新居探し
オーディションの翌週。
淳は朝から非常にソワソワとしていた。
「お兄ちゃんー! おはようー!」
「お、おはよう……」
「え? どうしたの? 体調悪い?」
「う、ううん……なんでも、ないよ……」
「なんでもなさそうに見えないよ?」
智子にものすごく心配される。
まあ、朝からこれほどカチカチなら心配もされるだろう。
だが、理由を言うわけにはいかない。
家族にも内緒ですよ、と約束させられているのだから。
「まあ、その……今日のお昼に公式発表が、あってだね……」
「なにかあるの!? 公式!? あ、事務所の方!?」
「まあ、そう。詳しくは言えない。守秘義務」
「なるほど! 了解! ツブヤキッター? ホームページ?」
「どっちも」
「めっちゃ楽しみにしてるね!」
さすが年季の入ったドルオタの妹。
おそらくこれだけでほぼほぼ理解はしてくれたと思う。
両親も起きてきて、顔色の悪い淳をそれはもう心配そうに覗き込んでくる。
「やだ、淳。大丈夫?」
「今日休みだよな? 不動産屋行けそう?」
「だ、大丈夫〜……」
当初の目的通り、本日、十三日の日曜日は大学に通う時の部屋探し。
智子、暇なので一緒に行く。
つまり家族全員でお兄ちゃんの部屋探しである。
朝食を無理矢理食べて、身支度を整えていざ、中央区にある不動産屋へ。
「大学に通う時のお部屋を今の時期から! 素晴らしい。受験シーズンが過ぎたあとですと、部屋探しが集中するので今から探しておくのは大正解です。まあ、その……落ちた場合のことも考えていただけると、ですが」
「ああ、その場合も一人暮らしをさせる予定なので大丈夫です。できれば中央区から東区の近くが好ましいんですが。一応、東雲学院大学部志望で」
「人気の大学ですね。あのあたりの部屋はすぐ埋まってしまいますから。ご希望は?」
「風呂トイレ別、エアコン完備、防音、セキュリティと回線重視で」
スラスラ、事前に話し合っていた部屋の条件を父が不動産屋に伝えていく。
不動産屋はパソコンで父の言う条件を打ち込み、物件を絞っていった。
特にセキュリティと回線は譲れない。
一番セキュリティと回線、防音を強化しても問題ないマンションを二ヶ所、おすすめとして紹介された。
「こちらと、こちらが東区近くですと特にセキュリティの高いマンションですね。家賃にこだわりがないとのことですが、ここまできますと学生向けではなくなってしまいますが」
「ええ、それでも構いません。今日決めるわけではないので、資料だけいただいても?」
「見学はいかがしますか?」
「夜間の様子も知りたいので、一晩家族で泊まらせていただきたいのですが、可能ですか?」
「あ、でしたら予約をしていただきたくて……」
「予定します。とりあえずこちらを先に……」
どんどん進んでいく話に、淳は色々いっぱいいっぱい。
では昼間のうちに見学に、という話になっており、ひとまず片方のマンションの部屋を内見に行くことに。
不動産屋を出て、不動産屋の車について件のマンションのうち一つに移動してみた。
「こちらがルドルフビルです。十階建てで、築年数は四年。セキュリティとしてはエントランスホールとお部屋の扉がオートロック。監視カメラが二十四時間。警備会社の監視と、警備員常駐。一階にはコンビニとATM、四階にはジムとプール、大浴場があります」
想像よりヤバい物件が出てきたぞ。
思わず父に「が、学生にこれは……」と若干引きながら話しかけてしまう。
「セキュリティ重視にしたからな」
「ええ……? でも……」
「大学に入ったらプロのアイドルや俳優としての活動も視野に入るだろう? このくらいのセキュリティがないとなにがあるかわからないよ」
「そ、それは……」
確かにその通りではある。
不動産屋が紹介したのは五階の西側の部屋。
502号室。
鍵はなんとカードキー。
真っ白なドアを開くと、広めの玄関。
右の最初の扉はトイレ。その隣がお風呂。
左隣は広めの洋室。
クローゼットがあるので、物置などに使えそうだ。
廊下を通りガラス扉を開けるとだだっ広いリビング。
リビングの横の部屋は防音室と、和室。
「角部屋ではありませんが、隣室の隣のこの区画に防音室がありますので壁はかなり厚目になっております。一部屋丸ごと防音室があるのはこちらのお部屋だけですね。そして、一番こちらのマンションをオススメしたい理由はこちら! リビングからサンルームです!」
「マンションでサンルーム!」
「ええ、サンルームに洗濯物を干すことができますので、花粉や黄砂に悩まされることはございませんし、著名人にありがちな衣類の盗難の心配、防弾ガラスですのでベランダやバルコニーから不審者に侵入される心配もございません」
セキュリティすごすぎて開いた口が塞がらなくなる。
今のセキュリティつよつよマンションはそこまでするのか。
というか、そこまですごいと逆に家賃が不安になる。
「お、お家賃は……」
「月十二万です」
震えながら父を見てしまう。
都内ならば三十万から四十万はしそうな部屋が、十二万。
安いのか? 高いのか?
一人暮らしが初めてなのでわからない。
本当にわからない。
「まあ、そのくらいはするだろう。もう一つの部屋は」
「あちらは十万円ですが、防音室が狭く、サンルームがありません。それに、駅が近すぎて電車の音や繁華街の雑音があり、セキュリティは高いのですが学生さんにはあまりオススメはできません」
「ふぅむ。悪くなさそうだね」






