レアアイテム『千手竜の額玉』
(女の子としてはちょっと心配になるレベルだけれど)
とはいえ最近は相当に鏡音にお熱を上げている。
綾城を最推しにしていた時期よりも、苛烈かもしれない。
グッズが少ないので同じグッズを多く買い、神野栄治の祭壇の隣に鏡音円の祭壇を作って祀っていた。
LARAにつきまとわれていた時に助けてくれたのが、よほどかっこよく見えたのだろう。
自分の力で大概なんとかしてしまえる智子だから、困っている時に助けてもらう経験が少ない。
本当に、本当に困っている時に助けてくれた人を“好きになる”のではなく“崇めてしまう”のは年頃の女子的にどうなのかと、そういう意味の心配をしてしまうことがあるけれど。
「藤井さんの妹さんも可愛いのならそういうやつらのあしらい方は、慣れていそうなものだけれど」
「そ、そうなんですけど……あいつ、ゲームのこととなると結構手段を選ばないタイプで……」
「ああ、いるね。そういう人種」
淳たちの視線がプロゲーマー二人に向けられる。
鏡音はその視線の意味を察してスッと目を背けるが、鶉はまったく気づいていない。
「それでホイホイついていってしまったんだ?」
「は、はい。あ、兄として心配で」
「それは確かに心配だけれど、ゲーム内では危ないこともできないんじゃない?」
「そんなのわからないじゃないですか……!」
突然の大声に、淳たちが目を見開く。
すると自分の大声のせいだと察したフィジーが「あ、すみません」と俯く。
なにも悪いことなどしていない。
兄として妹を心配するのは当たり前のことだ。
「まあ、心配だよね」
「そ、そうなんです」
「じゃあ、俺たちもついていってあげようか? 俺たちレベリング目的だから、集めたい素材もないし。あ、鶉くんはどう?」
「おれもなんでもいいですねー」
あえてこのダンジョンボスの素材を狙っている、とは言わない。
星光騎士団の金策のためなので、わざわざ言う必要もないだろう。
あのブラックデススコーピオに追われて逃げるレベルのプレイヤーに、ダンジョンボスとの戦いに関わらせるのは酷だとも思うし。
(うっかりオークション用のアイテムを探しているってバレて、ライバルが増えるのも厄介だしねー)
オークション、開始前から戦いは始まっているということで。
「ところで、妹さんの欲しがっているというそのなんとか龍のがくぎょく……? というのは、どういうアイテムなのですか? ダンジョンボスから採取できるアイテムとは違うような感じですが」
「え? あ、ああ、はい。ダンジョンに住む龍の一種で、湧きが一週間に一度きり。『赤逆の森』に一匹しかいないレアモンスターってやつです。それの額にある玉は、プレイヤーアイテムスロットを1000に増やす効力を持っているんです」
「「「「1000!?」」」」
普通、プレイヤーのアイテムスロットは100。
ボックスやバッグ、リュックなどスロットを増やすアイテムは多々あれど1000はさすがに破格すぎる。
だからSBOは自宅の倉庫というほぼ無限に収納可能なものを販売しているのだ。
だが、もしもアイテムスロットがそれほど増えたなら……夢である。
「そ、そんなレアアイテムがあったなんて……! 知らなかったです。もっと早く知りたかった。ファイブソングに家買っちゃいましたよ」
「お、おれも」
プロゲーマー二人、しっかりゲーム内に家買ってた。
まあ、淳たちよりもより多くの素材を集めていたことだろうから、スロットが足りなくなるのは当然だろう。
淳も「手持ちにそんなにたくさんアイドルグッズを持っていられるなんて」と感動。
それはほしい。
誰でもほしい。
「で、今日がその千手龍が出る日なんです。前回はドロップしなかったので、今日こそは、って」
「えっ、えええ!? レアドロップなんですか……!? 魔物自体もレアなのに!?」
「は、はい。なんと『千手龍の額玉』のアイテムドロップ率、0.2%なんですよ」
「えっ、えっぐうううううう!」
あまりにもレアすぎる。
だが、顔を見合わせる星光騎士団メンバーたち。
「淳なら」
「そうだね。アイテムドロップ率なら6〜8%くらいまで底上げできるね」
「えええ……!? ど、どういうことですか!?」
「いや、普通に歌バフで」
和風曲はアイテムドロップ率が上昇する。
その中でも星光騎士団には伝説の鶴城一晴様がおられるのだ。
和風曲ならお任せだ。
なんならBlossomの鶴城一晴のセンター曲も和風。
「任せてほしい。さっき俺、[アイテムドロップ率LV6]と[付与効果7]が出たから」
「ヤ、ヤベエエエエエエッ!」
あの時はほぼ偶然で出たLVだが、合唱ならば付与効果はもっと強くなるだろう。
そうなれば付与効果10はいくかもしれない。
付与効果10までいったらレアアイテムだとしてもアイテムドロップ率は25%近くなる。
歌バフ様々。
これぞSBO。
それを知らなかった鶉が頭を抱えて膝から崩れ落ちる。
「嘘だろぉ……! もっと早く知りたかった……!」
「効率厨的には知らなかった方が異常ですけどね……」
鏡音、容赦ない。
「つまりセミプロの俺たちがアイテムドロップ率上昇の歌バフをかければ、相当にドロップ率アップってことだよな!」
「そういうことだね。というわけで同行します」
「い、いいんですか!? 本当に!? ありがとうございます!」






