固い表情で歌うものでもない。
どちらかというと、優雅に、余裕のある微笑みを浮かべて華麗に舞い、歌う。
星光騎士団初代団長、凛咲先生が立ち上げ顧問を務める貴族部というなにをするのかよくわからない部活で、常に求められるのは「優雅に余裕がなくても余裕があるふりをすること」。
淳には比較的造作もない、優雅で余裕のある騎士の姿を演じながら歌って踊ること。
培ってきたものが、他の二人とは違う。
「素晴らしいね。ますます欲しくなってしまった。まさかリハなしライブでこれほど堂々と振舞えるとは。まだ場数もそんなに踏んでいないはずなのに」
恍惚とした表情でステージを眺める魔王軍、朝科。
贔屓目抜きに、一年生の中では抜けてポテンシャルが高い。
ゆっくり笑みを深める。
魔王軍の――四天王のユニットメンバーとそれにもまだ至らぬ一年生たちにも、このステージは観るように指示していた。
リアルな姿ではなく、本人たちにアバター作りは任せているが魔王軍は魔王軍でフレンド登録とギルド制作を行っているので一目瞭然。
彼らからも星光騎士団のパフォーマンス力の高さは、勉強になるはず。
特に一年生たち――中でも顔がいいからと獲った割に、他のスペックは初心者以下だった日守はどう思っているだろう?
(顔がいいからちやほやされてきたのが丸見えで生意気だから、一番口調がキツイルイルイのユニットに振り分けたけれど……音無くんと比べてここまでスペックに差があるとあの子は三軍から始めさせた方がよかったかもしれないな。二軍の仕事をさせれば社会性も身について練習も頑張るかと思ったけれど、音無くんは即二軍ユニット入りさせても過小評価じゃない実力。星光騎士団の二軍が三人なのは毎年二年生の通常練習を、まっさらな入学したての一年生にやらせてふるいにかけるから。うちもその方針でやればよかったかなぁ? 魔王軍なんて名前のわりに練習結構ゆるいんだよね、魔王軍)
他の新入生もまるきり初心者。
なんなら歌はカラオケ、ダンスはやったこともない、という程度がゴロゴロ。
別にそれは構わない。
朝科たちもそこから努力してここまで自分を高めた。
高めれば高めるほど、自分の課題が見えてくるようになる。
そういう子でもアイドルになれる――芸能界の入口に立たせるのが東雲学院芸能科。
すでにある程度芸能界でなにかしら仕事をしており、勉学との両立を目指す西雲学園芸能科と差があるのは仕方がない。
それでもグループの方針的に、練習はまちまち。
星光騎士団は少数精鋭が基本。
新入生を入れるとすぐ、地獄の洗礼で根性と現状を見る。
淳以外の子は根性で残ったのだろうが、あのステージを見るに淳はスペックで残っている。
もうそこがすでに”差”だ。
(”初心者”しか入学してこないと言っても過言ではない東雲学院芸能科であのレベルの子は年に三人交じっていればいい方。それを引き当てるのはなかなか難しい。それを見極めるバトルオーディションだったけれど……私は言葉足らずのようだし、久貴は歌専門だし、日織はあの日よりにもよって〆切開けだったしねぇ……)