IG冬の陣、閉幕
「はあ~~~~? それならごたちゃんのことも語らないとおかしいでしょうが~~~! うちのごたちゃんがプロデビューなんて僕でも知らなかったんだけどぉぉぉ!? なんで教えてくれなかったの~!? 知ってたらケーキ用意したのに~~~! も~、このあと焼き肉奢らせてもらうんだからね!」
「本当ですよ! 最近忙しいと言ってましたけれど、まさかこんな理由だったなんて!」
「言ってよぉぉぉ! 後藤先輩、言ってよぉぉお! 言ってくれないなんて寂しいじゃん~~~」
「ごとー先輩おめでとおおおお!」
「おめでとうございます!」
「あ、ありがとう……。本当は、いや、本当に、卒業と同時に、アイドルは辞める気しかなかったんだけれど……」
へへへ、と淳たちに囲まれ困ったように笑う後藤。
これは確かに星光騎士団にも十分利益がある。
なにしろ、星光騎士団メンバーの後藤がプロデビューする告知なのだ。
というかこれ、Lethalが優勝していたらどうしていたのだ?
「はいはい! それじゃあついでにアイドルグランプリ冬の陣のスポンサー、春日芸能事務所から今度デビューするFrenzyの三人目メンバーも発表しちまおうぜー! スタッフ~」
なんだかノリノリになってしまった秋野が幕裏に声をかける。
客席が一気に興奮の様相。
おそらく淳が秋野の想像以上に盛り上がってしまったので、会場が想定よりも盛り上がったからだろう。
開場が温まっている今の盛り上がりを利用して、イベントそのものの評価を上げる方向に舵を切ったのだ。
こういう臨機応変ができるのがパフォーマーなのだろう。
「全員モニターに注目しろ! 始まるぞー! Frenzy、三人目メンバーの、発表だー!」
秋野の宣言と同時に会場が真っ暗になる。
すぐにモニターが明るくなり、シルエットが浮かび上がり『SECRET』が消えて画面が暗転。
『さあ、祭りの時間だ! 遊んで騒いで馬鹿になろうぜ!!』
声が響いた瞬間、客席から空気が揺れるほどの『ギャアアアアアアアアア!!』という悲鳴が響き渡った。
あまりの大声にステージにいた淳たちとLethalメンバーが目を見開いて固まる。
聞いたことも経験したこともない悲鳴だった。
これはヤバい。
『石動上総』
名前が浮かび、宣材写真が表示された時の客席の動揺がステージにまで伝わってくる。
誰よりも最初からFrenzyのメンバーとして有力視されていたのだから、それほど驚かれるとは思わなかったのだが。
ちなみに、三人目メンバー発表のPR動画は他の二人よりも少し長い。
『12/31 デビューライブ開催 チケット販売中』という文字とともに、メンバー全員の宣材が並ぶ。
それを見ると、ああ、この三人でデビューするんだな、という当たり前のことを思い知る。
もうすぐ、もうすぐデビューするのだ、三人で。
この一年、本当にたくさん色々な話をしたし練習もしてきた。
でこぼこの三人だけれど、結構仲良くなれていると思う。
各自、すべてをさらけ出すようなことはせず、非常に表面的なところだけで仲良くしている。
絶対に他の二人に出せないものを抱えつつ、仕事のメンバーとしてはこれ以上ないくらいに信頼している相手。
でもそれでいい。
多分、Frenzyは“それが”いい。
「っていうわけで! 秋野直芸能事務所からは来年一月にElysiumがデビューするぜ! その前に春日芸能事務所からはFrenzyがデビューする! もうデビューライブのチケットは各チケット販売サイトで販売中だから、早めに購入してくれ~! ちなみにFrenzyの方はもうチケット抽選になっているからな~! Elysiumのチケットはこのあと20時から販売開始だ! チケット抽選になる前にいい席ゲットしてくれよ~!」
秋野が客席と配信用カメラに向かって手を振る。
これは締めにかかっているな、と察して淳たちも姿勢を正してステージやカメラに向かって手を振った。
準優勝も結構すごいことなのに、Lethalが完全に置いてけぼり。
と、思っていたら秋野が「それじゃあ、改めて! 今年のアイドルグランプリ冬の陣、準優勝はLethal! 優勝は星光騎士団! みんな! デビューするElysiumとFrenzyも合わせて応援よろしくなーーーー!!」と両手をブンブン振って優勝、準優勝を讃えてくれた。
ステージのアイドルたちもそれに倣うように手をステージに向かって振る。
そのまま、ステージが暗転したのでその隙に退場。
「ごたちゃんんんん! プロデビューマジでおめでとうだおおおお!」
「あ、ありがとう……」
「おめでとうございます、本当に。今夜はたっぷり奢らせてくださいね」
「いや、大丈夫、だよ?」
「っていうかさー、後藤先輩ずっとアイドル辞めたがってたからマジで驚いたんだけど!? どういう心境の変化なの?」
魁星が振り返りつつ後藤の進路変更について聞く。
それは全員気になっていたことなので、淳たちも興味津々。
後藤は少し困った表情をしながらも、「しょ……消去法……?」と答えた。
Lethalの三人まで近づいてきて「消去法?」と聞き返すが、星光騎士団のメンバーは全員なにかを察して押し黙る。
空気感がやばい。
「え? なに? なんか星光騎士団のみんなの察した感じが怖いんだけど」
「触れない方がいい感じ……?」
「うん、まあ……」
「そこまで聞けば……はい」
聞かんとこう。






