学生セミプロのドルオタ本領発揮
「優勝したぁ……」
「優勝、したね……本当におめでとう……」
「なんで他人事なんですか! 先輩たちがいたからですよ!」
「そうだよおおお! 宇月先輩、後藤先輩!」
歓声の中で宇月が呟き、後藤が宇月の背中を撫でる。
周と魁星が二人を左右から抱き締めると、二人ともようやく実感が湧いてきたのか目許を拭う。
そのまま表彰と、盾の授与。
賞金と賞品の贈呈。
なんだか淳はまだ、少し現実味がない。
「リーダーの音無さん、代表して一言お願いいたします!」
「ええと……そうですね。俺は来年、Frenzyのリーダーも兼任して、星光騎士団のリーダーだけでいられるのは今回の冬の陣だけだったので……先輩たちを優勝という錦を持たせてみ送れるのは本当に嬉しいです」
「そうなんですよね。来年はFrenzyのリーダーと星光騎士団のリーダーを兼任で努められるんですよね! 来年の夏の陣、そして冬の陣もどうか全力を尽くしていただければと今から我々も楽しみにしております!」
司会の一言のあと、エンディングが流れ始める。
主催の秋野直芸能事務所代表、CROWNの秋野直が登壇。
リーダーの淳に、花束を手渡してきた。
「優勝おめでとう~」
「あ、ありがとうございます!」
「それでは! 今年のアイドルグランプリ冬の陣はこれにて閉幕! 優勝は東雲学院芸能科、星光騎士団! このあとFrenzyの三人目メンバー発表があるから、そっちも楽しみにな! 今後の星光騎士団の活躍にも超期待だが――ここでいちからも大大大! 重大告知!」
お?
まさかの優勝をカッ喰らう情報か?
秋野直代表がモニターに向かって手を掲げると、小声で「安心しな、星光騎士団の優勝に水を差すつもりはねーよ」と言われる。
『秋野直芸能事務所 新アイドルグループデビュー決定』
モニターに表示された文言に、淳の方がマイクの存在を忘れて叫ぶ。
CROWNに次ぐ、秋野直芸能事務所のアイドル!
今までCROWNを超えるようなアイドルは出てこないだろうと言われていた。
CROWNの存在が大きすぎて、秋野直芸能事務所からはアイドルグループは出せないのではないか、とまで言われていたのだ。
現在研修生の扱いとはいえ、元魔王軍の朝科たちがいるのにもかかわらず。
だが、デビュー。
新しいアイドルが、アイドルのパイオニアと呼ばれる秋野直芸能事務所からデビューするなんてそんなのドルオタが興奮しないわけがない。
「秋野直芸能事務所からCROWNに続くアイドルがデビュー!? わああああ」
「ヤバい、ドルオタが発作起こしてる」
「ごたちゃん、万が一に備えてナッシーを押さえておいて!」
「淳、あなた疲れているのにそんなに叫んだらまた倒れますよ!?」
忘れがちだがアイドルに――主に神野栄治に興奮しすぎて失神したことがある音無淳。
なお、複数回。
その都度倒れた淳を介抱してきたのは周と魁星。
つまり周の言うことはド正論。
『朝科旭 檜野久貴 雛森日織 後藤琥太郎 夜兎椥レン』
五人の名前と宣材写真が次々現れ、後藤のところで星光騎士団のメンバーが全員「ええええええええええええ!?」と劈くように叫ぶ。
いつも冷静な周と鏡音も聞いたことない声を出していた。
後藤!
確かにメンタルケアも込みで秋野直芸能事務所に所属が決まっていたけれど!
もう表に出るのは嫌だと言っていた後藤が!
再び、卒業後もアイドルに!
そして誰だ、夜兎椥レン。
知らない人だ。
『その名前はElysium』
『誰も知らない楽園へ、誘う』
『1/10 デビュー!』
『デビューライブ 1/24(日) 美桜公園アルティメット劇場 17時開演!!』
「おぎゃああああああ! 今からスケジュール空けますぅぅぅう! S席絶対買うぅぅぅ! チケットの発売はいつからですかーーーーーー!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてもらっていいかぁぁあ!?」
「ヤバいヤバいヤバい! ジュンジュンそれ他所の事務所の代表!!」
「淳くんそれ秋野さん! 秋野さんだから!」
「チケットならあげるから……!」
「もらうわけないでしょう!? ドルオタが関係者からチケットを!」
「もらっとけお前は!!」
星光騎士団メンバー全員で秋野の方を揺する淳の回収に走る。
さっきまでの紳士的な淳はもういない。
もうそこにいるのは、ただのドルオタ。
「だってだって、朝科先輩たちですよ!? 後藤先輩ですよ!? 俺、朝科先輩たちが一年生の時に体育館ステージでお客さんガラガラの中、それでもパフォーマンスをしていたのを見てたので知ってるんです! そんな先輩たちがプロデビューするんですよ!? しかも、秋野直芸能事務所から! あああ、こんなのもう! デビューライブ特等席で応援するしかないじゃないですか! よかった、嬉しい! ドルオタとしてこんな嬉しいことあんまりないですよ! 全国に言えますよ、俺! あの三人が魔王軍に入った頃から応援しているんですよぉぉぉぉお!!」
叫ぶドルオタ。
マイクを通して、会場に響き渡るドルオタの主張。
なお、一瞬忘れそうになるが今さっきIG冬の陣を優勝したグループのリーダーである。






