ダンジョン『井の中』(1)
「後藤先輩のお家って本当にすごいお家なんですね……?」
「後藤家は世界的に活躍する音楽家一族です。後藤家を含む音楽家一族と呼ばれる一族は世界に大きく五家あるが、後藤家は日本代表。政治家にも伝手があるので後藤先輩が言っていることは、多分本当でしょうね」
「え、ガチ?」
「ガチ」
カイセイがちらりとアマネを窺うと、アマネは真顔で頷いた。
ガチなのか。
アマネは「家格で言うと東雲家より後藤先輩の家の方が格上」と言い切る。
ごくり、と生唾を飲み込む五人。
「ヒュー。こーちゃんって気安く呼んどったけど、実はあかんかった?」
「やめてください、今更! そもそも俺の家は宗家というだけで、本家の方があります! ただ、本家の当主が母の弟なので……叔父は祖母にも母にも逆らえないので……美桜ちゃん、本当に気をつけてほしい。祖母と母はモンスターだから……!」
実子及び孫にここまで言われる後藤宗家のお祖母様とお母様。
確かに権威や資金力は本家の方が強いのだろうけれど、やはり宗家の祖母様とお母様は黒幕的な存在として君臨しているっぽい。
「もお、ごとちゃん、本当に大げさなんだからぁ」
「美桜ちゃん!」
「はいはい、今後とも気をつけます~~~~」
ぷい、と顔を背けるミオ。
しかし後藤の表情は心配でたまらないと言ったような表情。
けれどミオは最後に唇を尖らせて「別にいいのにぃ」と呟く。
ちょっと拗ねたように、しかし非常にまんざらでもないような――。
だが後藤はミオの呟きにまた「危ないんだってばっ!」と必死の形相に逆戻り。
(宇月先輩、後藤先輩と結婚するのは吝かではないのかなぁ)
そんなように、見えた。
「ごほん。まあ、せっかく全員揃いましたし、狩りに行きましょうか。あ、でもその前にひまりちゃんと美桜ちゃんと魁星くんと周くんはアバター名、お気に入りに入れて変更してください。バレます」
「まあ、星光騎士団のメンバーの名前がこれだけ揃っとればわかるヤツにはわかるよなぁ。ほな、女の子らしい名前にしときますか。いうてわしの名前も普通に可愛ええしな~。一文字取ってヒマちゃんでどや? セクシー系お姉さんの容姿でヒマちゃんってかわいない?」
「うんうん、可愛い可愛い。でももじるのも危ないからヒナちゃんにしたら?」
「珀ちゃん天才や~~~ん」
すぐメニュー画面を開き、リアルの姿と『ヒマリ』の名前をお気に入りアバター登録して、新しく『ヒナ』という名前に変更。
セクシー系お姉さんのアバターで名前は『ヒナ』。
相変わらずのギャップ攻め。
「じゃあ、俺はセイにしよ!」
「うう、ん……じゃあ、自分はアニメで見たキャラクターの名前にします」
カイセイはカイを抜いてセイに。
アマネはルカに変更した。
どちらもありきたりで身バレしづらいだろう。
「え~、僕も?」
「ミオちゃんは――ええんちゃう?」
「ミオちゃんは……ミオちゃんでいいか……」
「美桜ちゃんはこのままでいいですよね」
先輩たちの謎の満場一致。
先輩たちがそういうのなら、一年生ズに発言権はない。
ミオ以外全員の名前を変更してから、ギルドを出る。
旗は降ろしてセバスチャンに任せ、七人で今シーナが使っている狩場に案内した。
三つ目の町『サードソング』の近くにある、『井の中』という巨大穴の形をしたダンジョン。
「ヒナ先輩とミオ先輩とルーヴァ先輩はSBO初めてですもんね。初心者にこのへんはちょっとレベルが高いですから、フォローはバアル先輩にお願いしていいですか?」
「いいよ~。任せて。前衛は一年生たちに任せるね。ボスまではいけないだろうから、中ボスを倒すのを目標にしようか」
「そうですね!」
「シーナくん、『井の中』のボスやエネミーの情報を教えてくれる?」
「はい!」
巨大穴状のダンジョン『井の中』。
水の満ちた巨大な井戸で、中には水性生物中心のモンスターが空中遊泳している。
揺らめく藻を伝って水に入り、呼吸はできるので問題なく下っていけるのだが、水中独特の動き制限がかかってしまう。
「水中の動き制限はバフで改善できます。このダンジョン自体がデバフなんですよね」
「なるほど。歌は歌えるけれど、動きに自動的にデバフがかかるんだね。SBOは歌バフで遊ぶゲームだから、環境変化もバフで改善される仕様なんだね。もしかして火山帯とか湿地帯とかの環境デバフがあるダンジョンがあるのかな? 今度彼女さんと二人で来ようかな」
あ、デートですね。
メンバー全員生暖かく見守る。
「中ボスはグラディエスクレイフィッシュ。巨大なザリガニですね。突然後ろに飛んでいくんですけど、そのまま後ろ向きで戻ってきて鋏を振り回します。弱点は腹。尻尾で隠れたりするので、隠れていない時を狙った方がいいですね。斬るよりも刺す方が、効果が大きいです。魔法に関して、火属性魔法は効果が半減。土属性魔法は二割増しです」
「じゃあ、武器は槍にした方がいいのか?」
「ううん。剣でも大丈夫だよ。剣にも突き技があるから。でも、斬り技は効果半減だから気をつけてね」
と、言うとセイは微妙な表情。
察した。






