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加減がわからん


 ペコリ、と挨拶すると両手を大きく掲げて「ハロー! バイソンだ! 普段はMOBAで大会を荒しているぜ!」とのこと。

 MOBAマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナとは数人でチームを組み、戦略を立てて敵チームの拠点を落とすジャンルのゲームの総称。

 

(『リーグ・クリスタル』とか『エリアレッド』ととかの戦略ゲーか。筋骨隆々な人だけれど、頭の方がいいんだ? まずいな、SBOはダンジョンで魔物と戦って武器を育成していくゲームだけれど、今回のエキシビションマッチはダンジョン内でのバトルロワイヤル。地の利があっても長時間の戦いになれば戦略立てをされて一気に追い込まれかねない。VRに移行してから、戦略ゲーもプレイヤーが前線で指揮を直接執ったりできるようになっているし……戦略ゲーのプレイヤーだからとフィジカルを舐めてかかれない。まして、アメリカ代表チームのプロプレイヤーでは……)

 

 そして隣にいる美少女は歌手の『カルト・アマンジェッタ』。

 アメリカのオーディション番組からわずか14歳で見いだされ、昨年全米でヒットした夏の映画『レジェンドヒーローアマンダ』の主題歌を担当し、華々しくデビュー。

 アメリカンドリームの体現者の一人として現在注目株となっている。

 しかし、ここにログインしているのは不満らしく、頬を膨らませてそっぽを向いていた。

 

「お前らはなにをしているんだ?」

「銃があるか、武器屋を確認しようと思ってな。彼がSBOをプレイしていたので案内を頼んだんだ」

「なんだって!? 既プレイヤー!? ナイス! ぜひ俺にもいろいろ教えてほしい!」

「わかりました。どのあたりまでいいのか運営に聞いてからがよかったですが……他の国のプレイヤーに会ったら教えて差し上げてください」

「もちろんだ! オッケイ!」

 

 と話し合っていると、突然カルトが睨み上げてきた。

 

「ねえ、早く終わらせてよ。レッスンのあとで疲れているんだけれど!」

「ああ、アンタは国にいてそのままか」

 

 ああ、時差か。

 レッスンあと突然依頼されてログインしてきたのならそれは不機嫌でも仕方ない。

 それも、淳と歳の変わらない女の子がいきなり筋骨隆々の人と一緒に始めてやるゲームにログインして歌を歌えと言われても、意味が分からないだろう。

 

(そういう講習も時間が取れなさそうだしな……)

 

 開会式中はすべての選手が紹介されなければならないので、十時前にいったんログアウトしなければならない。

 歌バフ担当だけに淳が講習をしてもいいのだが、他の国の歌バフ担当と合流するのは厳しそう。

 おそらく、数人の選手と歌バフ担当はキャラクターだけ作成して開会式に備えるのではないだろうか。

 鏡音の話では、各国の選手も急に決まったエキシビションマッチに、かなりテンションが低いらしいので。

 それにしてもカルトの不機嫌ぶりはいかにもアメリカ人と――それは言っては失礼か。

 レッスン終わりでのVRMMOは心身にキツイ。

 不慣れな人ならば尚更。


「そうですね、歌バフ要員にはさほど武器は関係ありませんし、仮眠をとって体調を万全にされた方がいいかもしれません」

「そうなの? じゃあそうさせてもらうわ。じゃーね」

「そうなのかい?」

「ええ。歌バフ効果を上げる職業――『魔法使い』は中級職なので、レベル1の状態ではジョブチェンジできないんです」

「そうなのか。じゃあ確かにバフ担当たちには休んでもらって構わなさそうだな」

「ええ。ジョブチェンジ欄もやはり初期職以外にはなれなさそうですから、もしも武具屋に杖が売っていたらそれを買っておいてあげればいいと思います」

「杖?」

「魔法使いになれば武器効果がアップするんですが、初期職でも歌バフの効果をアップさせやすくなる武器です。魔法使いほど杖の性能を引き出すことはできないですが、ないよりはマシって感じでしょうか」


 へーーー、と晶穂とバイソンが声と表情を揃える。

 そして本当に立ち去ったカルト。

 バイソンはカルトの後ろ姿を少し複雑そうに眺めてから、頭を掻く。


「やはり日本の既プレイヤーのアドバンテージはデカそうだな。バトルロワイヤルの舞台のダンジョンについてもなにか知っているのか?」

「そうですね……龍水龍牙の滝りゅうすいりょうがのたきは名前通り無数の滝に囲まれた、水場のダンジョンでして。ぶっちゃけとても隠れる場所が多いです。滝の裏、岩の影、水の中、水草の下など。でも一番怖いのは“音”と“水飛沫”でしょうね」

「音と水飛沫?」


 怪訝な表情で見下ろしてくるプロプレイヤー。

 彼らが普段やるゲームでは、到底脅威に思えないのだろう。

 残念だが、SBOには当てはまらない。


「滝の落ちる音で、バフをかける対象に歌が届きづらいんです。なんというか、歌バフのデバフになっている? といえばいいのでしょうか。他のダンジョンやフィールドに比べてバフがかかりにくい、バフの効果が減ってしまうんです」

「オーマイガッ」

「そ、そんなダンジョンでバトルロワイヤルを……!?」

「まあ、なので元々の歌唱力が相当に高い人でないと正確なバフがかかりづらいから選ばれたのではないでしょうか? 歌バフ要員の腕の見せどころになるように?」


 そう言うと、二人は顔を顰める。

 淳がいいように受け取ったが、そうではないのか?


「その、では水飛沫とは?」

「装備がびしょ濡れになり、“鈍足”と“凍え”のデバフがかかります」

「「デバフ!?」」

「はい」



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