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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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歌い手グランプリ前日(4)


「魔物が出ましたよ」

「おっと。それでは戦闘といきましょうか」


 武器を構える。

 今回はリアルの姿をダウンロードしたバージョンなので、周囲に人がいないかをつい確認してしまう。

 まあ、ゲーム内で星光騎士団のメンバーの名前を名乗るアホはあれ以来出ていないと思われるけれど。


「歌バフはつけさせてね」

「わかってますよ。鶉もすぐに斬りかからないでください」

「あ! そ、そうか! は、はーい」


 魔物の姿を見た瞬間、鶉の目つきが変わった。

 それを見て同じゲーマーの鏡音はすぐに鶉へ注意を促す。

 血の気が、血の気が多い。

 鶉や淳、鏡音のレベルだとバフなしで魔物を倒すのは造作もない。

 この近辺は初心者が多いので。


「まずは響くん、歌バフかけてみようか」

「はい! 〜〜♪」


 早速バフ検証開始。

 目の前に現れたのはラップラビット。

 こちらの歌バフの曲調に合わせて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。大変に可愛い。

 可愛いが突然襲いかかってきて、前歯で噛まれると確定でHP半分持っていかれる。ダメージ量は全然可愛くない。

 高レベルプレイヤーでも、高レベル装備だろうが確定のHP半分なので油断ならない魔物である。

 柳が歌おうと思っていた曲は例のBLドラマの主題歌。

 月額ではなく、曲ダウンロード課金で購入した。

 付与されたのは[HP上昇LV2][付与効果2]。


「び、微妙……! あ、円くん、この付与効果2ってなに?」

「今回のHP上昇はたとえばHPが100としたら、LV2なので2%アップするんです。オレは数字がよくわからないので100が2%アップで幾つになるかわからないですけど」


 だいぶダメな説明入ってる。


「その2%にプラス2%追加されるってことですね。つまり、4%プラスってことです」

「なんかいっぱいアップするってことか!」

「そうですね!」


 周、淳、とりあえずなにも言わずに見守っていたけれど、学力向上委員会の講義の効果があまりなかったことにひっそりと落胆。

 なかなかの虚無。

 見かねた周が溜息を吐いて、近づいて説明しに行った。

 途端にラップラビットが飛びかかってくる。

 忘れかけたがラップラビットは歌バフの曲調に同調してダンスしたあとに、襲いかかってくる魔物。

 慌てて杖で口を塞ぐように応戦。

 だが、ラップラビットの確定攻撃は武器にも適応される。


「えっ!? 武器の耐久値がっ……!」


 武器耐久値が表示され、恐ろしい勢いで減り続けていく。

 ちょっと見たことない耐久値の減少。

 しかしきっちり半分で止まったので一安心……。


(いや、普通にやばい! これならHPで受けた方がマシだったかも! 武器の修理費がっ!)


 SBO内のアイドルグッズにソングという通貨を使いたい淳にとって、武器の修理費は手痛い出費。

 いや、そんなにSBO内の公式ショップに新規グッズは追加されることがないけれど。

 でも、リアルと違って嵩張らない。

 ゲーム内自宅での倉庫に大量スタックが可能なので、アイドルグッズ購入欲を満たすことができる。


「ジュンジュン!」

「っ!」


 さらにキックをしてくるラップラビット。

 危うく顔面で受けることになりそうだったところを、魁星が庇って剣で切り裂く。

 ラップラビットは低レベルの初心者向け魔物なので、魁星のレベルならば一撃で倒せる。

 真っ二つにしてから「「あ」」となった。


「え!? もう倒しちゃったんですか!?」

「ご、ごめーん。次の魔物を探そうか。できればラップラビット以外で」

「え? HP減った?」

「ううん、武器の耐久値が半分になった。やばい」

「え、それ結構上位武器だよね? 半分になったの……!?」

「そう。特攻攻撃をされる前に倒すのが普通だからね、ラップラビット」


 HPが低く、初心者向けの魔物なのだが特攻攻撃は本当に厄介。

 よって特攻攻撃のない初心者向け魔物を探すことにした。


「見つけましたよ〜」

「鶉くん、こんな初心者向けのフィールドだと面白くないんじゃない? 無理せず自分の好きなところでプレイしてくれてもいいよ?」

「あー。まあ、はい。つまんないけどー……でも歌バフに関しては興味あるんですよね。おれ、ソロプレイヤーなので歌バフは縁がないから、バフがあるのとなしだとどんだけ違うんだろうっていうか」

「なるほどね。それじゃあ粗方確認が終わったら、強いダンジョンつき合おうか? レベルが足りないから新大陸の方には渡航できないけれど」

「本当ですか!? いい! いいです! それでも! よろしくお願いします! あ、それならシックスソング近くの平均レベル90ダンジョン、『岩戸(いわど)』に行きませんか!?」

「いいよ」

「やったー!」


 やったー、やったー、とおっさんのアバターがぴょんぴょん飛び跳ねるというなかなかの地獄絵図。

 鏡音も嫌そうな表情。

 しかし、『岩戸』というダンジョンは淳も初めて聞く。

 情報を追えていない時期での実装だろうが、さすがに不覚だろうか。

 神野栄治は変わらず毎日追っていたので、彼がSBOの最新情報に関わっていたとは思えないが、それでも神野栄治がプロモーションを担当するゲームでこの情報の遅延は恥べきことか?


「もう少しレベルの高いところの方が色々試せるのでは? 要は生かさず殺さずにしておけばいいんですよね?」

「さらりと怖いこと言ってるね、鏡音くん。いや、まあその通りなんだけど……でも歌バフって敵レベル関係ないよね? 回数をこなしたいから、低レベルフィールドでいいんじゃないかな」

「まあ、確かに」

「新しい魔物を見つけましたよ」


 もはやここからは作業。

 弱い魔物を見つけて、一人一人明日のSBO歌い手グランプリで歌う歌をバフのレベルを見て決める。

 ちなみに淳はBlossom(ブロッサム)の鶴城一晴個人曲が一番バフレベルが高かったので、これを歌うことにした。



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