二人目メンバーの反応
Frenzyのメンバー二人目が発表されたあとは案の定、ものすごい反響があった。
当然だ、リアルのアイドルとVtuberがどうやって共演するのだ。
最近は音楽番組も減り続け、ネットでの新曲発表がデフォルトになりつつある。
他のアイドルのようにリアルイベントでライブができないのではないか、なんて色々言われるが淳はそれに対してにっこり微笑む。
まあ、そう思うのならそう思っていればいい。
むしろそういう人たちにこそデビューライブを現地で見てほしい。
淳が度肝を抜かれたあの衝撃をぜひ経験してほしいので。
「こんなの誰もわかんないよぉぉぉお!!」
と、叫ぶのは帰宅して夕飯作りをしていた智子である。
まあ、そうですよね。
「クラスメイトもそう叫んでたよ」と淳がにこにこしながら言うと智子に「そんなの当たり前だよぉ!」と睨まれる。
「これリアルイベントどうなるの? どうするの!? IG出場するんだよね? 今年の冬の陣は間に合わなさそうだけれど……」
「まあ、冬の陣の最終日に三人目の発表だから今年の冬の陣は出場しないね」
「……くううう! デビューライブのチケットは確保したけれど……」
「え? いつの間に? チケットなら普通にあげるのに」
「ドルオタがもらうわけないでしょう! 関係者チケットなんて!」
「まあ、それは……」
ドルオタなので智子の言いたいことはわかる。
オタクは推しにお金をなんぼでも貢ぎたいのだ。
とはいえ、智子は別にFrenzy推しではなかろう。
いくらお兄ちゃんがいるからって無理に推してほしいわけではない。
むしろ、淳的にはこのまま鏡音を推していってほしい気持ちがある。
鏡音はいい子だし、あれほど下心もなく智子を助けたり、接してくれた男の子は他に知らない。
同級生ですら――なんなら魁星にすら「可愛い」と褒められた中身ゴリラだ。
咄嗟の瞬間に柳のストーカーを撃退したり、それについて躊躇なく謝ることができるのも好感度が高い。
まあ、もちろん暴力はよくないけれど。
それでも――それでも暴力には暴力でしか、対抗できない。
一度暴力で襲われたことがあるのだ。
だから力も心も強い人間に、妹を任せたい。
まあ、その妹も見た目こそ女の子だが両手握力50を記録したゴリラなのだけれど。
「ちなみに三人目ってやっぱり石動上総?」
「さあ? それはどうだろう? 二人目は想像もつかない人だったでしょ? 確かに上総さんはうちの事務所の先輩だけれど、他にもVtuberはいるしね」
「ぐぬぬ……。でもまあ、Blossomと肩を並べるグループっていうのなら石動上総は絶対いると思うんだよね。お兄ちゃんがリーダーなことよりびっくりすることなんてないと思うし!」
「そう? 梅春さんはびっくりしたんじゃない?」
「……した」
ふふ、と笑ってしまう。
淳がリーダーよりも、Vtuberがメンバーなことの方がびっくりしただろうとも。
スマホでSNSを見れば、今のトレンドはFrenzy、Vtuber、どうなる? とFrenzy関係ばかり。
憶測が飛び交い、今まで『二人目は石動上総説』『二人目は同事務所の石動の関係者説』を唱えていた人々が一気に混乱に陥っている。
まあ、石動上総は実際間違っていないのだが、先に松田が発表されたことで『実は三番目のメンバーもVtuberなんじゃないか?』とか『女の子がメンバー説ないか?』『いや、シルエット的に男だろ』などなど今までにない憶測が発生しているようだ。
確かに男女混合アイドルグループというのも斬新で新しい。
だが、やはり女性アイドルはリアコ勢にどうしても狙われる。
命懸けでアイドルをやりたい、という女性がいないわけではない。
東雲学院芸能科も、女性アイドル用校舎があるくらいだから。
それでもやはり、安全性の確保が最優先されてファンとの距離が昭和。
女性アイドルは、手の届かない存在になりつつある。
男女混合アイドルは理想ではあるが、同じくらい管理が難しい。
女性アイドルを守るための護衛。
女性アイドルと一緒にいる男性アイドルが、嫉妬で狙われる可能性を考慮した護衛。
逆に男性アイドルのリアコから、女性アイドルを守るなども。
そんな面倒をどのようにして回避するか。
簡単だ、男女分けるのが一番効率がいい。
結局男性は男性、女性は女性でグループを作って活動するのがいい、という結論。
だが、今回の“Vtuberがリアルアイドルとしてデビュー”するのは、ある意味大きな変化をもたらす第一歩になるのではないだろうか。
Vtuberとしてなら、女性アイドルは安全な場所からパフォーマンスを行える。
なんなら全員Vtuberでデビューしたら、アイドル自体の安全性が高まるのだ。
今回のFrenzyのデビューライブはそれを“立証”する。
容姿に自信がない人でも、歌声とパフォーマンスさえプロのレベルであればステージに上がれるようになる。
より実力だけがモノをいう時代が目の前に迫っているのだ。
果たしてそれに気づいている人間がどれほどいるのだろうか。
「この梅春っていう人、コメプロの一期生だけど歌みた全然出してないじゃん。歌歌える人なの?」
「ンッフフ……」
「な、なにその反応〜!」
一年。
淳がレッスンを受けてきたのだ。
当然、松田も同じ量……なんならゲーム会社よりレッスンが多かった松田の方が上手いかもしれない。
まあ、それはデビューライブまでのお楽しみ、だろう。






