表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/442

喉、復活?


 午後五時三十分、校庭ステージで花崗を含めた一年生二人の三人で六月の定期ライブラストのライブ。

 なお、後藤は「限界」とのことで、練習棟で一休みしてから直帰予定。可哀想。

 やはり花崗がいると午後から駆けつけた花崗ファンが一気に急増して、午前の人数が嘘のような人垣。

 その一番前でカメラを設置して三人分の推しうちわを振る淳。

 普段は綾城の隣で「背中は任せろ」と控えめだが、自分の顔のよさも華やかさもしっかりわかっている。

 三人で歌ってから、花崗ひまりのソロ曲を一人で披露。

 花崗押しには最高のサプライズ。

 おそらく公的な場での花崗単独のソロ曲は、彼が現役副団長として最後の機会になるだろう。

 それをわかっているから、泣いているファンまでいる。

 そしてなんというか、歌詞が完全にガチ恋勢を殺しにかかっている内容。

 ウインク一つで盛大な悲鳴。いや、奇声?

 このあと校庭ステージで飛び込みライブをやるグループが辞退するレベルの盛り上がり。

 確かに別に校庭ステージにこだわりがあるわけではないので、これほどの盛り上がりを見たあとでは「このまま校庭ステージは幕引きした方が美しい」と思うだろう。

 儚げな容姿から信じ難い、力強い声量とパフォーマンスはまさに「容姿詐欺」「雅な暴れ馬」。

 ステージを我が物顔で飛び跳ねて、輝きを振りまく。

 この人が卒業後はアイドルを辞めて、モデル兼俳優の道に進むのが惜しいと思う。

 それを踏まえて、彼がソロ曲を歌う機会は少ない。

 ステージに一人で立つ花崗ひまりは、きっとこれが最後だろう。

 淳も三年間見てきた星光騎士団、アイドルの花崗ひまりを見られるのが、残り八か月と思うと――

 

(うううううう……声出して応援したいいいいいぃ……!)

 

 花崗ひまりファンと一緒になって涙をボロボロ流してうちわとサムネイルを振り続ける。

 のちに魁星と周に「異様な光景だった。まだ卒業しないのだから」と真顔で注意された。

 当の花崗には「泣くほど感動してくれたんやな~」とドヤ顔されたけれど。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 数日後。

 その日の朝は久しぶりに喉に違和感のある目覚めだった。

 約三週間ぶりの、奇妙な感覚。

 声変りの症状が出てから八カ月くらい経つが、これは初めての感覚で起き上がってからすぐ恐る恐る声を出す。

 久方ぶりの自分の声、のような初めて聞く声のような、不可思議な現象。

 慌てて寝間着から制服に着替え、一階に下りる。

 今日は早出の父と、父にお弁当を作る母が二人で驚いた顔をして淳を振り返った。

 

「おはよう、淳。どうしたの? 顔も洗ってないわよね?」

「こえ、でた。あの、でも」

「淳、声出るようになったのか!? あああ、いや、無理に出すな! まずは病院で確認してもらいなさい!」

「父さんは早出だから、母さんが病院に連れて行くから、準備しなさい! 学校にはお母さんが連絡するから! 智子~~~! 智子、ごめんね、起きて~~~! お兄ちゃん、病院に行くから朝ご飯作ってお弁当テーブルに置いておくからー!」

「んぃ~~~~~~~」

 

 二階から寝ぼけた智子の返事が聞こえてくる。

 淳もすぐに自室に戻って、スマホを充電器から引っこ抜き『イースト・ホーム』の星光騎士団グループチャットにログインした。

 

『おはようございます。音無です。喉に違和感が出たので、本日は学校と練習をお休みさせてください。よろしくお願いします』

 

 と打ち込むとすぐに綾城から『おはようございます。お大事にしてください。僕も本日はお仕事で学校と練習お休みします』と淳と同じような内容を投稿。

 現在の時間、朝六時十分。

 淳もそれなりに早起きだが珀も相当に早起きだな、と驚く。

 普段なら朝食準備をしてから三十分ほどランニングするのだが、今日はいつもより早起きだったのに。

 実際綾城以外は反応なし。

 かと思ったら――

 

『おはようございます。狗央です。了解しました。ご自愛ください』

 

 と狗央からメッセージが返ってきた。

 早起きだなぁ、と感心したが、そういえば最近「午前の授業で眠くなって仕方ないから、自分も早起きしてランニングをする!」と宣言して、最近実践しているようだ。

 今日も実践できたのだろう。

 実際狗央は自立できなければ過干渉な実家に逆戻りなので、必死だ。

 このままでは成績も落ちる。

 七月中旬には期末テストもあるので、午前の授業が疲労で寝ぼけ眼なのは死活問題。

 ランニングで頭をシャキンとさせ、体力も同時に作る。

 朝食やお弁当で料理も練習。

 星光騎士団のメンバーとして、成長をしようと努力しいるのだろう。

 ホッとして立ち上がり、学校ではなく私服に着替えて外出用の鞄を持つ。

 一階に戻り、父はお弁当を持って出かけていくのをお見送り。

 母に「朝ご飯は食べられる?」と心配されたけれど、食事を食べてもつっかかることはない。

 食事が喉をつっかえることもなく飲み込めるのが久しぶりな気がする。

 つっかえるというか、飲み込む時の痛みはない。

 最近は痛みも少なくなっていたけれど、固形物を飲み込む違和感はもうなくなった。

 

「おいしい」

「もう、まだお医者さんに声を出していいんだって言われていないんだから、あんまり話さないで」

「(コクリ)」

 

 三週間ぶりの発声に、違和感がある。

 母にも今の声について聞いてみたいけれど、どうなのだろう?

 初めて「早くお医者さんに行きたい」と思った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】
『不遇王子が冷酷復讐者の手を掴むまで』(BL、電子書籍)
5cl9kxv8hyj9brwwgc1lm2bv6p53_zyp_m8_ve_81rb.jpg
詳しくはヴィオラ文庫HPまで

『国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!』アンダルシュノベルズ様より発売中!
g8xe22irf6aa55l2h5r0gd492845_cp2_ku_ur_l5yq.jpg
詳しくはホームページへ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ