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ダンジョン『井の中』(4)


「にゃはは~ん。ダンジョンで大声を出すなら、ちゃんとバフかけておかないと危ないわよ~」

「あ――あなたは……!」

 

 ピンク色の髪を揺らす美少女。

 頭上に浮かぶプレイヤー名は『エルミー』。

 

「「蔵梨柚子!! 先輩!?」」

「柚子先輩!」

「え!?」

「ちょっとぉ、リアルな名前を呼ばないでよぉ~」

 

 んもう、と手をぐーにして顎に添えるぶりっこっぷり。

 腰も捻って謎のポーズをしているが、肩に背負っている斧がごつすぎる。

 エルミーの正体を知っているシーナとセイとバアルが「すみません」と謝罪。

 

「え? 蔵梨、柚子……様?」

 

 思い切り中の人の名前を呼んでしまったので、エルミーの中の人が誰なのかを知らない二年生ズとヒナ。

 そのエルミーの背後に、もう一人の影がゆっくりと立ち上がって見える。

 眼球の上部を青、下部を萌黄色に設定した白髪のアバター。

 プレイヤー名『エイラン』。

 シーナも見るのが初めての和装装備と、左右に下がる双剣。

 間違いなく、中位職。

 サービス開始から三ヶ月。

 中位職から上位職になっているプレイヤーはちらほら現れ始めてはいるが、シーナも初めて見た。

 

「知り合い?」

「後輩たち♡」

「うわ。可哀想」

「辛辣ゥ♪ ねえ、いい?」

「いいけど」

 

 ほぼ二人だけで完了してしまった会話に首を傾げる。

 蔵梨柚子はゲーマーとは聞いていたが、まさかこの広いゲームの世界で遭遇するとは思わなかった。

 

「え? 蔵梨柚子って言った? 柚子様なの? ねえ」

「あ、えーと」

 

 真顔で詰めよってきたミオに、しまった、と思ったがもう遅い。

 焦りながらも近づいてきたエルミーに目線で助けを求めるとにっこりと微笑まれた。

 どういう意味の笑顔だ、それは。ちょっと怖い。

 

「蔵梨柚子だよ。ミオってことは宇月美桜ちゃん?」

「ヒッ!! こ、声……ほ、本物だぁぁぁぁ! きゃあああ! だだだだだ大ファンですぅ!!」

「後輩って言ってなかった?」

「こう見えて後輩に信者がいるタイプの声優なのだよ」

「騙されてて可哀想な後輩だね」

「真顔で人の可愛い後輩を憐れむのやめてくれるぅ?」

 

 キャー! と大興奮でエルミーに握手を求めるミオ。

 わかる。推しを前にしたらオタクこうなるよね。

 真顔でミオに共感するドルオタ。

 そんなミオを心の底から憐みの眼差しで見るエイラン。

 プチカオスである。

 

「月末のイベントも見に行きます! 超楽しみです!」

「えー、来てくれるのぉ? アリガト♡ あたしも会えるの楽しみにしてるねぇ~~~♡」

「はいいいい~~~!」

「エイランさん、お久しぶりです。エイランさんもSBO始めていたんですね」

「バアルくん、お久しぶり。うん、VRMMOは基本とりあえず全部触ってみるから。エルミーがいなかったらここまでレベル上げしてないかなぁ」

「ああ、そうですよね。ちょっと特殊ですよね、SBO」

 

 まさかのバアルも知り合い。

 後輩たちの「え? どういう関係の方ですか?」という好奇心駄々洩れの視線に気がついたバアルが、シーナたちの方に向き直る。

 

「こちらはエイランさん。eスポーツのプロ選手。いわゆるプロゲーマー。僕が『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』に引きこもっていた時、エージェントプレイヤーとして一般プレイヤー支援をしていたエイランさんにはとてもお世話になったんだ。エルミーさんとはそれ以前からフレンドだったみたいけれど」

「初めまして、エイランといいます。そうだね、エルミーとは…………まあ、ゲーマー同士VRMMOは二ヵ月から三ヶ月に新作が一本出るか出ないかだし……被ることは多いかな……遭遇率が高いというか……」

 

 ああ、なるほど……と納得。

 VRMMOを生業にするゲーマーだと新作VRMMOはとりあえず購入してプレイする。

 当然時期もかぶる。

 ログイン時間はともかく、発売して間もなく同時期に始めれば少ないプレイヤー人口で飛び抜けてプレイヤースキルが高い者の思考と行動は似てしまう。

 それで結局遭遇してしまう、という話なのだろう。

 

「ひっど~い。マブダチでしょ、あたしたち☆」

「キッツイなぁ…………」

 

 声に滲み出るガチ感。

 まあ、ネカマプレイに定評がある蔵梨柚子とそれだけ遭遇率が高ければ色々見ているのだろう、色々。

 

「それはともかくとして、せっかく会ったんだし一緒に遊ぶぅ? あ、あたしたちはグラディエスクレイフィッシュを狩りにきたんだけどね」

「僕たちもです。でもみんな22時解散ってことで集まったので、今日はレベリングだけにしようと思って……」

「22時までなの? じゃあ、一匹くらい狩れそうじゃん。グラディエスクレイフィッシュは倒すとポップするエネミーだから、エレクトクレイフィッシュと違って一日待つ必要ないし。暇潰しにダンジョンボスまで狩っていけるんじゃない?」

「え、ええ?」

 

 シレっとダンジョンボス狩りまで宣言している。

 エルミーの話によると二人も獲物もグラディエスクレイフィッシュ。

 なんでもグラディエスクレイフィッシュが落とす素材で、エイランの新武器を作成したい、との話。

 その武器の武器スキルが、なかなか強力なのだという。

 

「俺は手数でダメージを蓄積してじわじわ削るタイプなんだけど、グラディエスクレイフィッシュの素材で作った武器のスキルは結構強力なんだ。『ファイブソング』以降のダンジョンの敵は思ったよりも硬いから、攻撃力を強化したくって」

「ゴールドフィッシュの変異種レインボーフィッシュが落とす『幸運上昇の虹色鱗』もほしいよね。『ファイブソング』以降のダンジョン、どこもドロップ渋すぎだって~」

「うん、俺もそれもほしい。俺は歌も下手だしソロじゃ到底無理。エルミーとのコンビプレイでも限界」

「ドロップ率上昇効果の歌まで、口が回らないんだもん。あたしもエイランも前衛だから、魔法使い系のサポほしかったの。ねえ、いいでしょ?」



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