表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/442

少しずつ、進む


 その晩は三人でわちゃわちゃと夕飯づくり。

 音無家四人分、プラス魁星と周分が完成したら智子が返ってきた。

 

「ただいま~。いいにおーい。お兄ちゃん病院行ったんだよね。喉どうだっ――ぎゃああああ!? 魁星くんと周くんだぁぁぁぁぁ! 周くん、サインください! 今色紙持ってくるのでぇぇぇ!」

「え? え?」

 

 ダイニングに入ってきた智子が、魁星と周の姿を認識した瞬間荷物を持って二階へダッシュしていく。

 ドタン、バタン」と部屋から変な音がしたあと再びドダダダダダと下りてくる。

 はい、と周に差し出されるサイン色紙とサインペン。

 困惑する周が無言で淳を見てくる。

 いや、見られましても。

 

「ことわってもいいよ。”こうそく”でさいんできないです、とか」

「え、あ、そうか……いや、でも……」

「あ! そ、そっか。東雲の芸能科はサイン校則で禁止だっけ。次の定期ライブでグッズ待ちするしかないですよね! ごめんなさい!」

「え、あ、い、いや……も、申し訳ありません。え?」

 

 混乱している。

 確かに、一応ゴールデンウイークのライブオーディション後の『Blossom(ブロッサム)』初ライブで智子のことは知っていたはず。

 母と妹と共々失神して魁星と周に介抱してもらったけれど、直接話をしていなかったのでこんなテンションの子だと思っていなかったのだろう。

 にっこり笑顔で「いもうとの”ちこ”だよ。おれよりじゅうどのドルオタだよ」と紹介した。

 

「っていうか、うちはかぞくぜんいんドルオタ」

「周くんのグッズも買いました!」

「あ、ありがとうございます」

「おれも!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 淳が魁星と周の推しうちわを作って持っているのは知っている。

 嬉しくてはにかむ周が可愛い。

 

「きょうはふたりもおゆうはんいっしょにたべるから」

「本当ですか!? じゃあ、智子着替えてくるね」

「うん」

 

 と、嬉しそうに色紙とサインペンを持って二階に上がっていく智子。

 その背中を見送った周がまた淳の方を向く。

 

「妹さん、可愛いですね」

「でしょう!」

 

 ドヤ顔で妹を自慢する。

 そのあと両親が二人とも「遅くなるから先にご飯と食べておいて」と連絡が来たので、智子と四人で夕飯を摂って解散した。

 

 

 

「――あの、五月の東西芸能科新入生対抗ライブオーディションの結果で、研修生と通知をいただいた音無と申します。はい、研修生の件でご連絡いたしました。担当の方はいらっしゃいますか?」

 

 魁星と周と智子と四人で食事した次の日。

 だいぶ前の感覚を思い出し、スムーズに喋れるようになった淳。

 昨日の自分の声を聴きながら外郎売を朗読し続けていたのが効いたようだ。

 そんな土曜休み、朝食後自室に戻ってから春日芸能事務所に電話をかける。

 すぐに職員から社長である春日社長に繋がった。

 

「あ、あの、もしもし」

『もしもし、音無淳くんですね。本日はどのようなご用件でしょうか』

「昨夜家族と相談して、研修生にしていただいた方がいいのでは、ということになったんです。あの、つい最近まで声変りで声が出なかったんです。それで、できるだけプロに指導してもらえたらと……」

『そうだったんですね。こちらとしては歓迎です。では、契約を交わしたいのでご都合のいい時にご両親と来社していただけますか?』

「来週の土曜日に両親がお伺いしたいとのことです。時間は御社のご都合のよい時間に合わせます」

『わかりました。では十一時にお待ちしております』

「十三日の十一時、ですね。当日はよろしくお願いします」

『こちらこそ、ゆっくりお話するのを楽しみにしております。それでは』

「はい。失礼します」

 

 ピッとスマホの通話を切る。

 ふう、と息を吐き出し、天井を見上げた。

 昨夜遅くに帰ってきた両親に今後の話、春日芸能事務所の研修生になる件を受けようという話を行ったのだ。

 自分の体調、現状を考えてプロのサポートを無料で受けながら遅れた分を取り戻すには研修生になるのが一番いいと思った。

 両親も淳に同意。

 来週の土曜日なら来社できるから、と言われていたのでそれをそのまま伝えた形。

 

(神野栄治様と同じ事務所……)

 

 改めて考えて、ベッドに横たわりドキドキする。

 少し考えてから封印していたフルフェイスマスク型のVR機を被った。

 声が出るようになったし、練習に行こう、と起動させる。

 プレイヤ――名『シーナ』を選択。

 三番目の町『サードソング』からスタート。

『サードソング』の宿屋の一室で目覚め、ステータスの確認から開始する。

 前回の最終ログインはダンジョン『井の中』で蔵梨柚子とエイランのコンビに助けられ、レベルが爆上がりし、レアアイテムも大量に入手できた時以来。

 あの時はすごかった。

 あれが本物の”ゲーマー”というやつなんだろう。

 スキルポイントも大量に残っており、最初にやるのはスキルポイントの振り分け。

 新スキルの取得と、技スキル、武器スキルの開放。

 前回のおかげで”シーナ”のレベルは47。

 今使っていた武器も、すべての武器スキルを開放できた。

 

「最初に武器屋に行って、武器交換して装備を整えた方がいいな」

 

 一回ご一緒しただけで、こんなにレベルアップするとは。

 ゲーマーたち恐るべし。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】
『不遇王子が冷酷復讐者の手を掴むまで』(BL、電子書籍)
5cl9kxv8hyj9brwwgc1lm2bv6p53_zyp_m8_ve_81rb.jpg
詳しくはヴィオラ文庫HPまで

『国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!』アンダルシュノベルズ様より発売中!
g8xe22irf6aa55l2h5r0gd492845_cp2_ku_ur_l5yq.jpg
詳しくはホームページへ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ