決闘ライブの日(2)
「~~~♪ ~~~~♪」
各ステージで音と歌が溢れる。
体育館ステージが空いたので、淳がSNSで「このあと2:30から体育館ステージで魁星と周がライブするので応援に行ってきます! 俺は声が出ないので、撮影係です。ぜひ一緒に応援してくださいね!」と投稿。
魁星と周もSNSで「2:30から体育館ステージで二人でライブします!」と告知して、体育館に移動する。
他のグループも一年生が中心でフリーライブをやり始めた。
やはりどこのグループもお披露目ライブだけでは一年生の知名度は大して上がっていなかったのだろう。
体育館ステージには十数人のファンが集まっている。
まさか十数人程度とは思わず、ステージ脇でガチへこみする魁星と周。
「あ! 淳くーん!」
「淳くん、本当に来た~」
「声出ないんだっけ?」
「(コクコク)」
「可哀想~。早くよくなるといいね」
「ねえねえ、このあと『らいじんぐ』や『テーマパーク』の飛び込みライブ行かない?」
「淳くん! 久しぶり! 本当に芸能科に受かったんだね~。しかも星光騎士団にも入れたんだ、本当におめでとう! グッズ買ったよ!」
「(ペコペコ)」
舞台袖から囲まれて口々に声をかけられる淳を見つめる魁星と周。
中には入学前から知り合いらしい五人の男女が順に「おめでとう」「先月のフルーツケーキも美味しかったよ」「勉強頑張ってたもんね」と言われていた。
ニコニコ、ペコペコして声を出せないまま対応する淳。
長く東雲学院芸能科のアイドルを応援している古参ファンだろう。
幼い頃から淳を見ていたらしく、言葉の節々から労りがかけられている。
その光景に顔を見合わせる魁星と周も、さすがに花崗が言っていたことも相俟って実感として襲ってきた。
あれが”ファンのいるアイドル”なのだろう。
「次は強豪星光騎士団の新人、花房魁星と狗央周が飛び込みライブに参戦です! どうぞ~!」
MCは持ち回り担当。
今月の体育館MCは三人組三年生のグループ『ケ・セラセラ』の行藤亜蓮。
ケ・セラセラはゆるやかでのびのびとした曲調の曲を披露する。
一年生の時にどこにも通らなかった三人が結成させて、そのまま新入生の加入がないまま三年生まできたグループだ。
行藤に紹介されて慌ててステージに出てくる魁星と周。
前奏の間に立ち位置を確認し、疲れた顔を隠し通して一曲歌いきった。
淳はカメラで撮影しつつ二人のうちわを交互に振る。
ふと、淳の推しうちわを目にした二人の表情が和らいだ気がした。
(ああ、やっぱりこの表情好きだな)
アイドルが自分の名前の名前の推しうちわを見て、嬉しそうにする。
特に学生セミプロの、アイドルを始めたばかりの彼らは現実を突きつけられ、デビューしたてでファンがすぐつくわけでもなく練習も過酷でぐったりしている中、一人でも推しうちわを振ってくれるのを見ると表情が息を吹き返す感じがするのだ。
淳は、そういう息を吹き返したアイドルの表情が好きだ。
そして、それをできなかったアイドルが卒業と同時に消えていくのが悲しい。
仕方ないこととはいえ、一人でもアイドルが一日でも長くアイドルでいてもらえるように全力で「応援しているよ!」と主張する。
推しは推せる時に推せ、だ。
それに、純粋に頑張っている魁星と周の姿を知っている。
毎日ちゃんと全力で練習しているのだ。
三脚のカメラにぶつからないように気を使いながら、魁星と周の推しうちわを全力で振った。
声を出して応援してあげられないのは申し訳ないけれど、それでも今、自分ができる全力の応援を――二人に。
「ありがとうございました~! 少しお話を伺ってみましょうか。まず自己紹介からよろしいですか?」
「は、はい! 星光騎士団第二部隊所属、花房魁星です!」
「同じく星光騎士団第二部隊所属、狗央周です」
「いや~、さすが星光騎士団。入学から二ヵ月とは思えない完成度ですね!」
「「え」」
行藤に笑顔で話を振られ、仰天の表情で聞き返す魁星と周。
まさか聞き返されると思っていなかった行藤の方が「ええ?」と驚き返される。
「うう、すみません。でも、あの、先輩たちは元より第二部隊隊長のジュンジュンも課題をサクッとこなしちゃうからそんなふうに言われると思わなくて」
「は、はい。自分たちは毎日練習疲れで倒れてしまうので、情けなくて身に成っているのか不安でしたが……多少でも皆さんに楽しんでいただけたならよかったです」
「いやいや、本当に入学して二ヵ月の一年生にしてはレベルが高かったですよ。ダンスのキレもよかったですし歌声もブレがない。どんなレッスンしているんですか?」
行藤に質問された魁星と周は一気に顔色を悪くした。
淳としても「練習厳しいな~」とは思うけれど、終わる頃には全身ガクガクになってぶっ倒れている魁星と周。
淳は汗だくになりつつも倒れるまではいかない。
そんな練習内容を思い出し、顔色悪く半笑いになる二人に行藤が一拍の間を置いてから笑顔で「うん!」と一言コクリと頷く。
「告知などあるかな?」
話題を変えることにしたらしい。
さすが三年生。
「こ、こくち……告知……?」
「え、ええと~」
ちらり、と客席の淳に助けを求める魁星と周。
純粋に体力が限界のところに日々の地獄の練習を思い出して機能停止状態に陥っているのだろう。
コクリ、と頷いてからステージによじ登り、スマホ画面を行藤に見せる。
「ええと、午後三時から校庭ステージで星光騎士団の後藤琥太郎くんと魔王軍の麻野ルイ君の決闘ライブ! ニ十分後の校庭ステージだね!」
「(コクコク)」
「ところで君はお客さんではないの?」
「!!」
東雲学院芸の制服だが男子が急にステージに上ってきたので、淳を知らない行藤にしてみれば当然の疑問。
スマホで自己紹介を、と思ったが、左右から魁星と周が淳に抱きついてきた。
「あ、えーと、こいつです! ジュンジュン!」
「星光騎士団、第二部隊隊長の音無淳と申します! 現在声変りの症状悪化により声が出ません!」
「あ、この子も星光騎士団の子なの!? それでカメラ回してたんだ!? そして、声変りでそんなことになるの!?」
「なっちゃってるんですよね~、これが」
「(コクリ)」
申し訳なさそうに項垂れる淳に、行藤も「そうなんだ、結構……かなりしんどいね」と本気で同情的。
歌えないアイドルなんて、淳の場合はただのドルオタだ。
「でも今みたいにカメラで撮影とかしてくれたり、俺らがわからない機材の取り扱いとかしてくれたり、水とか買って来てくれるし、体力削られすぎて昼ご飯食べられない時はお弁当食べさせてくれるし午前中の授業まともに聞けなかった時はノート見せてくれるし、なんかもう、なにもかもお世話になってます!!」
「確かにここ数週間午前の授業は眠気で集中できていなかったし、胃が固形物を上手く受けつけなかったから淳のお弁当は本当に生命線でしたね」
「……そ……しょ、食事が喉を通らないほどに練習厳しいの……?」
ドン引きの行藤。
笑ってごまかすしかない淳。
体力有り余る十代後半の男子が、食事が喉を通らなくなるほどの過酷な練習。
主にストレッチと準備運動に三十分、体力作りの一時間、休憩三十分のあとダンス地獄休憩なし水分補給ありぶっ通し二時間、運動後のケアストレッチ三十分はきついだろう。
ちなみに体力作り一時間がミソ。
ランニングマシーンで、休憩なく走り続けるこれもまた地獄。
「ま、まあ、星光騎士団の新入生たちは仲良しさんなんだね。声変りが終わったら第二部隊もパワーアップするんだろうから、みんなも今のうちにチェックしておいてね~!」
行藤が綺麗にまとめてくれたので、笑顔で両手を振ってステージ下のカメラを停止して回収する。
数人の東雲学院芸能科箱推しと星光騎士団箱推しの知人が、カメラを回収していた淳に「魁星くんと周くんのグッズも買っておくね」「今度魁星くんと周くんの推しうちわ作ってくるね」と声をかけてくれた。
やっぱりドルオタはいい人しかいない。