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和香さんのカフェ(1)


「誰!? 他のメンバーって誰!? 教えてお兄ちゃん!」

「内緒~。来週発表されるから楽しみに待っててね」

「気になる気になる気になりすぎるぅぅぅぅぅう!」

 

 西区の一画。

 時間で料金を支払う駐車場に車を停止させてから智子を宥める。

 まさかこうもタイミングがかち合うとは思わず、バックから伊達眼鏡も取り出して装備した。

 自意識過剰でもなんでも、こうも騒ぐ人が近くにいては人目を引く。

 智子が普通に美人なのもマズイ。

 溜息を吐きながら、智子が「予約していたカフェはこっちだよぉ」と指さす方には五又の交差点。

 一番尖がった場所に、和風と洋風が入り交じったような店がある。

 静かな住宅地のど真ん中に、独特の空気感のその店から若い女性二人組が出て行った。

 キャッキャとした彼女らと入れ違いで智子が店に入る。

 

「いらっしゃいませ」

「予約していた音無です」

 

 と、智子が店員にスマホを見せると、店の中のお客さんの視線が一気に智子に向かったのが見えた。

 スマホを見せたのが女の子とわかると、ほとんどのお客さんは視線を一緒に来ている同行者へと戻したが店に入るのを躊躇してよかった。

 もしも普通に入店していたら、絶対にバレていただろう。

 

「こちらへどうぞ」

 

 店員に案内されて入店し、一番奥の個室に案内される。

 長めの暖簾がかかった個室は四つ。

 一番奥の部屋は四人掛けで、淳は一番奥に押し込まれた。

 

「ご注文がお決まりになりましたら、タッチパネルにてご注文ください」

「ありがとうございます」

 

 智子が店員にお礼を言うと、店員はホールに向かって歩いていく。

 思いの外、近代的なカフェ。

 

「ランチメニューはここ~。私、俵おにぎりセット。飲み物は緑茶で、デザートは和風パフェ!」

「へえ~、おにぎりがあるんだ? お父さんも俵おにぎりセットにしようかな。いや、お稲荷さんセットも美味しそうだな~」

「お母さんは俵おにぎりとお稲荷さんのハーフセットにしよう! 飲み物はホッとほうじ茶、デザートはミニ抹茶パフェ」

 

 母と妹、決断が早すぎる。

 パネルを渡された父と淳、メニューを覗き込むと『和風』『洋風』と大きく分かれており、洋風は典型的なパンケーキやオムライス、ナポリタンパスタなどがあた。

 和風は俵おにぎりや稲荷寿司、手作り具材のおにぎり、和風パスタなど。

 そして、カテゴリの一番端に変な項目がある。

『グッズ』……なる項目が。

 

「ああ、本当に本人なんだぁ……」

「え? なにが?」

 

 興味本位で『グッズ』項目を見てみると、コメットプロダクション所属Vtuber、和香(わこう)アゲハグッズがずらり。

 店舗在庫があれば購入できるらしい。

 そんなことあるものなのか。

 なんなら、店舗オリジナルグッズなるものまである。

 まあ、店の宣伝でVtuberを始めたのならあってもいいのかもしれない。

 片目を前髪で隠した、丸い小さなサングラスをかけたストレートの茶髪のキャラクター。

 狐耳で、和装。

 長パイプを持ち、妖艶に微笑むこれが和香(わこう)アゲハ。

 淳も配信でしか見たことがないが、心地よい低い声でとても柔らかく話す人だったはず。

 リスナーとも穏やかに会話して、夜寝る前に聞いたらそのまま寝そうな。

 

「グッズ買っちゃおうかな~」

「私もそう思ってた。アクリルスタンドくらいならいいよね」

「俺はアクリルキーホルダー注文しよう」

 

 食事と一緒にグッズも購入できるのはいいサービスだと思う。

 父は高菜パスタ、淳はオムライス。

 カフェ飯といえばオムライスだろう、というイメージで注文。

 少しして、黒い長髪に赤いメッシュがところどころに入った三つ編みの男が暖簾を持ち上げて入ってきた。

 大きめの薄い茶色のサングラス。

 長身で、そして優しげな聞き覚えのある声。

 

「いらっしゃいませ~。ご注文の品をお持ちいたしました~」

「「あ」」

 

 180センチを超える高身長。

 丁寧に台車から料理を並べていく。

 

「デザート以外のご注文の品はお揃いでしょうか?」

「は、はい」

「では、デザートは食後にお持ちしますね~。あ、音無先輩、デビューおめでとうございまぁ〜す」

「あ、ありがとうございます」

 

 ぺこり、と笑顔で言われて淳もぺこり、と困惑しつつ返す。

 ああ、やはりこの人が和香(わこう)アゲハか。

 確かに、ほのかに甘い香りがする。

 バニラと、なにかのハーブの香りだろうか。

 

「えええ……中の人だよね? あれ。え、やっばい! すごいカッコいい!」

「俺、先輩になるのかぁ……」

「あのままでも十分売れそうな人なのになんでVtuberでデビューしたんだろう?」

「さあ?」

 

 そればかりは本人の意思。

 ただ、まあ、カフェの店長ということではアイドルやタレントはやってられまい。

 あれほどの美男子だ、普通にそちらが本職になりそうである。

 カフェの宣伝、に止めたいのであれば、Vtuberぐらいがちょうどいいのかもしれない。

 それなりにセーブもできるし、ガワがあれば本人が表に出ることもないのだ。

 実際声を聞くまで彼が和香(わこう)アゲハご本人とは確信を持てなかった。

 配信を見ている人なら一発でわかるだろうけれど。

 

「でもあんなイケメンが配信してるのならコメプロのVtuber、ちゃんとチェックしてみようかな……」

「わかる。ちなみに私は勉強しながらコメプロVtuberちょっと見るようになったんだけどオススメは二期生のトリシェ・サルバトーレ・神礼(ミレイ)とマオ・ロセーラジャッジメント、三期生のナターシャ・カルディアナ。トリシェ様トークマジ面白いし勉強になる。マオ様ポンコツすぎて愛おしい。三期生ナターシャ様、マジ歌うますぎて歌の女神」

「へえ」



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