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先輩に質問(1)


 放課後の練習棟。

 少しづつ発声練習をしている中、宇月と花崗がスタジオに喧嘩しながら入ってきた。

 宇月のほっぺを指でつつく花崗の頬を、下から盛大に引っ張る宇月。

 一年生ズがふらふらしながら入ってくる二人の様子を思わず目で追ってしまう。

 

「ばーかばーか! ひま先輩なんて嫌いだぁ! はーなーせー!」

「しょっちこしょ、はーなーしぇーーーー」

「おはようございます、うづきせんぱい、みかげせんぱい」

「「!?」」

 

 淳が声をかけると二人は一瞬硬直して、お互いから手を離す。

 そして淳に近づいてきて「今日休みじゃなかったの!?」「声出るようになったんか!?」と詰めてきた。

 

「ようすをみながらはっせいれんしゅうしなさい、と。こえをだすのがひさしぶりすぎて、うまくしゃべれなくて」

「ほんとだ、ちょっとたどたどしいね。三週間話してなかったから、多分舌の動きが鈍くなってるんだね。発声練習じゃなく早口練習しな~」

「収録スタジオでヘッドホンつけて自分の声をマイク通して聞きながら外郎売を朗読するとええかもな~。声結構変化してて、自分の声にもまだ慣れてないんやない?」

「あ、は、はい! いいんですか?」

「ええよ~」

「これ、もしかしたら遠征間に合うかもしれないね。がんばれ~」

 

 さっきまでの険悪な雰囲気はなんだったのか、と思うほどの変わり身の早さ。

 優しい先輩たちにこくり、と頷く。

 遠征、と聞いて魁星と周が「あの、先輩」と、ほぼ同時に声をかける。

 

「実は自分の口座とか持っていなくって……」

「自分も魁星も親には頼れないので、どうしたらいいのかと」

「えー? 春日銀行なら未成年でも口座を作れたよ。ひま先輩とこれから作ってきたら?」

「なんでわし? まあええけど。ほな、サクッと作ってこよか。淳ちゃんは収録スタジオで外郎売やろうか。みーちゃん、淳ちゃんとお留守番しとってくれてええん?」

「いいよぉ。今日はごとちゃんがテニス部の助っ人に行ってるし綾城先輩はお仕事だし、先月の定期ライブ映像の編集してるよぉ」

「ほな、魁ちゃん、クーちゃん、お出かけの準備し」

「「は、はい!」」

 

 顔を見合わせた魁星と周の、晴れ晴れした笑顔。

 淳もタオルや水のペットボトルをまとめて、収録スタジオの方に移動した。

 魁星と周は花崗とジャージのまま外出。

 一応放課後なので出入りは自由だ。

 

「僕、動画編集のために視聴覚室にいるからなにかあったら呼んでー。あ、それとも遠征についてナッシーもなにか質問あるぅ?」

「あ、ええと。とうじつにぶっつけほんばん、なんだなって。えんげきだと、れんしゅうじかんやぜんじつにリハーサルやったりするから」

「ああ……まあ、ステージの広さとか他の出演者の演目からの流れとかで選曲やパフォーマンスを考えたりとかは、もちろん先方の希望があればそれに沿うけれど……。今回の依頼先のイベント運営会社は適当っていうか……お金ないっていうかケチなんだよね。ちょっと面倒くさいんだけれどね、交通費は領収書を取って学院に提出するんだ。で、学院から報酬と提出された交通費や経費をプラスしてイベント会社に請求するのよ。で、イベント会社は主催から自分の会社の報酬プラス僕らへの支払金額を合算して請求する。で、イベント会社に支払われたら、イベント会社は学院に請求金額のお支払いをするの。この流れが一ヵ月から二ヶ月かかるわけ。面倒くさいけど。そんでね、前日から現地に入るとイベント会社は僕たちの宿泊費も下手すると食費やその他消耗品にかかった金額も支払わないといけないの。演者にどのくらいお金を出すか、待遇をよくするかはお金を出す大元の主催と、演者の管理をするイベント会社のさじ加減なわけ。ここまではわかる?」

 

 こくり、と頷く。

 淳が触れてきた演技の世界と似て非なるもの。

 

「だからまあ、今回のイベント会社さんは僕らにそこまでお金を出したくないってコト! でも、指名で僕らを使いたいってことだから僕らのパフォーマンスを評価はしているってことでもあるの。一応僕らの報酬って中堅グループに比べて高く設定してあるのね。それは学院の方で『安く高評価のアイドルが使い潰されなないように』ってことでグループごとに単価が違うんだけど……ああ、まあ、その話は学院の方でグループや個人の公式グッズとかの売上を見て決めるんだけど、その話はまた今度教えてあげる。えっと、つまりイベント会社が僕ら――東雲学院芸能科のアイドルを安く買い叩こうとするのは、学院の後ろ盾があるから無理なのね。じゃあ、どこをカットするかっていう話なの」

「”しゅくはくひ”をしはらったりしたくないから、ほんばんとうじつしゅうごうするんですね……!」

「そういうこと! まあ、こっちとしてもパフォーマンスに手は抜かないけれどね。でもこういう待遇でやる気に変動はあるよねぇ。一年生ズには好待遇の遠征を最初に経験してほしかったなぁ。お仕事を選べる立場じゃないけれど~、大事に愛された演者として最っ高のパフォーマンスをお客さんにもスタッフさんにも主催さんにも魅せたいっていうか~」

 

 こくり、と頷く。

 アイドルには最高の状態で最高のパフォーマンスを演ってほしい。

 だが、それはどうしても主催とイベント会社の出す金額や待遇に関わってしまう。

 そしてアイドルを買い叩かれないように、学院が守ってくれている。

 淳たちが事務所に所属したい、と思うのは、卒業後の後ろ盾だ。

 守ってくれる分、演者に支払われるお金は減るけれど、それは必要経費。

 自分自身をマネジメントし、自分の身を自分で守れるようになって独立したらそれはそれで一人前。

 



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