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突然の会議


 石動のものすごーい嫌そうな表情と、半笑いになってごまかす綾城と瀬能。

 もう表情が半ば虚無になっている槇と松田。

 相変わらずカチカチの木熊。

 淳も仕方なさそうに眉尻を下げる。

 

「そういうのは、ええと……運営が決めるものだと思うのですが」

「ビルと劇場の完成を祝う竣工式(しゅんこうしき)も兼ねているんですよ。実は準備はもう始まっていて、フェスオリジナルグッズやコラボグッズも準備中だったりしまして」

「ああ、なんか色々聞かれましたね、最近。ボイス撮ったり、化粧品の色を選んだり、香水の香りを作らされたり、マニュキュアの色を選んだり、エナドリのジャケットを撮影したり、クリアファイルのデザイン確認したり、料理や飲み物のメニューやレシピを考えさせられたり、ぬいぐるみのデザインを確認させられたり、スマホケースのデザイン確認したり、充電器留めの確認したり」

 

 さすがBlossom(ブロッサム)

 Frenzy(フレンジー)よりも確認しているものが多い。

 

「俺もアクリルスタンド五種類ぐらい作られてましたよね」

「そうだよ。定期的に販売していくよ。フェスの時は販売終了しているグッズも再生産して販売するよ。その方が買い逃した顧客や新規客の満足度を得られるからね」

「えぐぅ……」

「販売戦略ですよ」

 

 確かにグッズの再販は手に入れられなかったファンにとっては嬉しいものだ。

 特にVtuberのグッズは期間限定で数量限定。

 在庫が売り切れたら、それ以上手に入れられる可能性は非常に低い。

 再販なんて余程爆発的な人気の時ぐらいなものだろう。

 フェスで再販されるとなれば、ファンは全国から現地に押し寄せる。

 

「春樹の3Dから、二期生、三期生の3D制作も進んでいますしね。来年の十月なら五期生まで揃えることができていると思います。ので、コメプロのVtuberたちのステージも予定していますよ」

「五期生? そんなにデビューしていたんですか」

「今のところ八期生まで予定で埋まっているんですよ」

「うわあ……」

 

 なんで松田が嫌そうなのだろう。

 首を傾げると「頑張れよ、セ・ン・パ・イ♪」と石動がからかう。

 なるほど、そういうのがあるのか。

 確かに松田はそういうのを気にしそうである。

 あまり敬われたくない、という人間にしては珍しい感情。

 ただそれは、コメプロから初めてデビューしたライバーなのに、今や後輩たちに登録者数をあっさりと抜かされ、なんとコメプロで一番登録者数が少ない――という悲しい現実に基づくものだ。

 後輩たち、みんなクセがありすぎ、キャラが濃すぎて松田の普通感が際立っている。

 エイランや鏡音のようにゲームが上手いわけでもなく、トークに花があるわけでもなく。

 歌みたは一本も出しておらず、比較的ぐだぐだしたゲーム配信が主になっている元祖コメプロライバー。

 コメプロ唯一の一期生なのに、ご覧の通り自分に自信がないタイプ。

 

「で、議題はフェスタイトルな訳です。社内で検討しましたがここは出演者の意見も聞いてみるべきという意見が多数出ました。というわけで本日は残り少ない今年のスケジュールと、来年のスケジュール。そしてフェスのタイトルについてを皆さんにお聞きし、参考にさせていただければとおもいまして」

「単に考えるの面倒くさくなっただけなんじゃね?」

「そんなことはないですよ? ねえ? 黎」

「俺ですか!? ……ま、まあ……そ、そうです、ね?」

 

 思い切り目を逸らされる。

 説得力が一気になくなった。

 

「もー、真剣に考えてくださいよぉ〜。僕もう今日は考えるのに飽きました〜」

「丸投げかよ。松田、なんかないのー? 俺もこーゆーの考えるのダルいからやだわ」

「おぉぉお俺ぇ!? 無理無理無理! そんな重大なこと俺が考えられるわけないだろう!?」

「つーか俺らのあとにもなんとかっていうグループがデビューの予定なんだろう?」

「そうですよ。実はもうレッスン始まっています。Frenzy(フレンジー)にもIG殿堂入りをしてほしいので、行けそうなところまで行ってもらいたいと思っています」

 

 にこり。

 と、割とかなりとんでもないことを言っているような?

 

「無難に『スプリングコメットフェスティバル』でよいのでは?」

 

 話題の修正を図ったのは槇。

 春日芸能事務所――春と、コメットプロダクションのコメットを取ってのことだろう。

 だがその案を春日社長は「それもう出てるんですよね」と一蹴。

 

「シンプルに春星祭(しゅんせいさい)とかでいいじゃん」

 

 もう考えるの面倒くさい、と言わんばかりであくびまでしている石動。

 なにも提案しないのもまずいので、一応適当に提案だけはしておこうというのがありありと出ている。

 淳的には石動の提案したタイトルがシンプルで可愛いと思ったのだが、周囲の空気の微妙さ。

 社長、「それもいいと思ってたんですが、いまいち捻りがなくて」と首を横に振られる。

 この案ももう出ている、と。

 

「コメットデイリーフェスティバル、略してコメフェス! はどうですか? オタクとしては略しやすいのが嬉しいです」

「んん? どうしてデイリーです?」

「春日芸能事務所、春、と使いたくなるのはわかるんですが、春日の“日”もお日様の意味があって俺は好きな漢字なんですよね。“日”で“デイリー”にするとそれこそ『ファンの皆様に日々の感謝を伝える』みたいに繋げることができるじゃないですか。Vtuberさんは毎日配信を心がけると言いますし、ここは思い切って“日”にしてみればいいのでは、と思いました。で、そこにコメプロのコメを先んじて入れておくことで略しやすくなる――みたいな」

 

 淳が提案するが、社長は微妙な表情。

 ダメか、と笑ってごまかす。

 ちなみに社長が微妙な表情をしたのは「お米のフェスみたい」だかららしい。

 それは確かに。

 ぐうの音も出ない。



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