SBO内オーディション開催(2)
「あ、ちなみに今回のオーディションは出演者の個人情報はIDのみなので、本当に歌唱力のある人だけ選んでください。アバターなので容姿は見なくて結構です。今回選ばれた人間は後日第二審査の方に回しますので」
「わかりました。どのくらい厳しくすればいいでしょうか」
「バチバチに厳しくしてくださって構いません。プロになりえる人を探しに来ているので、生温さは不要です」
「「了解です」」
開始時間は午前十時から。
なので淳と周はステージ裏にスタンバイ。
椅子を淳が持って、時間になったらステージにマイクを持って、星光騎士団のステージ衣装で駆け上がった。
「おはようございまーす! 東雲学院芸能科、星光騎士団団長、音無淳です! そして本日のサポートを担当してくれるのは――」
「おはようございます。星光騎士団の狗央周です。本日はリーダーのお願いで同行しております」
「ありがとーう」
「どういたしましてー」
謎のハイタッチ。
しかし、アイドルが仲がいいのを眺めるのが好きなオタクからは「きゃーーーー」という黄色い悲鳴。
「はい、本日なんで俺たちが出てきたのかというと、俺が主催の春日芸能事務所所属だからですね」
「自分はたまたま本日予定がなかったのでお手伝いを買って出たまでですね」
「というわけで本日のオーディションについてご説明いたします。告知日よりSBO内にて参加表明応募フォームを設置させていただいておりました。こちら現在は締め切っております。これで事前に応募してくださった皆様が、本日のステージに集合してくださっていると思うのですが……こちらの想定よりも多くの方にご応募いただき本当にありがとうございます! 順番は早い者勝ち。ステージに上がってきた順番となっており、ステージ手前でIDを入力。ステージに上がってお名前と曲名を宣誓ののちに歌っていただいて解散という皆様のご協力が必須のものとなっておりまーす」
「応募なさった方で本会場にいらっしゃっておらず、ステージに上がらなかった方はそのまま落選という形になりますので予めご了承ください。また、本審査を通過された方は一週間以内に運営を通して第二審査のご案内をメッセージにてご案内を差し上げますので、そちらの指示に従い第二審査にお進みいただければを思います。一週間たっても案内メッセージがない場合は、今回ご縁がなかった、ということでご納得くださいませ」
「それでは審査員をご紹介します。春日芸能事務所、社長。春日彗さんです。どうぞ!」
淳がステージの端に置いた椅子に、社長が入ってきて座る。
打ち合わせもなにもしていないのでまあ、それも仕方ない。
あまり目立ちすぎても、このイケメンは目立ちすぎるしこのイケメンを見て自信喪失する人も現れそうだ。
なので周を残して淳がインタビューに向かう。
「春日社長、参加者の方々に一言いただけますか?」
「ええ、まあ何人ステージに上がる気概があるかわかりませんが、楽しみにしていますね」
圧が。
圧がすごい。
ステージセンターに招いていなくて本当によかった、と思ってしまった。
あれをステージの真ん中から客席に言い放たれたら、半分くらいがステージに登るのを断念しそうだ。
それでなくとも応募がおおくても恐らく半分くらいは来ていなさそうなのに。
まあ、時間指定は開場時間のみなのであとからログインする人やステージの近くにいない人もいそうだけれど。
このゆるいオーディションルール、参加者の『本気度』と試す方式なのだ。
本気で事務所入りを目指すものは勇気を出して挑んでくるだろう。
つまり、受かりたい者、やる気のある者は時間通りに来ているし、積極的にステージに上がれ、ということ。
淳と周はそれを加味する必要はない。
最初に言われた通り、歌唱力を重点的に審査していい、とのこと。
「それでは一番緊張する最初に切り込みたい人〜」
のんびりと周が手を挙げて、ステージに参加者を招く。
さすがに一番最初は緊張するのか、なかなか人が登ってこない。
と、思っていたら後ろの方から「はいはいはいはいはい!」と誰かが飛び跳ねながら人垣をかき分けようと手を挙げて叫んでいる。
ステージの前にいるのは参加希望者のはずなのだが、前にいるのにステージに登らず後ろにいた人に譲るのはかなり……だなあ、と笑顔のまま目を細めた。
まあ、それは仕方ない。
「一番! ユミール! 歌うのは――」
後ろから手を挙げながら駆けつけてきたのは150センチくらいの小柄な少年。
声は中性的。
歌唱力は……普通、だろうか。
しかし非常に楽しそうに歌う。
もしこの子が東雲学院芸能科の一年生として入学してきて、ライブオーディションに出演していたらこちらから声をかけてもよい、という“伸びしろ”は感じるくらい。
“プロとして”という観点で見たら実力不足が否めない。
イベント管理者モニターを開き、プレイヤー名を検索すると事前登録者の中に名前を見つけて合否判定『否』にチェックを入れた。
もちろん表情には出さないけれど。
「~~~♪」
歌い終わるとペコリ、と頭を下げる。
そのタイミングで淳と周が彼の側に近づく。
「ありがとうございました。では、あちらから退場ください」
「あ、ありがとうございました!」
「それでは次の方」
「は、はい! はい!」
「はい、どうぞ」
ステージ下にいつの間にか列ができていた。
こういうところは日本人だなぁ、と感心しながら順番通りステージに誘導する。






