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決闘ライブの日(1)


 六月三十日。

 定期ライブの日だ。

 午後一時開幕。

 東雲学院芸能科のアイドルが行う決闘は、申し込んだ者が歌う曲を指定できる。

 すでに事前に今回の定期ライブにおける『魔王軍』麻野ルイVS『星光騎士団』後藤琥太郎の決闘が告知されていた。

 校庭または講堂ステージにて大々的に行われ、『イースト・ホーム』のファンホームによるネット投票が可能。

 本日は快晴なので、校庭の特設ステージでメインライブとして一番人が集まっている午後三時に行われることになっている。

 星光騎士団は切り込み隊長とばかりに一番早い時間にライブを行う。

 が、本日は綾城珀、仕事で欠。宇月美桜、私用で欠。後藤、決闘ライブのため欠。

 

「そして淳ちゃんは声が潰れて、今回はMCも無理やで~!」

「(ペコペコ)」

「いやいや、でもこれが治れば声変りも終わるよ! ……多分」

「本当に大変ですよね。でも、声が出せないから事務仕事やサポートをほとんどやってくださり、自分と魁星は練習に集中させていただきました。本当にありがとうございます」

 

 周のお礼にニコ、と笑顔で答える。

 星光騎士団を見に来たお客さんたちにも「大丈夫だよー」「淳くん、ゆっくり治して~」「お大事にねー!」というこえが聞こえてきた。

 ドルオタ、もしも同じ境遇のアイドルがいたら同じ声援を送ると思うので感涙を滲ませる。

 

「午後三時からはうちの後藤琥太郎くんと魔王軍の麻野ルイくんが決闘するで、みんな応援したったってな~」

「もちろん、俺たちも後藤先輩を応援するぜ!」

「ええ、後藤先輩はすごい方ですから、負けることはないと思いますしね」

「(コクコク)」

 

 ステージ上で『後藤♡琥太郎』『ハート♡つくって』のうちわとサイリウムを背中から取り出してふるふるすると、魁星と周が目を剥いてファンたちはキャッキャと笑った。

 声は出せないが、淳も全力で応援する予定。

 それまでは他のグループのライブに出るつもりなのでうちわをふるふるしながらステージを去っていく。

 次に出てくるアイドルは『Puff(パフェ)』。

 ”かわいい男の娘”をイメージにした二年生コンビのグループ。

 スカートを履いた背の低い一見美少女アイドルがステージに出て行った。

 中堅とは言われているが、やはり一年生の加入はなかったようだ。

 まあ、難しいだろうな、と思いながら背中から取り出したサイリウムをPuff(パフェ)のイメージカラーに変える。

 

「淳ちゃん、ライブ観覧するならお着替えしてからやで」

「……! (コクコク)」

 

 花崗、ドルオタの生態を熟知しすぎではないか。

 

「前回の定期ライブでも着替えてからライブ巡りしとったもんな」

「…………」

「はしゃいでたもんなぁ」

「お客さんと一緒に移動してましたもんね」

「…………」

 

 思い切り目を背ける。

 バレてーら。

 

「まあ、ええんと違う? 今んとこ学生セミプロの身分やし、淳ちゃん個人を推してくれるファンもあれで増えたっぽいしな。今日も淳ちゃんの名前のうちわあったやん? 魁ちゃんとクーちゃんはなかったけど」

「「うっ」」

「(ふるふる)」

「否定したらあかんよ。現実としてちゃんと受け止めへんと。他の一年生も先月のお披露目から何人くらいファンがついたか~とか、グッズの売り上げやライブの参加人数で多少確認できると思う。星光騎士団(ウチ)は元々固定ファンが多いグループやけど、さすがに平日プラス欠員三人、開幕直後の第一陣ともくればライブに来てくれはったファン数は少なかったやん? わし自身も思い知った感じやわ。そんな中で淳ちゃんの名前うちわがあったって意味はでっかいで~」

「…………」

 

 説得力が違う。

 淳としても平日は学校開幕直後から来るのは難しいことが多かった。

 ピークは午後三時。

 そこから学校帰りの学生が増えるので第二のピークは午後五時。

 閉幕は午後六時なので、推しグループのライブが終わったあとは空いたステージでの飛び込みライブを祈るのみ。

 その際はSNSに貼りついて、推しが飛び込みライブを告知してくれるのを待ち望む。

 無慈悲にも「明日はお仕事があるので撤収しました」などあると、他のグループの突発飛び込みライブを楽しむしかない。

 まあ、淳と智子はそのようにしてじわじわと東雲学院芸能科アイドルの箱推し重度ドルオタとして成長してしまったわけなのだが。

 だが、逆にアイドルの視点になるとファンという数字が如実に見えるのは心にクるものがある。

 今回はマイナス要因が多かった。

 だからこそ集客のために人気の高い星光騎士団、魔王軍、勇士隊は開幕最初の各ステージを担当したのだけれど。

 それでも少なかった。

 平日、欠員の影響も大きくいつもの半分以下だ。

 星光騎士団自体のファンと花崗のファンで構成されていたであろう今日の観客の中に、『音無淳』の名前が入った推しうちわがあったのは――そういうこと。

 その意味を深く捉と花崗は言っているのだ。

 制服から着替えた淳はスッと紙袋をロッカーから取り出し、魁星と周に見せる。

 その推しうちわには『花房魁星』と『狗央周』の名前があった。

 淳の謎行動に、理解が追いつかず困惑の表情を浮かべるしかない魁星と周。

 若干引き気味である。

 しかし、察した花崗が手を叩き、魁星と周に「着替えるんちょお待ち」と引き留める。

 

「え? なんですか」

「二人とも、二時から各ステージ開くし飛び込みライブいっちょかましてき」

「「はい?」」

 

 コクコクと淳が目を輝かせながら頷く。

 お披露目ライブの時よりは、いくぶん余裕ができた一年生組。

 だがしかし、SBO内で一回やったライブ分だけの余裕だ。

 くたくたであることに変わりはない。

 なんなら完全に終わったものと気を抜いていた。

 

「大丈夫や、ちゃんと淳ちゃんが応援してくれはるて」

「(コクコク)」

「え、ちょ、待……」

「マジで言ってます?」

「淳ちゃんは声が出へんから、二人だけでステージに立つんは問題ないやろ? ほらほら、フリーステージは早いモン勝ちやで! 休憩挟んでもええから二回は演ってき!」

「「マジで言ってます!?」」

 

 ついに魁星と周の声が重なる。

 そして花崗はハンディカメラを渡し「ついでにワイチューブにあげるアーカイブ用の映像にしてまえ」と満面の笑み。

 親指を立てる淳。

 今月のお料理回動画の編集経験があるので、自信満々である。

 

「最後一回はわしも出てやるさかい、ファイト!」

「(コクリ)」

「「マ…………」」

 

 魁星と周の表情は、死んだ。



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