狂騎士蔵梨柚子
増えた。なんか。
グイグイ近づいてくる魔王軍の先輩から、花崗が淳を庇うように立つ。
だが、やはり魔王朝科旭、顔がいい。
そんな顔を近づけられたらあわわわわ……となる。
「魔王の名を受け継いだ者がステージの外で侵略を行うのは些かみっともありませんなぁ? 魔王なら魔王らしく、ステージ上で『侵略』してメンバーを揃えてはいかがですかな?」
「あ~、先輩先輩、魔王軍のそのシステム、先輩が卒業してから形骸化しちゃったんっすよぉ~。星光騎士団の『決闘』も主流に定着した代わりにグッズ売り上げと罰ゲームって感じにかなりぬるくなりましたけど。勇士隊の『下剋上』も最近聞かないし、なくなっちゃったんじゃない~?」
「おや、そうなのですか?」
「「ッ、鶴城一晴と蔵梨柚子、先輩!」」
星光騎士団の制服を纏った鶴城一晴と蔵梨柚子の登場に、目を輝かせるドルオタと声優オタ。
来るとは聞いていたけれど、きた瞬間魔王軍の面々が目を細め、剣呑とした空気に変わった。
「卒業した先達が来るとは聞いておりましたが、まさかアイドルデビューした鶴城先輩と『狂騎士』蔵梨先輩とは」
「……私たちが卒業したあと、いったいなにをしたのですかな? 柚子」
「ええ~? 人聞きの悪~い☆ かわゆすでヨワヨワな後輩ちゃんたちを思って魔王軍の『侵略』と勇士隊の『下剋上』を形骸化するまで『決闘』で潰しまくっただけですよぉ。先輩たちってば星光騎士団の知名度爆上げして満足して卒業しちゃったけど、ゲーム脳のおれには全部経験値にしか見えなかったんだもーん。経験値がその辺にゴロゴロしてたらそりゃ狩るっしょ? 定期ライブで決闘を毎月見れて、お客さんも大満足♡ み~んな幸せ♡ んね!」
「はあ……形骸化させた張本人だったわけですか。しかし口ぶりから決闘がゆるくなったのは柚子が卒業してからですかな?」
「そうだと思うよ~。春馬と隼と珀には戦後処理って言われちゃった」
「あれほど栄治に敵を増やすようなことをするなと言い含められていたのに……やったのですか。まあ、栄治もなかなかに喧嘩っ早いところはありますが、柚子はナチュラルに人の神経を逆撫でしますからなぁ」
深々と溜息を吐く一晴。
実際、この男はゲームの中ではネカマプレイで人をおちょくり倒し、時に搾取し、ハードをイージーにするプレイを好む。
それを可能にするプレイヤースキルを持ちながら、楽に生きる術を熟知している実に厄介なタイプの人種。
エイランに心底蔑まれているのもそういうところ。
淳と宇月は「え、そ、そうだったんだ」と驚いた。
お客さんとして通っていた淳たちに、学園の事情はほとんど伝わっていない。
確かに淳もここ二年ほど決闘ライブが減ったとは思っていたけれど。
「それに魔王軍の『侵略』ってメンバーの強制引き抜きじゃん? 未空くんに新入生を二人も持って行かれたの、ちょっとムカついてたんだよねぇ。やられたら倍返しは基本でしょぉ?」
「倍どころではないのでは? 勇士隊は完全にとばっちりですし、それ卒業まで続けていたんですよね? 完全に戦犯ではないですか」
「弱いのが悪いんでしょ~? 芸能界は弱肉強食っすよ~? そんなんだから東雲学院は西雲学園の芸能科に後手後手になるんですよ。学院の中でわちゃわちゃぬくぬくしてても、金の無駄! そんなの養成所ビジネスと同じですぅ~。おれ、あれ嫌なんだよねぇ。お金払って毎日、あるいは毎週授業を受けてるだけで満足して、努力もせずぬくぬくしてる人たち。お金をどぶに捨ててるのと同じじゃん。東雲学院芸能科は西雲学園と違って生徒会は普通科に依存してるし、そういうのも腐敗の原因だと思うんだけどね~。まあ、卒業したあとに外から見たらそう思うって感じだし、一生徒が学院の経営に生意気にも物申すのもどうかと思うけどさぁ」
「確かに我らには学院の経営方針に口を出す権利はないですな。柚子の言いたいこともわかりますが……それと柚子のやったことは関係ないのでは?」
ド正論。
だがそれに対しても、柚子はフンと鼻を鳴らす。
「おれが卒業する年の校内売り上げランキング上位五十五人、全員卒業前に事務所決ったんです~。先輩の時もその前の先輩たちの時も、上位十名程度だったでしょ? やる気がなかったってことが証明されたの~! 日向ちゃん辞めちゃったけどー」
「そんなに多かったのですか!? 日向が辞めた話しか聞いていませんでした」
「そ。先生にも『今年は芸能科始まって以来最多だ』って驚かれたよ。ハングリー精神が足らなかったんだよ」
「うーん、良し悪しですな。まあ、それと現役魔王軍の面々に柚子が嫌われているのはその行いの結果でもあるので、私からはなにもフォローいたしませんが」
「別にいいよぉ。今代の魔王軍も魔王一人しか事務所決ってないんでしょ? おれが卒業したあと結局元のぬるま湯に戻ったってことじゃん? はぁーーーー、汚れ役をやった意味なーい」
「さっき思い切り私怨と趣味だと自白しているので、なにも説得力がありませんな」
「やっぱりぃ? てへぺろ~」
魔王軍の面々の、苦々しい表情。
なるほど、本当に人の神経を逆なでなさるのがお上手である。