みんなで進路の話
「そ、それは……なんというか……」
「すごいですよね、鏡音くん! とても宣伝上手で」
「うん……まあ、それは……宇月先輩のご指導の賜物、だね」
宇月美桜の教えが『隙あらば宣伝をぶち込め』である。
鏡音は宇月の教えをよく守っていると思う。
まったくもって、宇月の指導が行き届いている。
なによりも鏡音が優秀すぎた。
「でもそれでこんなに売上が上がるなんて思わなかった。あんまり世間では取り上げられているイメージがなかったし、ゲーム業界の人がアイドルのグッズなんて買う?」
「さあ? でも、事実売上になってますしね」
それなのだ。
夏の陣の時でもそれなりに売上があったと思うが、あれだけ大暴れしたのにそんなに好かれるって違和感しかない。
それとも結構世の中は寛大になっているのだろうか。
なっているんだろう。
だからこれほどの結果が出たのだ。
世界大会のプロゲーマーの宣伝効果、馬鹿にはできない。
「夏の陣の宣伝効果ももちろん大きいと思いますけれど、エキシビションマッチの一件は相当に新規ファンを呼び込んだと思いますよ。あのあたりのファン層はストリーマー視聴者が多いので三次元のアイドルに抵抗感がないのですよ。エイランさんとか、若くてイケメンですし。カッコいいですよね、エイランさん。あの容姿でどんなゲームもトップクラスに上手いし、大学にも通っているって!」
ゲームプレイヤーネーム、エイラン。
淳もよく知っている鏡音のプロゲーマーチームの先輩でリーダー。
年齢は21歳。
大学にも通っており、整ったビジュアルと温和な性格、やや天然気味。
確かにリアルで出会った時は本当に驚いた。
今までSBOの中で、アバターの姿しか知らなかったから。
アバターもイケメンだったけれど、リアルの姿もアバターに劣らぬイケメン。
というか、リアルの姿の髪や目の色を白と青に変えただけ。
そりゃあリアルもイケメンだ。
しかも大学に通うくらいには頭もいい。
この人も時間の使い方が相当に上手いのだろう。
そんなスペックのイケメンだったので、淳も初めてリアルであった時はアイドルかと思った。
あの爽やかであのスペック。
プロゲーマーとしての収入も相当なものだろうし、アイドル並みにモテるのも頷ける。
千景のドルオタセンサーがこうもビンビンに反応しているところを見るに、エイランはアイドルの才能もあるのだろう。
歌うのは恥ずかしい、と言っていたけれど。
「エイランさんカッコよかった~。わかる~。あんまり話せなかったけれど、たまにSBOの中で一緒にゲームすると戦闘能力高すぎてキュンってする」
「は、はわわ……音無くん、すごいです……! SBOでエイランさんと一緒に遊んだことがあるんですか……!?」
「あれ? 知らない? そうか、星光騎士団メンバーとしか遊んでないっけ?」
蔵梨柚子繋がり、鏡音繋がりで遭遇したらご一緒する……という流れが多い。
といっても勇士隊、魔王軍もSBOでステージを使用している。
レベリングもしているのかは、知らないけれど
「あ、あの~」
「あ、ごめんね。勝手に盛り上がってしまって。新座くんは『トップ4』のコラボユニット初めてだもんね。じゃあ、簡単に説明するから」
「あ、ああ。よろしく頼む」
新座と魁星ほっぽりっ放しでオタトークに耽ってしまった。
つい、千景と話すのが楽しくて。
改めて新座に『トップ4』のコラボユニットについて説明する。
年末の、との年最後の定期ライブを『聖魔勇祭』で、その年の校内売上トップ四人が『トップ4』としてコラボユニットを組み、東雲学院芸能科のオリジナル曲を披露するのだ。
その校内売上ランキングは芸能事務所のスカウトの参考になる。
上位十位以内は特に芸能事務所の目に留まりやすい。
淳と魁星はすでに春日芸能事務所と契約しているが、未契約のアイドルは自分の夢や目的と照らし合わせてスカウトを受けるかオーディションに挑むか選択する。
『トップ4』は特に目につきやすいので、新座は今から自分の進路についてしっかり考えておいてほしい。
少なくとも来年は最高学年で、卒業後はどうするのか希望を保護者や先生と相談してください。
また学院を通したスカウトは学院側から事務所調査が入っているので安全性が高いが、学院を通さないスカウトは一度学院に相談した方がいい、というのも伝える。
「し、知らなかった。スカウトって一種の憧れだったけれど……夏の陣のあとに渡された名刺の中から所属事務所を決めようって安易に考えてた……」
「あ、名刺とかもらってたんだ?」
「う、うん」
「それ、一度先生に渡して調べてもらった方がいいよ。新興事務所の中にはちょっとアレな事務所もあるから」
「だ、誰に相談したらいいの」
「担任の先生でもいいし、花鳥風月の担当の先生でもいいよ」
「わ、わかった」
「そういやー、御上は事務所決ってるんだっけ? 去年も『トップ4』だったんだし、俺みたいにスカウト結構もらってるんじゃないの? 作詞作曲もできるんだしさー」
魁星が鞄からノートパソコンを取り出した千景に話を振る。
確かに、千景がどこかの事務所に所属したという話を聞かない。
淳と魁星が事務所を決めたのだから、当然千景にもスカウトはそれなりの量が来ていると思うのだけれど。






