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歌バフの暴力


「~~~♪」

 

 本気でやらせてもらうと決めている。

 距離を取りつつ、立て続けに歌バフを重ね、弓を引く。

 追加されるバフは[攻撃力上昇LV4][追加付与4]。

 さらに別の曲の一節を歌い、バフの重ね掛け。

 追加したのは[防御力上昇LV3][追加付与2]。

 

「クッ! まさか、歌ってそれでいいの!?」

「そうですよ。フルで歌った方がバフの持続時間は伸びますが、一節だけでバフ自体はかかります。だからソンさんに教えた[異常状態耐性]の歌は短かったでしょう?」

「そういう仕様なのかと思ってたぁーーーー!」

「それと、俺のことは早く倒した方がいいです。でないともっとバフの重ね掛けしちゃいますからね。プロとはいえ、初期装備のピストルのヘッドショットごときでは、倒せなくなってしまいますよ。……~~~~♪」

 

 追加バフ。[HP増加LV4][追加付与4]。

 エギュンの銃も初期で持てる、一番弱いピストル。

 

(晶穂さんが言うに、銃弾は十発しか撃てない。連射速度も遅い。それでも弓に比べれば速いけれど)

 

 なのでエギュンが十発撃ちながら距離を取ろうとする度に、都度淳の方からも距離を取り、十発撃ち終わって弾のリロード時を狙って弓スキルを放つ。

 

「弓スキル 必中一矢(ひっちゅういっし)!」

「ヤバいヤバいヤバい! ……ヤバああああああい!」

「きゃああああ!?」

 

 弓スキル 必中一矢(ひっちゅういっし)

 初期の弓スキルの中でもっとも命中率が高い。

 それだけの武器スキル。

 だが、重ね掛けされたバフの効果がこの一撃にすべて乗っている。

 演出が明らかに下級スキルのやつじゃない。

 巨大な円を纏った矢が放たれる。

 豪風を纏いながら、淳の目には見えない速度だが恐らくプロ選手の動体視力には“視えて”しまった。

 

「あぶなーーーーい!」

 

 ソンを庇いながら、滝壺に落ちていくエギュン。

 実に男らしい。

 もちろん、ここで手を緩めるつもりはない。

 せっかく仕掛けておいた罠もあるし、誘導も上手くいっている。

 しかし――。

 

「[命中率上昇]を付与している[必中一矢]を避けられるとは思わなかったな~。今のステータスなら回避は不可能なはずなんだけれど」

 

 ドボーーーン! という落下音。

 あれだけ明確に滝壺に落下して濡れてしまうと、[異常状態耐性]や[鈍足耐性][凍え耐性]をかけていても剥がれてしまう。

 弓に新しい矢をセットしつつ、滝壺の中を覗き込む。

 二人がヒイヒイ言いながら大岩の方に流れに足を取られながら向かっていくのが見えた。

 

「落下ダメージは喰らっているはずなのに、二人とも生きてる。やっぱりプロの人って反応速度がすごいなぁ。まあ、これでSBOの歌バフの面白さは身を以てご理解いただけたと思うし、騎士として負けるのは嫌いなので最後まで楽しんでもらいましょう。お客さんも見ていることだし、アイドルとしてライブは最後まで全力で歌わないとね」

 

 スー、と淳の背後を配信モニターが移動していく。

 客席、司会や解説から「魔王?」「二対一になってない?」「ヤバすぎる……」「ア、ア、アイドル……?」なんて言われているとは露知らず、新しい歌バフの重ね掛けをしながら、彼らがしがみついた大岩の後ろに回り込むべく歩き出す。

 なお、その頃の日本代表選手控室。

 

「か、か、か、鏡音の先輩、や、優しそうなのに容赦ないな……?」

「え? 音無先輩は先輩たちの中では一番優しいです」

「あ、や、優しいんだ……? い、いびられたりとかしてないんだ?」

「いびるのは狗央先輩が担当なので」

「いびる担当とかいるんだ……?」

「星光騎士団というグループ、その名の通り騎士がモチーフなので先輩たちはみんな強いですよ。売られた喧嘩は全力で買って相手を立ち上がれなくなるまで叩き潰すまでが喧嘩です、って宇月先輩が言ってました。カッコいいですよね。自分、最初はアイドルをやる自信がなかったんですけど、この言葉で『ゲームをやっている時の自分は甘かったんだ』って気づかされました。手を抜くのは相手に対して失礼なことだし、騎士として強くなることに貪欲になっていいのだと言われてゲームのモチベーションも上がりましたし、星光騎士団に入れてよかったです」

「そ……………………そうなんだ」

 

 そう、特に歌――音楽に関して、星光騎士団というアイドルは、負けるのが特に嫌いなグループだ。

 歌で喧嘩を売られたら、それはもう『決闘』を申し込まれたと同義。

 本当は鏡音が参加できればよかったのだが、やはり途中で「そろそろ会場へ」と案内スタッフに声をかけられてしまった。

 できることなら最後まで観たかったが仕方ない。

 むしろ、先輩のあの姿に初心に立ち戻れた気がする。

 珍しく口元に笑みを浮かべた鏡音を見て、一緒に格ゲー大会に出るメンバーは背筋に薄ら寒いものを感じた。

 ああなったもう、歌バフの暴力で淳が負けることはない。

 もしもああなった淳が負けるのだとしたら、それはもう一人の歌バフ要員が同じだけのバフを積むしかないだろう。

 それは、今更かなり困難。

 

(まあ、格ゲーにバフはないから、先輩を見習って冷静に立ち回るのが一番。オレも星光騎士団の騎士として、恥ずかしくない戦いをしよう。全力で。冷静に)



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