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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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歌い手グランプリ前日(3)


 東雲学院芸能科を鶉に勧めておいてから、リスポーン地から戻ってきた蓮名を加えて改めてフィールドに繰り出す。

 三大大手グループ全員ともなると、やはり制御が効かない。

 なので各グループのリーダーが、それぞれ近場で借りをしながら検証を進めることになった。

 しかし魔王軍はSBOのフィールド経験者がいない。

 なので、レベリング経験のある宇月と後藤が魔王軍に同行してくれることになった。


「このゲームで一番経験値あるの、俺と鏡音くんだと思うので俺たちのどちらかで行きますよ?」


 と、淳が申し出たのだが、宇月がによ……と微笑む。

 だいぶ笑みが怪しい。


「いやいや、わざわざ経験者をあいつらに貸し出してやる必要ないでしょ。だってチェックだけでしょぉ?」

「あ……。はい」


 訳、勝負はもう始まっている――である。

 淳は敵に塩を送りすぎるので、ほどよく相手を利用したり相手の能力を制限するやり方を覚えろ、ということなのだろう。

 これからは“リーダーとして”そういうことも必要になるだろう、と。


(うーん、まだまだ敵わないなあ……)


 石動に対しても時折リーダーとしてのあり方で思うことがあるけれど、戦略的なところは勉強がまだまだ必要だ。

 というか、東雲学院芸能科アイドルが好きすぎて甘くなりがちなのだと思う。

 それは仕方ないだろう、だって東雲学院芸能科箱推しなんだもん。


「それじゃあ、星光騎士団! 出発しますよー」

「はーい!」

「今日は鏡音くんのゲーマーチームの後輩、鶉ナツメくんが同行するので、案件系の相談はなしでお願いします。また、配信などもしないので気軽に歌ってください。フィールドに関して質問がある人は、俺か鏡音くんが対応するのでなんでも聞いてくださいね」


 と、言っても星光騎士団メンバーはSBOに結構ログインしてレベリングしている。

 レベリングした方がライブでのバフ効果が高くなるからだ。

 レイドイベントなどで呼ばれる時に、多くのプレイヤーに品質のよいバフを付与できた方が喜ばれるだろうし。

 その上、今回の『SBO歌姫&歌い手グランプリ』はいかにバフを盛れるか勝負と言っても過言ではない。

 ついでにレベリングしておくのは悪くなかろう。


「っていうか、俺たちもSBO歌姫&歌い手グランプリ出なきゃダメなん?」

「確かに。淳と鏡音くんだけでよくありませんか?」

「三大大手グループみんなSBOでプロモーションを担当したことがあるんだから、逃げようとしないでね?」

「出場したくないのならしなくてもいいですよ、花房先輩、狗央先輩。ライバルは少ない方が助かりますし」

「っていうかレベルだけだと鏡音くんが優勝候補だしね」

「「そういえば」」


 レベルにより曲数が増える上、バフのレベルにも関係してくる。

 鏡音円、SBOでのレベルが現在121。

 現在のSBOレベル上限が先日しれっと150になったということで、いつの間にか完全に淳を上回っている。

 それを聞いた魁星と周、柳は目を丸くした。


「さ、最近ログインしていなかったですが、そんなことになっていたんですか……!?」

「そうだよ。俺も情報を追えていなかったけれど、新しい大陸とダンジョン、フィールドの開放とレベル上限の限界突破が先週実装されたそうで」

「新武器と新ダンジョン、本当にヤバかったんですよね」

「そうそう! すごいヤバかった!」


 と、すごくいい笑顔の鏡音と鶉。

 このゲーマーたち、すでにチャレンジ済み、だと?


「二人はもう新大陸に行ってみたの?」

「はい。新大陸はレベル100から渡航できるんですけど、おかげで本当にプレイヤーが少なくて最高の狩場でしたよ」


 言ってることしれっとえぐい。

 淳はさすがにレベル88から止まっている。

 なかなかレベリングにこれていなかったので。

 しかし、レベル100から渡航可能な新大陸とは、普通にプレイしているゲームなので、大変に気になる。


「いいなー。俺も時間ができたらレベリングして新大陸に行ってみたいなー」

「行きましょう! レベリングおつき合いしますので!」

「音無さん、結構ゲームやれる人なんですね!?」

「まあ、実はスト8もやっていたり」

「スト8やってるんですか!?」


 鶉の食いつきがものすごい。

 さすがゲーマー。

 そして安定の鏡音。

 ストリートバトルファイティングは8まで続編が出るほど息の長い、人気ゲーム。

 まだ十代も半ばの鶉もやっているのだから、歴史あるゲームというのは世代に関係ないのだろう。

 事実淳も父とプレイして、ストファイにハマった経緯があるのだから。


「SBOも面白いですけど、ストファイも今度やりましょう」

「やったー! よろしくお願いします! VRですか!?」

「VR、いけます」

「すごい! 普通に! え! 音無さんってアイドルなんですよね!? アイドルでVRのスト8やれる人いるんだ!? すごい!」

「そうでしょう、そうでしょう。音無先輩はすごいんですよ」


 なぜかドヤ顔の鏡音。

 プロゲーマーの鏡音に褒められるのはさすがに恥ずかしい。

 しかし鶉も「VRの格ゲーできる人、本当にすごいですよ!」と大はしゃぎ。

 それは実際にその通り。

 いくらVRでも他人と殴り合うのは、本能的な忌避感がどうしても拭えないものだ。

 いくらゲームでも、生身でなくとも。

 格闘の衝撃を脳が受けて、恐怖を感じないわけがない。



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