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喉、死ぬ(2)


『綾城です。おはようございます。音無くん、レッスンお休み了解しました。美桜ちゃん、淳くん、無理は禁物です、まずは体調を最優先にしてください。僕も今日から三日ほどお仕事で学校もレッスンも出られません』

『おっはー、ひまりちゃんやで。淳ちゃんレッスンお休み了解やで。はよようなるとええね。わし、今日自由時間あるからお土産()うてくるよ。リクエストあったらチャット欄に書いといてぇな』

『おはようございます、後藤です。今日から衣装作りでレッスンを休みます。レッスンに出られそうになったら再連絡します。沖縄土産、紅芋タルトを希望します』

『おはようございます、花房です! ジュンジュン、早くよくなるといいね! 先生に伝えておく?』

『おはようございます、狗央です。しっかり喉を休めてください』

『僕も紅芋タルトがいいです。あとさんぴん茶』

『紅芋タルトとさんぴん茶とジーマーミ豆腐とサーターアンダギーとパイナップル』

『みーちゃん、わいの財布やと思うて容赦なさすぎとちゃう? ええけど。一年生ズは? 遠慮とかいらんよ?』

 

 ああ、花崗先輩は撮影で沖縄か。

 昨日からお休みだったが、一年生ズはお土産リクエストなんてさすがにどうしても遠慮してしまう。

 

『ちんすこうしか知らないです』

 

 と、魁星。

 

『沖縄マンゴーで』

『クーちゃん、みーちゃんより容赦ないやん。ええけど』

『え!? なにかまずかったですか!?』

『ううん、ええよ。淳ちゃんは?』

 

 周、さすが御曹司。無自覚に遠慮がない。

 淳も沖縄には詳しくないので、慌ててさらっと調べる。

 その際、沖縄マンゴーの値段を見て「ヒュ……!」と喉が変な音を出す。

 可もなく不可もない値段の範囲で調べた結果。

 

『黒糖ショコラ?』

『了解やで。淳ちゃん喉冷やすんやないよ。ほな~。帰るん明後日になると思うからよろしくやで』

『ありがとうございます』

 

 ふう、とスマホを手放し私服に着替える。

 一階に下りると父が朝食とお弁当を作っている最中だった。

 弁当箱に詰めるのを手伝い、弁当箱を袋に入れて紐を縛る。

 ご飯をよそう頃、父が母と智子を呼びに二階へ上がっていった。

 二人を起こした父が「食事は食べられそうか? おかゆあっためようか?」と覗き込んでくる。

 レトルトのおかゆを取り出して見せられ、淳も自分の喉を撫でながら一考。

 少し考えてから、コクリと頷いて手に取った。

 中身を耐熱皿に入れて、電子レンジで温める。

 

「学校の方にはさっき連絡したから、九時になったら咽喉科に予約の電話しよう。父さんも午前中だけお仕事休めたから、一緒に行こう」

『いいの? 大丈夫なの?』

「大丈夫だよ。気にすることないから」

 

 ああ、申し訳ないな、としょんぼりする。

 しかし、起きてきた母と智子にも淳の体調を心配して学校を休んで病院に行くのに賛成。

 慌ただしい朝の時間、お弁当を持って仕事と学校に出て行った。

 残った淳と父は、病院に予約の電話をしてから出かける準備を行い、車に乗る。

 月科総合病院、咽喉科にかかり、お医者さんには「声変りによる症状。でも少し炎症が起きていますね」ということで痛み止めと炎症を抑える薬を処方された。

 

「ああ、それと――絶対に無理に声を出そうとしないようにしてください。短ければ数日、長ければ数週間、その状態が続くでしょう。声が出るようになっても、しばらくは声を出すのは控えるように。大声を出すと喉が傷ついて、声変り後の声も掠れて大声を出せなくなるかもしれません」

「そ、そんなに……!? なんとかなりませんか? この子は東雲学院芸能科に入学したばかりなんです!」

「そう言われましても。とにかく声は出さないように気をつけてください。無理に出すと本当に声に後遺症が残りますから」

 

 お医者さんにそうきっぱり言い切られて、父と顔を見合わせる。

 無理に声を出すと、声に後遺症が残る――。

 会計待ちのベンチでは、喉を撫でながら俯く。

 

「数日から数週間、我慢して気をつけるようにしなさい。お医者さんに言われた通りに声を出さなければ大丈夫さ」

「………………」

 

 コクリ、と頷く。

 声を出さなかったから大丈夫、かもしれない。

 けれど、声に後遺症が残って歌えなくなったら――ミュージカル俳優どころか、せっかく受かった東雲学院芸能科も、星光騎士団も去らなければならないだろう。

 

(薬を飲んで、声を出さないように……)

 

 不安で押し潰されそうな手を握り、俯いたまま唇を噛む。

 まさか急に声が出なくなるなんて。

 数日で治ればいいが、数週間声を出さないようにしたら声の出し方、歌い方を忘れてしまう。

 

(あ――SBO)

 

 顔を上げる。

 声の出し方も歌い方も忘れないために始めたVRMMO『SBOソング・バッファー・オンライン』。

 どうせ最近はフルフェイスマスク型のVR機ではなく、フルダイブ型VR機を使っている。

 IG夏の陣までに声が出るようになれば、ちゃんと参加できるはず。

 もちろん、今月の定期ライブに間に合えばそれに越したことはないけれど。

 

「ん?」

 

 スマホで文字を打ち、父に今日の診断結果をグループチャットに書いていいか聞いてみる。

 父も少し仕方なさそうに首を縦に動かしてくれた。

 星光騎士団で新曲を二曲歌う、などの話は守秘義務がかかっているので家族にも話していないけれど、星光騎士団箱推しドルオタの家族にはきっとバレている。

 スマホを持つ手が震えた。

 せっかく、先生や先輩たちが新入生三人専用の曲を作ってきてくれたというのに。

 

(歌えないかもしれない。ゲームの中でなら歌えるかもしれないけれど。ああ、もう……なんで……)



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