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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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絶望的メシマズ


「いや、でも……鏡音くんと柳くんと違ってちゃんと人の話を聞けるタイプの料理下手じゃないんですよ、こいつ。人のアドバイスとか聞かないレシピ見ない、測り使わない勝手にアレンジ加える、とりあえず大量の塩味つけして醤油で強火で表面焼けばいいと思っている一番厄介な手をつけられないタイプのメシマズなんですよ」

 

 ああ、本当に一番アレなメシマズだ。

 複数のマズイ理由がてんこ盛りのタイプ。

 これはかなり改善の余地なしの可能性が高まってきたぞ。

 そんなメシマズが果たして『料理人の極意の巻物』を使用して、料理が作れるようになるのか?

 なんとなく気になってインベントリからアイテムの説明書を見てみる。

 それから、暴れるサラに視線を戻す。

 

「ちなみに、『料理人の極意の巻物』は料理人レベルが75以上必要って書いてあるんだけれど、サラさんは今料理人レベルいくつなんですか?」

「え?」

 

 静まり返るその場。

 森の生き物の鳴き声や木々の葉の揺れる音などだけが響く。

 プルプル震え出すサラ。

 

「戦闘プレイヤーと違って普通に生産職していたらレベル60台は割とすぐですよね。レベル80以上でいきなり必要経験値が爆上がりするので、こういう経験値アイテムが必須になると聞いたことがあります」

「そうなんだ?」

「らしいですよ。経験値総量の配分が戦闘プレイヤーと違うんですよね。そこまではサクサクで、それ以上は補助も使って腕を磨く、みたいな。リアルすぎてこっちで職人レベル80になると現実でも通用するようになるそうですよ」

「え、ヤバ……すごいね」

 

 つまり、現実でも通用するレベルに達していないと『料理人の極意の巻物』が使えないということ。

 全員の視線がそろり、とサラの方に向けられた。

 

「じゃ、じゃあ、私には『料理人の極意の巻物』が使えないってこと……? じゃあ、じゃあ、どうしたらいいの? 『白銀(プラチナ)魔道師(ウィザード)』とのコラボカフェエェェェ~~~!」

「あ~。『白銀(プラチナ)魔道師(ウィザード)』面白いですよね。ネットでしかアニメ配信してないのに、そこから漫画が売れ始めてスマホゲームになったやつ」

「え! アイドルのお兄さん、『白銀(プラチナ)魔道師(ウィザード)』を知っているんですか!?」

「メインキャラクターが個性的なイケメンで、主人公のパートナー役が蔵梨柚子(くらなしゆず)先輩で、後半から仲間になるキャラが一晴先輩で、新しい敵キャラが上総先輩なんだよね。少しだけ見たことがあるよ」

「えーーー! 結構詳しい! なんで知ってるんですか!? もしかして、アイドル同士はつき合ってたりするってことですか!?」

「……………………なにを言っているのかな?」

 

 言っていることはわかるけれど、一瞬なにを言われたの可能が理解するまでに時間がかかるとはこのことか。

 なるほど、智子が「解釈違い」と言っていた理由が心底理解できる。

 ドルオタとは分かり合えないものがある、これは。

 

「彼氏とかいるんですか!? 詳しく! 詳しく聞きたいです!」

「どうなんでしょうね。そういう楽しみ方をするファンの方もいると聞いたことがありますが、アイドルの中にはそういう話題が苦手な方もいるので詳しく聞いたことはありませんね。そういうことが好きなファン層に向けたファンサをしているアイドルもいますし、もし東雲学院芸能科のアイドルグループに興味を持っていただけているのならご紹介しますよ」

「「「「お、おお……」」」」

 

 なんか思わぬところでメンバーたちから尊敬の声が上がる。

 この手のファンへの対応の正解を見せられたため、謎に尊敬度が上がった。

 いいのか、それで。

 

「マジすか。実際につき合っているアイドルはいないんですか?」

「実際につき合っているアイドルの話はぶっちゃけると聞いたことはないんですけれど激重感情を向けていると思われるのは勇士隊の日守風雅(ひもりふうが)くんが、御上千景(みかみちかげ)くんに……。あとはやはり元祖、Blossom(ブロッサム)鶴城一晴(つるぎいっせい)神野栄治(こうのえいじ)の同担拒否オタクっていうのは有名ですよね」

「え? ガチ?」

「ガチではないけれど、同級生で同じグループで片方が割とガチ目の激重感情を向けているのが如実にわかるの、オタクは好きですよね」

「それ嫌いなオタクいる!? いねェよなァ!?」

 

 これはだいぶ気合の入っている腐ったオタクだなぁ、と目を細める淳。

 淳もそれなりにオタクなのでオタク心がわかる方だと自負しているが、こんなに隠さない人は初めて見た。

 

「えー、すっごい興味出ちゃった!今までお兄キモイ、としか思わなかったけど、そういうことなら話は変わってくる。自分で調べてみよ!」

「お兄さんには聞かないんだ……?」

「お兄と私じゃ重要視するところが違うんだもん」

 

 ここにきてのド正論。

 それはまったくもってその通り、とぐうの音も出ない。

 

「でもそれならまっくんも東雲学院芸能科のアイドルになってもらおうよ、お兄。お兄じゃ顔面がクソだから無理だけど、まっくんなら顔も頭もそこそこいいからイケるんじゃない?そんでアイドルの実態を色々教えてもらおうよ!」

「お前さ、根性まで腐っちまうともう人として見れなくなるよ、お兄ちゃん。(へき)は腐っても人間性まで腐ったら終わりだよ?」

「言い方ってもんがない?お兄だってまっくんはイケメンだからアイドルになれるかもねって言ってたじゃん!」

「それでもお兄ちゃんはまっくんの進路に口出しはしないよ」

 

 なんか深刻な兄妹喧嘩が始まってしまった。



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