SBOのライブ前
「今年の前期トップ4、出ましたね!!」
「あ~、あれもう出たんかぁ。まあ、三年はクリスマスまで時間あらへんしな。どうせ去年と同じやろ」
「「トップ4?」」
「「今言う?」」
八月一日。
今日から夏休み、という日の夜に、星光騎士団の面々はSBOにログインしていた。
綾城が仕事の都合で遅くなるので、早めにログインして少し狩りに来ていたのだが、開口一番ウキウキの淳ことシーナが「綾城先輩がやっぱり一位でしたよ!」と告げる。
本気でわからんという表情の魁星ことセイと、周ことルカ。
ああ、知らないんだねぇ、と薄目になるミオと琥太郎ことルーヴァ。
「っていうか入学してもう半年以上経ってんでしょぉ? 逆になんで知らないのぉ? お昼に『イースト・ホーム』トップにお知らせ出てたじゃん。さてはナッシー以外チェックしてなかったなぁ!?」
「「「う」」」
「一年生はわかるんですけど、みか……ヒナ先輩も見てないんですか」
二年生ズに叱られて渋めな表情になるダメな一年生と三年生。
速攻で話を逸らすべく、セイがシーナに「それなに?」と聞き返した。
「もお、授業でやったのに。まあいいや。トップ4は半年に一度発表される東雲学院芸能科のアイドル売り上げ順位上位四名の通称だよ。東雲学院芸能科アイドルの人気を売り上げという形で数値化、順位付けすることでお客さんに『このアイドルを推せばまず間違いないよ』っていう入口にしたり、各芸能事務所にアピールもしているんだ。まあ、事務所アピールは主にまだ事務所が決まっていない生徒向けではあるんだけれど。ちなみに、なんで五人じゃなく上位四人なのかというと三大大手グループで固められがちなのと五人より四人の方がスケジュール合わせやすいかららしいよ。三人だと年末の一番大きなライブなのにこじんまりとして見えるし、四人がちょうどいいってコトみたい。で、後期のランキング上位四人は所属グループ無関係に臨時ユニットを組んで冬の陣のあとの東雲学院芸能科定期ライブの大型版、三大大手グループ主催『聖魔勇祭』でライブするんだよ。今年の前期に発表された総合ランキングの結果は後期になってもほとんど動かないから、実質その四人で臨時ユニットを組むことになるだろうってファンの間では有名なんだ! ちなみに学年別もあるよ。一年生、二年生のランキング上位四名も『聖魔勇祭』で臨時ユニットを組んでトップ4の前座ライブをやることになるから、ちゃんとチェックしておいた方がいいと思うな」
「「へ~~~」」
「へ~……って……なんで他人事みたいな声出してるの? セイは二位、ルカは三位だよ? 一年生は順位変動しやすいから気は抜けないけれど、今のまま頑張れば三人で『聖魔勇祭』でユニットを組めるんだからもっと喜んでもいいと思うんだけど」
「「え?」」
素っ頓狂な声で聞き返すセイとルカ。
しかしミオも謎のドヤ顔で「そうそう、ほんとだよ。まあ、僕らが指導したんだから当然の結果だよね」と胸を張る。
その言い方は、まるで――
「シーナが一位なんですね?」
「うん! 本当に嬉しい! 定期ライブで今まで一緒に応援していたドルオタ仲間がすごく応援してくれたおかげみたい。でも、ドルオタ仲間だからってグッズを買ってくれていたみたいだけど、ここからはそうもいかないから気を引き締めないとだめだよね。前期は俺、結局SBO内のライブでしか歌を歌えなかった。歌ってないのにランキングに載るなんて前代未聞だけど、正直全然実力じゃないから実力で選ばれた二人に負けないように頑張るよ」
「うわあ、真面目くんやなぁ。まあでも実際一年の前期から二年の前期までは上位も結構入れ替わるし、気ぃ抜かん方がええのは本当やね。ちなみにわしは何位やったん?」
「花崗先輩……じゃなくて、ヒナ先輩は総合五位でしたよ。売上も二千円差で、本当に惜しかったです。やっぱり大久保先輩は強いですね」
「ああ、大久保ちゃん相手にそんな僅差なら上出来やね。去年は八万円差ぁつけられとって、ああ、これ以上上は無理やなぁって思っとったから。ほんま、校内売り上げだけやなくてお仕事の報酬加わったら負ける気はせぇへんけど……ルールやししゃーないね」
なんて言葉自体は悔しそうなのに、腕を組んで肩を揺らしながら笑っている。
実際ヒナはすでに読者モデルではなく事務所所属のプロのモデル。
ランキングは「東雲学院芸能科公式グッズ売り上げ順位」で決まる。
外部依頼の仕事の報酬を足せば、このランキングは大きく変動するだろう。
あくまで外向け。
まだ事務所の決っていない生徒を、各事務所で精査する意味が大きいので仕事の報酬は含まれない。
仕事の報酬が含まれるランキングも存在するにはするが、校内向けに年度末に発表される。
だから余裕の笑みなのだろう。
「そ、そっか……淳ちゃんしかうちわ見たことなかったけど……俺らも一応応援してもらってるんだな。へへ、そう考えるとマジやる気出るね! ちなみに一年の四位って誰だったの?」
「B組の日守風雅くん。魔王軍東の四天王麻野ルイがリーダーを務める魔王軍東軍所属! 身長172センチ、体重58キロ、京都出身でお好み焼きとお祭り好き。趣味はお好み焼きソース作り、特技は弦楽器一般。魁星もカッコいいけど、B組の風雅くんと御上千景くんは飛び向けて顔がいいよ~。魁星と風雅くんと千景くんを並べてチェキ撮りたい!」
(((((ドルオタ出てるなぁ)))))
一年生のデータも頭に入っているのだろう。
恐ろしい。
しかし、セイがじわりと変な顔をする。
「俺、顔カッコいい?」
「え? うん! 魁星、顔カッコいいよ!」
「その――風雅くんと千景君とどっちがカッコいい?」
「へ?」
それはもう、ずいぶん変な顔で聞き返したと思う。
セイが唇を尖らせて聞くので、若干困惑しながら答える。
「タイプが違うから、三人の誰が一番って決めるのはなんか違うっていうか……?」
「…………」
「なんで怒るの!?」
「別にぃ……」
「じゃあ、シーナちゃんは誰が一番好みなん?」
ヒナの質問にハッ、と顔を上げるシーナとセイ。
三者三様の美形の、どれが一番とは決められない。
だが、好みなら本人に決められるだろう。
セイがガバっとシーナの方を期待に満ちた目で見る。
「好みで言ったら千景くん! すっごいダウナー美人系! 歌も上手いし、ダンスが苦手なところが栄治様にも似通っていてマジ推したい! 勇士隊に入隊したって言ってたし、きっと来年には一番隊になるよね~」
「………………」
「あれ? セイ、なんでさっきより怒ってるの!?」
「まあ、好みの話しやし……これはしゃーなしやん? でもなんかごめん」
無慈悲が過ぎる。
救いのつもりがトドメだった。
ヒナがセイの肩を叩き、小さな声で謝るがもう遅い。
「美人系が好みなんだぁ? ヒナ先輩とバアル先輩の顔面ならどっちが好み?」
「顔だけですか? ヒナ先輩もバアル先輩もすごい美人系ですし甲乙つけがたいですね」
「じゃあ、セイくんとルカくんの顔面なら?」
「ルカくんですね!」
「ミオちゃん、ルーヴァちゃん、やめてあげてぇな」
「ふ、ふーん……魁星よりも、自分なんですか……そうですか……ふーん……」
わかりやすく嬉しそうなルカを、セイが嫉妬を隠すことなく睨みつける。
ヒナが小さく「罪な男やねぇ……」と呟く。
その「罪な男」っぷりが本領発揮されるのを彼らが思い知るのは、このあとである。