SBO内オーディション開催(1)
話は逸れたが、綾城は淳の方を見て「石動くんはああ言っていたけれど、リーダーは淳くんでしょう? どう思う?」と小首を傾げる。
あざとい。
さすが、あざとい。
十九歳成人男性がこの仕草をして可愛いと思うのだから、淳の欲目抜きでやはりこの人はキングオブアイドルなのだろう。
「ええと、俺も上総さんの意見に賛成です。というか、俺が勝手に上総さんの意見をスルーしてしまうと、あの人ステージに上がってくださらなくなります」
「確かに」
「そ……そんなことする?」
「石動くんならするね」
こくり。
しっかりと頷く綾城に、甘夏が「うわあ……」とドン引き。
甘夏は石動とあまり接点がないので、石動の苛烈なところをよく知らない。
とはいえ、彼は今れなりにこだわりがある人だ。
Blossomと肩を並べるグループとしてデビューするのなら、彼らの知名度に頼るのは嫌だ、というその心意気は理解できる。
だって、Blossomは本当に実力だけでIGを三回、勝ち抜いた。
圧倒的な歌唱力、パフォーマンス、知名度。
たとえBlossomメンバーほどの知名度がなくても、歌唱力とパフォーマンスは絶対に引けを取らない。――はずだ。
だからどうか見守っていてほしい。
Frenzyは自分たちの力で立って歩いて前へ出る。
今、Blossomのいるアイドルの最前線に。
「そう。わかったよ」
「お気遣い、ありがとうございます」
「ううん。石動くん、こだわりには誇りがある人だもんね」
「そうなんですよね。ある程度尊重をしなければヘソを曲げるといいますか」
「わかるよ。うちも神野先輩が……」
「あ、ああ……」
あの人もプライドが高い。
主に仕事に対しての。
逆に仕事以外のプライドが非常に低いので、エアリムのように上手い感じに転がすのが無理なのだ。
石動もそういうところがある。
仕事はやや適当なところがあるものの、彼は彼がしてきた努力に対して絶対的なプライド……こだわりがあった。
それ以外は――少し、諦念的。
多分、石動上総は自分のことが、大嫌い。
だから彼は自分の努力だけは信じている。
石動上総の中で自分の努力だけが礎になっているのだと思う。
そして淳も、彼のそういうところが尊敬できるところの一つ。
「では、来年を楽しみにしているね」
「はい。どうぞよろしくお願いします」
十一月の定期ライブが終わると十二月の五日はSBO内で春日芸能事務所でのオーディションが開催。
これは全国からアイドル志望、歌手志望が集まる。
当初は期待されていなかったらしいのだが、社長がアバターを作ってログインしてきたらまあ、びっくり。
「多いですね?」
「eスポーツ世界大会エキシビジョンマッチの影響のようです。淳がやりすぎましたからね」
「ええ〜? 俺だけのせいではないと思うんだけれど。というか、社長のアバターは“大人”なんですね?」
「ええ、せっかく久しぶりの“大人の姿”なので。滅多にこの年齢の状態で動き回ることはないので、ゲームの中はいいですね」
「「はあ……?」」
首を傾げるのは淳と周。
魁星は本日、事務所のレッスン室でRepressionの集まり。
いよいよRepressionも来年のデビューに向けて、本格始動の準備が始まったわけだ。
そして社長のアバターは二十歳前後の大人の姿。
本当に、普段の車椅子の少年がそのまま大人になったかのような姿だ。
淳よりも目線が上。
180センチ、細身の超イケメン。
ふわふわの石竹色の髪、留紺色の目。
流し目に異様な色香を感じる、美人系イケメンだ。
なるほど、もしも事故に遭わず車椅子にならなければ、社長はこんな大人になっていたのだろう。
この高身長、この顔、この声、そしてこのスペックだったら引くて数多どころの話ではない。
「しかしお忙しい中、サポートを買って出ていただきありがとうございます、狗央くん」
「とんでもございません。春日社長といえば春日財団の中心人物。東雲家の者としてご挨拶及び雑務のお手伝いができますことをむしろ光栄に思います」
「おや、それでは今日は狗央くんではなく東雲――周くんとお呼びした方がいいでしょうか?」
「お好きな方でお呼びください」
周が、いつもの周ではない。
社長、金はあるとは聞いていたが、実家死ぬほど大嫌いな周が実家の名前を出してまでぺこぺことするのだから本当にすごいのだろう。
「実際僕はゲームが初めてなので助かります。本当は配信で見るつもりだったんですけれどねぇ」
「せっかくほぼ生歌で聴けるのにもったいないですよ」
「そうなんですよねぇ。柘榴にも言われました。再現度にこだわった意味ねぇだろ、って」
柘榴――王苑寺柘榴。
SBOを開発した紫電株式会社の社長、らしい。
確かにビブラートまで細かく再現してくれるSBOの音声出力は他のゲームの比ではない。
実際ゲーム内で歌を聴いて判断した方がいいと思われる。
そして、今回淳と周が同行するのは護衛兼、来年の練習。
来年新しい一年生が入ってきたら、星光騎士団を希望する生徒たちを選別する練習だ。
今回想定以上に人が集まってしまったため、司会進行として参加するつもりだった淳と周は審査を手伝うように頼まれてしまった。
実際来年、初めて審査“する側”になる。
その痛みを今から経験しておこう、というなかなかに重い役目を社長から提案されたのだ。






