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来年からはライバル


 そ、そんなことあるんだ、と全員がややドン引き。

 しかし秋野は「うちは普通に素顔でやってもらうけどなー」と腰に手を当てて頷く。

 誰も見たことのないだろう濃ゆいメイクから解放された素顔で、アイドルに。

 夜兎椥レンはアイドルになりたかったのか。

 

「まあ、琥太郎もレンもアイドルあんまり興味ない勢だから申し訳ないなーって気持ちもあるんだけどさー」

「え? 夜兎椥さんも……アイドル興味なかったんですか?」

「アイツも家庭事情複雑っていうか……まあ、ウチにいるやつで家庭事情まともなのって元魔王軍の三人ぐらいなんだけど」

 

 しれっとえぐいことおっしゃってないでしょうか?

 

「でも本当普通に頭いいしさー、レンって。顔がコンプレックスっていうけど身長(タッパ)もあるし声も顔もいいから自信もって表出てほしいんだよな〜。自分でメイクできるのも強みだと思うし」

「そうですね……自分も、そう思います……。夜兎椥くんは、ちゃんと、自立している、大人だと思います……」

「そうそう。まあ、顔が良すぎるのも……苦労するしな」

「ああ……あの……本当……朝科先輩も、夜兎椥くんも……顔、よすぎですよね」

「オメーゼッテー人のこと言えねー顔してるけどなあ」

「え? え?」

 

 いや、それは本当にそう。

 なんなら星光騎士団……東雲学院芸能科の現三年生の中で絶対に三本指に入る顔面偏差値を誇る後藤琥太郎。

 なんで他人事みたいなこと言ってらっしゃるんだこの人は。

 しかし、秋野の口ぶりから顔が良すぎてトラブルを呼び寄せてしまっていたタイプらしい。

 そういう人は、この業界で少なくはない被害を受けている。

 むしろそういう被害を受けないために、逆に人の目につく職業をしている場合さえあるのだ。

 顔を商売道具にすることで、盾にする。

 新たな被害も受けやすくはなるが、事務所の後ろ盾のおかげで訴えやすくなるし、セキュリティの厳しいところに住むことができるから。

 一般人では逃げきれない、という怖い話でもあるけれど、特に女性がそういう被害を受けやすい。

 なので、女性アイドルが減っている。

 ただまあ、女性に限らず男性でも顔面が良すぎるとトラブルに巻き込まれやすい。

 綾城も顔がよすぎてリアコが勘違いを拗らせて嫌がらせに『彼は自分とつきあっている』『こういうことをされた』『最低で、でも私は彼が好きだから〜』などと妄想を垂れ流して大炎上させた。

 今だったら情報の精査をされて、ネット上ですら嘘だと見抜かれそうなものだが、綾城を炎上させた女子は若かったことや、虚言の精度が高すぎた。

 そんなヤバいやつもいるので、いつどこでどこから火の矢が放たれるかわかったものではない。

 顔がいい、というのはそんなトラブルを呼び寄せやすいということ。

 

「ま、でもアンタがステージであれだけ喜んでくれたの、あの三人も見てたと思うからよ。もし変に絡まれるようなら気兼ねなく俺に言いな。絞めとくから」

「え? あ、は、はい……? ありがとうございます……?」

 

 秋野に肩を叩かれて、なぜか若干同情されたような眼差しを送られて困惑。

 ただ実際ロッカーに戻って鞄の中のスマホを見たら、朝科と檜野と雛森からのメッセージが三十件を超えていて目が点になった。

 他の人――家族や同級生などからも『優勝おめでとう!』メッセージがたくさん来ていたけれど、この三人からのメッセージ量が多すぎる。

 

「ハッ! 俺からもお祝いメッセージ送らなければ!」

「淳くん……あの~~~……」

「はい、なんでしょうか?」

「朝科くんたちがしつこかったら……言ってね……? 本当に、あの。拉致とかされたら、困るし……」

「どういうことですか?」

 

 心から心配されているのがよくわかるのだが、なんか急に不穏で物騒な心配になった。

 秋野といい後藤といい、朝科たちへの警戒がちょっと変な方向になっていないだろうか?

 

「なに~? 朝科先輩たちナッシーに会えな過ぎて拉致監禁まで考えるようになっちゃったのぉ?」

「うん、まあ、その~……よりにもよって一年間ほぼ毎日淳くん堪能タイムを作っていたから、なんか変な癖がついているみたいで……?」

「なんかほぼ毎日会いに来てたらしいもんねぇ。ああ、それで会いたくなっちゃったんだ?」

「みたい。でもやっぱりレッスンとか仕事でスケジュール厳しくて誘えなかったみたい……。雛森くんは作詞作曲の仕事、特に立て込んでいたし……朝科くんと檜野くんはコーチ依頼とか入るしね……あの二人それぞれコーチ免許あるから……」

 

 朝科はダンスの振付が得意で十八になった時すぐに免許を取得。

 檜野はボイトレのトレーナー民間資格持ち。

 三人とも兼業なので忙しいらしい。

 実は魔王軍の『レンタルコーチ』として卒業後も結構学院に出入りしていた。

 残念ながら放課後にレッスンで速攻帰る淳と、放課後レッスン中心のレンタルコーチは決定的に入れ違いになりまくっていたようだけれど。

 

「そうだったんですね。……後藤先輩が朝科先輩たちを“くん”づけになってる……」

「あ、えーと、まあ、その……そのように求められたので……?」

「仲良くしておられるんですね」

「ま、まあ、先輩ではあるし、学校の……」

 

 照れ照れしているのがよくわかる後藤。

 後藤もこの一年ずっと忙しそうではあったけれど、淳と同じように“仲間”という別の居場所ができたのだろう。

 メンケアも順調に進んでいるのも大きいだろうが、後藤が少しでも彼らしくいられる場所が増えたのならそれが一番いい。

 

「来年からはライバルですけど、頑張りましょうね」

「あ……ん。そ、そう、だね」



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