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麻野VS後藤(1)


「では、ルールの説明も終わりましたし本日の主役――決闘を申し込んだ魔王軍二年、東四天王、麻野ルイと!」

 

 と、大久保が一区切り入れて上手側を手で差す。

 堂々BGMを背に登場する魔王軍の衣装をまとった東四天王、麻野ルイ。

 一般客席の方から黄色い悲鳴が上がる。

 

「決闘を申し込まれた側、星光騎士団二年、第一部隊、後藤琥太郎!!」

 

 下手(しもて)から星光騎士団制服の後藤が現れると、一般客席の方から麻野の時より大きな歓声が上がる。

 元々決闘を申し込んだ側が悪役(ヒール)になりやすい。

 大久保が麻野に「今回の決闘申し込みの理由。麻野くんの正義をお客さんへ主張してください!」と言われて、堂々と「最初は星光騎士団の団長、綾城珀に決闘を申し込んだんだが今日仕事で休みと聞いたので後藤に受けてもらった!」と胸を張る。

 ドヤ顔でそんなことを言う麻野に、大久保が「え? あ、ううん? そうじゃなくてぇ……決闘を申し込んだ理由……」と困ったように追加質問。

 あ、と思い出した麻野はまた堂々とドヤ顔になって「我が軍の王、魔王朝科先輩を差し置いてプロデビューしていたのが気に入らなかったので、決闘でコテンパンにしてやろうと思ったんだ!」と言い放った。

 残念ながら麻野と後藤だと、後藤のファンの方が多い。

 平日の昼間なのでお客さん自体が少ないが、推しうちわのをパッと見た限りもうすでに後藤の名前の方が優勢。

 それでなくとも決闘を申し込んだ側が不利なのに。

 麻野の浅はかな決闘申し込みに当の魔王軍面々も「え?」という表情。

 どうやら彼らもそんな浅はかな理由だったと思わなかったらしい。

 

「結構しょうもない理由だった~~~! これは始まる前から麻野くんが不利か~!? と、いうことなのですが、いかがですか、後藤くん!」

「バカですね~~~」

 

 にこ、と満面の笑顔で答えた。

 アイドルモードの後藤は長い前髪を真ん中で分けており、端正な顔立ちが目立つようになっており、性格も「ザ・アイドル」という爽やかな笑顔と口調に変わる。

 ただ三年生ズと宇月に言わせると「長くても一時間しかアイドルモードは保たない。それ以上は反動で夜に体育座りから戻れなくなるしずっと泣いちゃう」とのこと。

 三十分くらいだと反動も少なく、恥辱でポロポロ泣くくらい。

 つまり、普段の会話ですらSD(スーパードルフィー)を抱いていなければ難しい後藤が、アイドルモードで爽やかイケメンとして人前で歌って踊ってMCをこなすのは、”演技”。

 その演技も一時間が限界。

 SBOソング・バッファー・オンライン内はアバターだったので、ほぼ素の状態だったらしい。宇月談。

 それほどまでに宇月、綾城、花崗以外の人間を苦手にしている。

 なんでそんなに人前が苦手なのかと言われれば、音楽家一族らしく大勢の人間の前で発表を行う度に激しい叱責と駄目出しをされ続け、親族含めて人間恐怖症になったから、らしい。

 しかも後藤の実母と実祖母は発表会で失敗してもしなくても激しく叱責するだけでなく、「女の子がほしかったのよね」「女の子なら発表会の時にドレスを作ってあげたかったのに」「私が現役の時に着ていた着物を着せたかったわ」とネチネチ。

 花崗並みに高身長、星光騎士団で一番低い声。

 女の子がほしかったと口癖のように言う母と祖母。助けてくれない父。

 母と祖母が愛でる”女の子”のSDを抱えていれば、母と祖母はSDに話しかけて最低限の会話ができる。

 あまりにも特殊な家庭事情で、ちょっと理解が追いつかないところもあるのだが、ステージ上でアイドルモードになっている後藤を見ているとだんだん心配になってきた。

 心配していても仕方ないので後藤の推しうちわと後藤のイメージカラーとサイン入りサムネイルをフルフルする。

 

「な、なにがバカだ! 確かに綾城先輩もプロとしてやっていけるアイドルだろうけれど、朝科先輩の方がもっと世間に認められるべきだ! 俺がこの決闘で勝利して、それを証明してやる!」

「いや、決闘相手は俺なんですよね」

「本当にそれな~」

 

 麻野の言い分がむちゃくちゃ。

 後藤に言い返されて、ムキーと吠える麻野。

 中立のはずの大久保にまで「それな~」なんて言われてしまう。

 それでなくとも決闘を申し込んでいる方が不利なのに、決闘を申し込もうとしていた相手が綾城で、今日休みだから代わりに後藤が、と言われたらますます不利だろうに。

 

「大久保先輩! 審判が片棒担がないでくださいよ!?」

「「肩入れかな?」」

「あ、ソレ」

 

 大丈夫か麻野。

 

「もちろん、MCは中立だよ~☆ それじゃあ早速麻野くんから決闘の曲の紹介からお願いしま~す」

「おうよ! 決闘の曲は魔王軍、『Love and Death』!」

 

 麻野が曲名を叫ぶと前奏が流れ始める。

 短い前奏とすぐ歌い出す。

 その瞬間、ぞわっと背中に戦慄が走る。

 それほどまでに、歌い出しで引き込まれた。

 ちょっとおバカだったけれど、やはり最古参三大大手グループ『魔王軍』四天王の一角。

 激しいロック調の曲で、がなりや絶叫、ラップとシャウトまで入った曲。

 いや、これは麻野の歌い方が激しいのだろう。

 なんという喉の強度。

 淳は思わず紙袋から『麻野ルイ』『指差して』を振ってしまう。

 麻野が最前列近くにいる淳の推しうちわに気づいて、満面の笑みを浮かべで本当に指差してくれた。

 

「~~~~!」

「……淳ちゃんガチモンやね」

「なんかムカつくんだけど」

「淳、応援するなら後藤先輩でしょう?」

 

 周に怒られたので、ちゃんと後藤の推しうちわとサイン入りサムネイルを見せるが、そういうことじゃない、と頭を軽くチョップされた。




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