鏡音とご飯(2)
「VRはそれでなくとも酔う人は酔うしね。だ、大丈夫なのかなぁ?」
「まあ、その辺りの自己管理ができないプロはいないと思いたいです。いたとしたら終わりなので、もうそれは自己責任ですから」
「まあそれはそう」
大丈夫か、明日。
「鏡音くんは明日なにに出るの?」
「自分は明日休みです。明後日がFPSとTPSゲームの競技日で、そちらに出るために体調を整えておくようにと言われています」
「そうなんだ」
「と言っても……VRのFPSなんてほぼサバゲーなんですけれども」
身もふたもない。
「でも今日勝てたのは、近くに先輩たちがいたからだと思います。見られていると思うと、気が引き締まりました」
「うん、見てたよ。響くんも宇月先輩もトークショーまで絶対鏡音くんの試合見てただろうね」
「そうだと思ったので、頑張れました。少なくとも三人は見てて応援してくれているって思ったので」
「後藤先輩も周も魁星もきっと配信見てたよ」
「そうでしょうか? だとしたら嬉しいです。優勝できたので胸を張れます」
「うん! 本当にすごかった」
これで格ゲーは“サブの得意ゲーム”なのだから怖い。
ゲームセンスが飛び抜けているというか。
「そういえば、俺も個人の配信チャンネルを開設しようと思っているんだ」
「動画サイトですか?」
「そう。でも元々個人配信はする気がなかったからどういう機材が必要なのかとかわからなくて。鏡音くん教えてくれない?」
「いいですよ。おすすめの機材をまとめてあとでお送りしますね。予算はおいくらほどをお考えですか?」
「予算!? ……えー? いくらくらいが妥当なの? 初心者向けがいいなー」
「パソコンはお持ちですもんね? 防音室は必須だと思いますよ。家族に配信中の部屋とか見られるのが恥ずかしかったら特に。外の音で自宅特定してくる人とかもいるので」
「……そっち?」
てっきりこっちの出す音を遮って、近所迷惑にならないようにするためだと思っていた。
いや、本来の目的はそれであるし、その必要もあるのだけれど。
外からの音の遮断で自宅特定を防ぐ。
まさかそっちの目的もあったとは。
「小さいものなら五万から十万前後のものがあるんですけれど、オレの場合寮なので自宅から組み立て式の八十万するボックスタイプのやつに遮音シートを張り巡らせ、収音ボードで囲い、窓に遮音カーテン、エアコンの風が入るように位置調整を重ねて今の状態にしましたから……あまり参考にはならないかもしれませんけれど」
「か、完全防備だね」
「追い出されたら行くあてもないので」
「そ、そうか。そうだよね」
「機材もお金をかければ条件なしなので、予算は事前に決めて色々見積っておくことをおすすめします。でも防音には手を抜かない方がいいと思いますね。救急車やパトカーのサイレン、選挙期間中は選挙カーの音も気にしながら配信しないといけません。っていうか選挙カーは夜八時までとか長すぎますよね。夜の六時までとかにしてほしいです。配信時間に被るので本当に迷惑で……」
配信者のガチ悩みきた。
松田に聞こうかな、と思っていたがさすが十代前半から配信者をやっているだけあって松田からは聞けなさそうな愚痴がポンポン出てくる。
というか選挙カーが走る時間なんて初めて知った。
「防音室は考えてなかったな〜。自分の部屋の大きさとかも考えないといけないもんね」
「そうですね」
「うち、地下室があるんだけど……地下室に防音室入れたらいけないかな?」
「地下室があるんですか? 防音の性能はよさそうですけど、ネット回線が心配ですね。有線ならワンチャン……?」
「ネット回線! それもあったか……! 地下室にWi-Fiはなかなかあれだもんね……!」
「はい。あとOBSと機材同士の相性によっては回線が安定しないこともあるので……」
「そんなことあるの……!?」
配信、奥が深そうで怖い。
食事しながら配信機材を色々教えてもらう。
それから配信する動画サイトについても聞いてみる。
いくつか有名なサイトがあるので、そこにそれぞれアカウントを作るといい。
人が多いのはワイチューブ、ツイッツ、ニヨニヨ動画。
ワイチューブは知らない人の方が少ないであろう、王道の動画投稿サイト。
淳も当然、そこでアカウントを作るつもりだ。
ツイッツはアーカイブが十日間しか見ることができないが、有料会員になれば広告なしで全部見られるようになる。
ニヨニヨ動画は日本で一番古い動画投稿サイト。
アカウントがなくても無料で見られるワイチューブとは違い会員登録必須。
広告非表示、混雑時の画質向上、倍速再生の制限解除、マイリストなどの登録数上限アップなど。
配信者側からすると、収益化が楽なのはニヨニヨ。
権利関係がゆるいのはワイチューブ。
国内向けなので安心感があり、無断転載や著作権違反の報告に対する対応は圧倒的にニヨニヨ。
そして元祖動画投稿サイトと言えばツイッツ。
ゲーム配信のやりやすさならツイッツ型の追随を許さない。
ゲーム配信に必要なソフトと同じ機能が、最初からツイッツ内に設定として入っているため初心者には非常に始めやすい。
「とか、でしょうか。他にもツイトークとかありますけれど、有名どころでおすすめなのはこの三つかな、と」
「ありがとう。検討してみる。鏡音くんは全部にアカウントあるの?」
「そうですね。多すぎるとアカウント管理ができないので、ワイチューブとツイッツだけ。生配信をツイッツでして、アーカイブをワイチューブに載せたりしています。ワイチューブは一番データ容量が大きいので」
「へー」
勉強になります。






