先輩に質問(2)
(……春日社長に、連絡してみようかな)
いや、その前に親に相談をするべきだろうか。
時間が経っているので色々複雑だが、声が出るようになったので逆にいいタイミングかもしれない。
「他にはなにか質問あるぅ?」
「あ、ええと……」
遠征について、だろう。
他に気になること、と考えて一日の流れを想像してみる。
「あさごはんは、いえでたべて……ひるごはんげんちでかってたべるんですか?」
「そうだね、現金はいくらか持ってきていた方がいいね。ケータリングがある現場もあるけれど、今回の現場は出店も出ているみたいだからライブ終わりに出店巡りしてもいいんじゃない? 僕らは珀先輩ほど知名度ないし、声をかけられても授業で習ったように断ればいいし」
「でみせ……」
夏祭りというやつだ。
ただ、そういうイベントの出店はお高いイメージがある。
宇月曰く「お昼ご飯も経費で落とせるから、領収書は絶対貰ってね」とのこと。
出店で領収書をもらうというのが想像ができないけれど。
「イベント運営によっては出店の無料券とかくれるけど、結局現地に行ってみないとわからない。お弁当は夏場だし、持って行くの怖いよね」
「そうですね……」
「あ、衣装は通常のやつを持ってきてね。忘れず持ち帰った方がいいから、メモを書いてロッカーに貼っておくといいよ。あと、変装道具も帽子とサングラスがおススメ。マスクは暑いし」
「よういしておきます」
「あとできるだけ荷物はかさばらないように小さいバックかリュックに入れた方がいいし~、タオルと制汗剤は必須だよね。拭くと涼しくなるウェットタオルと、着替えは行き帰り別で持って行くと快適だし変装にもなるよ。ライブ終わりって汗だくになるし、ステージが外の場合も多いから。シャワーなんてよっぽど待遇のいいところじゃないと入れないもん。水分補給用の飲み物はもちろんいつもの倍持って行って方がいいし~、日焼け止めは必須だよ! そういえば会場の情報って調べた?」
「あ、いえ」
ふるふる、と首を横に振る。
スマホでサマーフェスティバルの会場を調べてみる。
真夏の某町、海開きした海岸沿いホテルに面する特設ステージがある公園。
「絶対暑いじゃーーーん。海開き会場の方にシャワーはありそうだけどぉ……海に入るわけじゃないから使えないよねぇ」
「そうですね」
「んん?」
二人で覗き込んでいたスマホに通知が入る。
『イースト・ホーム』からの『仕事依頼』の文字に目を見開く。
『星光騎士団に指名お仕事の依頼が三件来ています。依頼順ですので、日時は要確認してください』
『一件目。○○町○○女子高で開催される文化祭で三曲ほど披露。日時:10月14日 集合場所:某町、○○駅前にAM10:00時 AM11:00時出演 出演後、解散。女子高ですので言動には十分に注意を払い、解散後は直帰してください。持ち物:各自衣装、水分、昼食(出店が出るので現地でも購入可能)、マスク、帽子、サングラスなどの変装道具』
『二件目。VRMMOSBO夏休み特別ライブへの出演依頼が来ています。日時:8月1日 集合場所:ゲーム内ファーストソングにPM17:55時 AM18:00~21:00時まで出演。解散後はそのままゲームプレイして構いません』
>>『綾城です。二件目については選曲、トーク内容など打ち合わせを近々行います』
『三件目。○○町で開催される新アミューズメント施設で三曲ほど披露。日時:8月19日 集合場所:某町、○○駅前にAM11:00時 PM13:00時リハーサル 翌8月20日AM9:00リハーサル AM10:00開場 10:20出演。出演後、解散、自由行動。浮かれすぎないよう要注意。持ち物:各自衣装、水分、昼食(出店が出るので現地でも購入可能)、マスク、帽子、サングラスなどの変装道具。浮かれすぎないよう要注意』
「二回も注意書きされてんだけどぉ。どんだけ信用ないのぉ? っていうか19日ってIG夏の陣決勝日の翌日じゃん! スケジュールがハードすぎるんだけどぉ!? 夏の陣会場のホテルからそのまま移動じゃんんん!」
「う、わ、わ……」
スケジュールが鬼すぎる。
あの宇月がガクガク震えて涙目になっているではないか。
確かにその前――IG夏の陣は全日程三日間。
その翌日に移動、からの前日リハーサル、翌日に本番。
実質五日間連続ライブ。
三曲程度とはいえ、疲労が蓄積しているだろう五日目の本番ライブは考えただけでもゾッとする。
「むりむり。僕反対。スケジュールNGにしてほしい~。ギリギリトーク番組だよぉ。こんなのツアーじゃん……!」
「で、ですよね」
なんて話していると、さらに通知音が連続で鳴る。
ギョッと再び画面を見下ろす宇月と淳。
『以下はスケジュール未定のメンバーへ優先的に出演を依頼したものです。なお、綾城はすでにスケジュールNGが出ているので一年生が積極的に受諾してもらえると助かります。全五件あります』
「「は?」」
声が漏れる。
まださらに仕事依頼が来る、だと?
『一件目。四方峰TV局、番組名”ひるばんばん”と”ゆうがたばーつ”への出演依頼です。日時:8月15日 集合場所:四方峰町、桜区駅前にAM10:00時 PM12:20時頃、出演予定 PM15:15頃出演予定 PM17:35頃出演予定。出演後、解散』
『二件目。四方峰ラジオ局、番組名”歌スタ”への出演依頼です。日時:7月25日 集合場所:四方峰町、萩区駅前にPM13:40時 PM14:20時頃、出演予定 出演後、解散』
『三件目。ネット番組”スター☆KEI主催ネットアイドルライブ”への出演依頼です。日時:8月19日 集合場所:某町、○○駅前にAM11:00時 PM13:00時リハーサル 翌8月20日AM9:00リハーサル AM10:00開場 10:20出演。出演後、解散』
『四件目。Vtuber事務所りゅうせいぐん所属、唄貝カインさんよりコラボ依頼が来ています。詳細は話し合って決定したいとのことです。Vtuber及びネット環境に詳しいメンバーがいましたらよろしくお願いいたします』
『五件目。タレント事務所カイザー所属、雨宿りゴツネスさんよりご自身のワイチューブチャンネルへの出演依頼が来ています。詳細は話し合って決定したいとのことです。Vtuber及びネット環境に詳しいメンバーがいましたらよろしくお願いいたします』
読み終わってから顔を上げる淳。
ドン引きした表情の宇月は、ふう、と目を閉じて息を吐く。
そして――
「とりあえずスケジュール管理アプリ、入れな」
「はい」






