ダンジョン『龍水龍牙の滝』
武器を購入して、全員で転移石の元へ戻る。
その間もずっとソンさんが話しかけてきた。
意外に思うがそのほとんどが歌バフについての質問。
どんな歌がどんな効果のバフなのかを、色々聞いてくれた。
勝つ気満々のようでなによりである。
むしろ、その姿勢を見て安心すらした。
「ええと、この石をタップすればいいんですか?」
「はい。転移先は龍水龍牙の滝しかありませんから、それを選択すれば大丈夫です。文字は母国語表示になっていますか?」
「はい! でも、初めてなので一緒に行ってほしいです」
「はい、全員で一緒に行きましょうね」
うる、とわかりやすい上目使い。
それに対して満面のアイドルスマイルでの牽制。
「な、なあ……笑顔なのに、なんか、こう……圧、感じね?」
「お、おう……」
「日本のアイドル、笑顔、強いね……?」
「結構バチバチだ」
バチバチに見えるらしい。
確かに普通とはちょっと違う殴り合いをしていることには同意するけれど。
転移石に触れて、龍水龍牙の滝の入り口に到着する。
目の前に広がるのは広大な川。
川が渓谷に流れ、その渓谷には無数の滝が流れ落ちている。
滝壺から立ち上る水飛沫で、渓谷の向こう側は霧がかっていてよく見えない。
その霧の狭間からいくつもの虹。
青い空との対比が神秘的で、来たことのある淳以外が、息を飲む。
「なんという美しい場所だろうか……」
「信じられん。美しい。本当にマイナスイオンが感じられるようだ」
「今のVRMMOってこんなに映像が美しいのか!? ああ、素晴らしい……! 僕はこのゲームが韓国でサービス開始したら絶対にプレイするよ」
「ボクも。さっきゲームシステムを聞いた時もシンプルだがなかなかに面白そうだと思った。これほどのダンジョンが他にもあるのなら、チャレンジしてみたいね」
「本当に……綺麗……。虹があんなにたくさん……!」
かなりお気に召したらしい。
確かに景色だけなら龍水龍牙の滝はSBOダンジョンの中では五本指に入る絶景だと思う。
それに――。
「龍水龍牙の滝は魔物もなかなか癖が強いんですよ」
「魔物?」
「普通のダンジョンですと、魔物の種類は六種類くらいなんです。雑魚が三種から四種、中ボス級一種、ダンジョンボスが一種。でもここ龍水龍牙の滝の魔物は三種類。一般的な魔物がロゼットサーモン。雑魚ですが、厄介なのは大きさがピンキリなこと。大きければ大きいほどにレベルが高いのですが、小さいサーモンは動きがとても速い。水飛沫で[鈍足]になるとこのレベルが低いサーモンが非常に驚異。滝から滝へと移動して、撹乱されるのも怖いです。一番厄介なのはサーモンたちの[水かけ]という技で、これを食らうと[鈍足]と[凍え]になります」
「な、なんだってー!?」
それでなくともダンジョンの仕様として[鈍足]と[凍え]が付与されやすい。
その上、雑魚魔物がそれを積極的にプレイヤーに仕掛てくる。
だいぶ悪質な仕様だ。
「中ボス級はサンダーウナギ。中ボスはダンジョン内に雑魚魔物と同じように普通に徘徊しているので、見かけても手を出さないことをお勧めします。レベルが一桁で勝てるかどうか、なので。中ボス級サンダーウナギはその名前の通り電気ウナギです。こいつも滝と滝をジャンプで移動。でも怖いのはこいつ、群集タイプの魔物なのです。三匹一体という扱いで襲ってきます。囲われたら電撃が三匹で放電してきて、その都度一時的な[感電]というデバフがかかって一定時間動けなくなります。これもまた[鈍足]で逃げるのが遅れると、嵌められてやられます」
「うわぁ……」
「こ、[凍え]よりも[鈍足]の方が厄介じゃないか!?」
「魔物と戦うのであれば[鈍足]は厄介ですよ。俺が強行レベリング非推奨なのはこれも理由ですね。水飛沫で濡れないルートを探しつつ、できるだけ大きめのサーモンと戦ってレベルを上げてHPを増やすことを意識するといいと思います。プレイヤー自身にもスキルツリーがあるので、そこからHP上昇を選択してください。[凍え]がついてもかなり変わると思います」
「なるほど、わかった」
「そうなのか。了解した」
「あ、これか! ありがとう! オトナシくん! あなたとても親切!」
「本当本当! 知らなかったら、絶対に損してた! 負けるの嫌いだから、教えてもらって助かった」
「どういたしまして。ダンジョンボスは挑まないので教えなくても大丈夫ですか?」
と、一応聞いてみる。
全員知りたそうな顔になっているのが面白い。
そりゃあ仕方ない。
ここにいるのはほとんどがプロのゲーマー。
ゲーマーたるもの、敵の情報はいくらでもほしい。
「ここのボスは青龍。青い、細長い龍がダンジョンボスです。最初は小型で現れて、HPが半分削れると中型の龍に進化します。さて、ここで中型になった青龍を倒せばダンジョンボスは撃破完了なのですが、新大陸で実装された『龍玉』というアイテムを与えると青龍は大人の姿になりHPが全回復――どころか八倍に増加。すべてのステータスが爆上がりする上、攻撃パターンが五つ増えるという反則級に進化します。これに勝つと、『青龍の卵』という超激レアアイテムをドロップすることがあるとかないとか」
「なんじゃそりゃあ」
「青龍の卵!? とても気になる! どんな効果のアイテム?」
「食べるとHPMPが全快、ステータス異常やデバフ回復。料理に使えば全ステータスが永続プラス5。卵を孵すとテイマー職でなくとも青龍の子どもをテイムできるそうですよ」
「「「おおおお〜〜〜」」」






