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ダンジョン『井の中』(3)


「でも、シーナくんって思っていたより歌上手いね? まあ、ミュージカル俳優志望って聞いていたから上手いんだろうなって思っていたけれど」

「あ、は、はい。えへへへへへ……。今は声も出せなくなりましたけれど……」

「早くよくなるといいね。みんなで一緒にライブで歌えるのが楽しみだもん。僕、実質星光騎士団のリーダーとしてライブに出られるのはIG夏の陣が最後だし」

「え? なんでですか? IGは冬もありますよね?」

 

 IG(アイドルグランプリ)は夏の陣と冬の陣の二回開催。

 三回優勝で殿堂入り。二度と出演できなくなる代わりに、永遠に名を刻むこととなる。

 現時点で殿堂入りしているのはCROWN(クラウン)のみ。

 年々アイドル人気が上昇し、男女関係なくアイドルグループは増え続け、地下アイドルなるものまで定着し始めている昨今で三回優勝など夢のまた夢。

 今年もまた過去最高の参加組数。

 東雲学院芸能科のアイドルも夏冬両方参加しており、本選にコマを進められ、尚且つ優勝に手が届きそうなセミプロ学生アイドルと言われれば星光騎士団の名は確実に挙がる人気枠の一角。

 バアルの口ぶりだと、夏が最後、のように聞こえた。

 

「夏の陣を最後に団長の座は美桜ちゃんに譲る予定なんだよ。だから”星光騎士団団長、綾城珀”はIG夏の陣が最後。冬の陣は星光騎士団の一団員としての参加になるかな。練習もBlossom(ブロッサム)が優先になると思う」

「ああ、そ、そうなんですね……」

 

 それは――来年には三年生が卒業するから、という現実を思い知らせてくる。

 バアルは一度目を閉じてから、「だから今年の夏は絶対に手を抜きたくないんだよ」と微笑む。

 まるで自分に言い聞かせるかのように。

 二つのグループのリーダーなんて、それだけでも大変そうなのに。

 

「だからってシーナくんが焦れる必要はないよ」

「へぁ!?」

「僕の夏の陣は今年が最後だけれど、君の夏の陣は今年からだから。最後に後悔しないように努力をできればそれでいいと思うよ」

「あ……っ。は、はい」

 

 後光だ。後光が見える。

 思わず手を組んで跪いて祈りを捧げそうになると、バアルが割と本気で「急にどうしたの? 具合悪いなら無理せず言ってほしいな」と慌てだす。

 だが、セイやルカたちは察した。

 ああ、ドルオタの本能のままに跪いたんだろうな、と。

 実際ライブで興奮しすぎて失神している姿を見ているので「失神しなかっただけましかもしれない」と思ってる。

 ゲーム内で失神すると、強制ログアウトだ。

 

「あ! ねえ、アレもモンスター?」

「え、あ! は、はい! グラディエスクレイフィッシュの下位、レッサークレイフィッシュです」

 

 怪訝そうに首を傾げていたミオが、蠢くものに気がついて指をさす。

 紫色の藻の後ろに、紫色のザリガニが大きな鋏で金魚のモンスターを挟んで捕え、口に運んでいるところだった。

 それを見て、ドン引きするミオ。

 

「食べて……ええ!? 食べてるんだけどぉ!?」

「『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』の技術を流用している一部のゲームはゲーム内モンスターが食物連鎖を形成しているからそういうこともあるよ。その中でモンスターが食べたものの影響で突然変異で凶暴なモンスターや、色違いモンスター、大きさが違うなどのモンスターが産まれてくるように設定してあるんだって。”魔法使い”の上位職である”楽師”派生で”テイマー”っていうのがあるから、テイム用の特別感があるモンスターが産まれるようになっているんだろうね。見つけるのは大変そうだけれど」

「『サードソング』の町のクエストの中にも『大量発生したゴールドフィッシュ』……さっきの金魚のモンスターですね。あれを『三十匹討伐してほしい』

とかありますし」 

「結構緻密なんですね」

「このレベルは珍しいよ。『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』が国家指導で開発された国営VRMMOだから、その技術を流用で作られたものはどれもレベルが高いものが多いしバグも少ないけれど……『ソング・バッファー・オンライン』は『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』の制作にも携わった『紫雷株式会社』が作っているので、かなりストレスフリーだと思うな」

「え、あ……う……」

 

 なんとなく関心しただけのルーヴァが、バアルによる怒涛の解説で困惑している。

 若干シーナもビビった。

 確かにゲーム好きとは聞いていたけれど、想像以上にお詳しい。

 まさか制作会社の知識までお持ちとは。

 黙り込むメンバーにバアルがハッとして「あれ、もしかして引いた……?」と眉尻を下げるので、全員が「そんなことないです」「そんなことないよぉ!」「そんなことあらへんよぉ!!」と全力で否定。

 びっくりしただけです。

 

『ギシャアアア!!』

「まずい!」

 

 大声を出してしまったのが災いして、レッサークレイフィッシュに見つかってしまった。

 襲いかかってくるレッサークレイフィッシュの動きは、思った以上に速い。

 歌バフが間に合わない――!


「~~~~♪」


冒頭一節だけ歌声が響き、レッサークレイフィッシュを真っ二つにする影。

ギョッとしていると、その影がゆらりと藻の上から立ち上がり、巨大な斧を肩に担ぎ直す。




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