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先々の話


「そういえば千景くん事務所決った?」

「えっと、人前に出たくないので、作詞作曲のお仕事しながら大学に行こうと思っておりまして……」

「え? アイドル卒業するの?」

「は、はい。元々、その、東雲学院芸能科に通ったのは、星矢さんみたいに三年間だけアイドルをやってみようとおもっての、その、ことでしたので、あの、アイドルの曲はアイドルをやってみた方がいいかなー、みたいな感じで」

 

 これはかなりの仰天。

 千景、アイドル卒業予定。

 

「ええ、もったいないね」

「ぁ、え、ええと。でも、元々、ひ、人前は苦手でしたので……あ、アイドルに自分の作った楽曲を歌ってもらえたら、それが幸せ、なので……」

「じゃあ個人で活動するんだ。大変じゃない?」

「まあ、はい。でも、お金関係や法律関係は、結構、この二年で、調べてきたので……」

 

 超偉い。

 しかし千景は周や淳に次いでの成績。

 なるほど、個人活動を見据えて準備をしているのか。

 すごい。

 確かに事務所に所属することで逃れられる金銭の計算、税務処理、先方との交渉、営業など自分一人でできるのならそれが一番利益になりえる。

 

「でも御上って営業とか苦手そうだけれどできんの?」

 

 魁星、今日ツッコミが冴え渡っている。

 営業、という単語に硬直する千景。

 この学院で二年間生活していたら、ある程度営業は自分たちでやらなければならない。

 それに思い至ったのか、変な汗を拭き出す千景。

 ああ、忘れていたのか。

 

「ええと……先生に相談とかしてみるといいかも? あ、あと今年卒業した日織先輩とか、秋野芸能事務所で作詞作曲しながらアイドル活動もしているし、話を聞いてみるといいかも?」

「日織先輩って、ひ、雛森日織先輩のこと、ですか……!? れ、れ、れ、れ、連絡先を知っているのがすごいですよ……!?」

「あ、そうか。じゃあ代わりに俺が聞いておこうか?」

「む、むりですううううう!」

 

 と、叫んで長机の上に滑り込む千景。

 雛森日織、元魔王軍の四天王の一人。

 しかも、千景と同じく作詞作曲で生計を立てている成功例。

 憧れがあるのだろうが、「恐れ多い、恐れ多いでしゅうぅぅう」と繰り返している。

 

「……………………。じゃあ、魁星、全員のスケジュール集めて、照らし合わせてレッスンの日程を決めておいてくれる? 俺の優先度は一番下でいいから。合わせられるところで合わせられるように調整するから。そして俺は今から雛森先輩に千景くんの連絡先を送る」

「おぉぉお音無くぅぅぅん!?」

「あはは。了解。やってみる、けど……初めてだから失敗しても怒らないでよ?」

「怒らないよ。というか、新座くんはそういうのやったことある?」

「な、何回かは。先輩に頼まれて」

「魁星は初めてなんだよね。一緒にやってくれない? 千景くんは楽曲提供してくれたし、俺は星光騎士団の仕事もあって余裕があまりなくて」

「そ、そうだよな! う、うん、いいよ!」

「ありがとう。よろしくね」

 

 いい具合に新座を丸め込むことができたので安堵。

 ちなみに即、雛森に千景の進路について状況とともに相談をチャット欄で送ったところ、数分後に『なんでも相談に乗るよ~。日織くんの後輩であることに変りないしね!』という優しい返信。

 それを伝えると千景が聞いたことのない高音の悲鳴を上げて鞄を頭の上にあげて悶絶している。

 その姿が可愛くて、写真に収める淳を魁星が冷たーい目で見ていた。

 幸先不安な今年の『トップ4』の、顔合わせである。

 

 

 

 しかし十一月は『トップ4』のレッスンを優先して構いませんよ、と社長に言ってもらえたので定期ライブまで集中して専念できた。

 合間合間にFrenzy(フレンジー)デビューに向けたプロモーション撮影、新規ジャケット撮影、グッズサンプルの確認作業等があったが比較的無事に日々を過ごせた。

 だが、十一月も半ばがすぎたある日――。

 

「春日芸能事務所オンリーイベント?」

「というか、フェスですね。芸能事務所というよりもコメプロの方がかなり調子がいいんです。所属ライバーも十人を越えまして、登録者数もグッズ売り上げも順調。Frenzy(フレンジー)が今年末にデビューすれば相互補助でどちらも新規顧客の取り込みができると思うんですよね」

「へえ~」

 

 会議室に集められたのはFrenzy(フレンジー)の三人とBlossom(ブロッサム)のリーダー綾城珀、甘夏拳志郎が座っている。

 そこに社長とFrenzy(フレンジー)のマネージャー兼プロデューサー、槇湊(まきみなと)とコメプロのVtuberマネージャー瀬能黎(せのうれい)、同じくマネージャーの木熊戦一(きぐまぜんいち)という見るからに名前負けしている枝のような細い男性。

 七三分けの髪型に、眼鏡。

 気弱そうで、緊張の面持ち。

 今にも気絶しそうで、大丈夫か? と心配になる。


「面白そうですね。フェス。いつ頃やるとか決まっているんですか?」

「来年の十月ぐらいでしょうか。夏の陣が終わってひと段落ついたら、ですね。会場は東南区、美桜公園アルティメット劇場。隣の美桜アウトレットビルごと全部春日芸能事務所及びコメットプロダクションで染め上げる予定です。でもネーミングがイマイチ思いつかないんですよね。春日芸能事務所及びコメットプロダクションフェスティバルって普通に長いじゃないですか。なんかありませんかねぇ?」

「もしかして今日の呼び出しの目的ってまさかそれですか? フェスのタイトルを考えてほしいとか?」

「はい」


 はい。はいって言った。



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