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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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歌い手グランプリ前日(2)


「鏡音先輩も冒険に行くんでしょう? おれも同行してあげるよ~」

「はあ……」

 

 鏡音の深々した溜息。

 これはなにがなんでもついてくる気か。

 案件などの話さえしなければ、同行してくれても特に構わない。

 とりあえず今日は一緒に冒険すればいい。

 同行オッケーだよ、と伝えると鏡音にはだいぶ微妙な顔をされた。

 それに――。

 

(鶉くん、十四歳? 今年受験生なんだろうし、ぎりぎり東雲学院芸能科を選択肢に入れてもらえそうな時期)

 

 アイドルはなんぼ生まれたっていい。

 というセミプロやインディーズのドルオタはそこが気になる。


「ところで鶉くんはもう受験する高校決まっているの?」

「音無先輩……!?」


 さすが鏡音、察しがいい。

 淳がそう聞いただけで、スカウトだと察した模様。

 対して鶉は首を傾げつつ、満面の笑みで「おれ、高校行かずにプロゲーマー一本で食べていくつもりです!」とか言い出した。

 固まる淳と鏡音。

 なぜなら鏡音ですら高校に行かないのはゲーマーとしての未来に大きく影響すると、わかっている。


「本気ですか? 高卒でないと馬鹿にされますよ」

「だってゲーム上手ければそれがすべてじゃないですか。ゲームって」

「そんなことないですよ。オレだって最初はそう思っていましたし、プロに所属しているんだから高校なんて行かなくてもいいと思ってました。でも、叔母に『高校だけでも卒業しておかなければ、社会的な評価は得られない』と言われて考えを改めました。他にも、配信中リスナーに『高校に行くべきか、行かずにゲームを極めるべきか』の質問をしたらリスナーにも『高校を卒業しておけ』と言われました。理由を聞いたら『社会評価が雲泥の差』であることや『高校で出会う人間関係が一番長くなる』点や『人脈確保のために高校に行った』という人も。それで自分も、芸能科なら配信業やゲーマーの仕事にも理解を向けてくれるのかもと思って東雲学院芸能科を受験したんです。あなたも成績はいいのなら、芸能科を受験してみた方がいいと思いますよ」


 と、かなりリアルなお説教をしてくれる鏡音。

 淳の場合は憧れの神野栄治の出身校だから――というのが一番大きな理由。

 鏡音はその他にもアイドルをやることで、プロゲーマーとしてやっていくための筋力体力集中力を身につけることを目的としていた。

 プロゲーマーというのはまさにスポーツマン。

 そこを指摘すると鶉は嫌そうな表情。


「で、でも……おれは若いから!」

「若さだけでカバーできるのには限界がありますよ。歳は取る一方なのです。若いうちに自分の能力上限を底上げしておくべきでは? 少なくともオレはそれを目的として東雲学院芸能科に入学しました。実際かなり集中力が上がったと思います」


 だがその上がった集中力と長時間配信や徹夜してでも練習する体力も、星光騎士団のレッスンで身につけた。

 むうー、と頬を膨らませる鶉。


「興味があるのなら東雲学院芸能科を受験してみたら? 今なら鏡音くんの後輩になれるよ」

「鏡音先輩の後輩かあー。それならまあ……」

「ちょっと……音無先輩!」

「いいじゃない」


 嫌そうな鏡音をまあまあ、と宥めながら――


星光騎士団(うち)は加入に『地獄の洗礼』があるし」

「あ……」


 こそっと耳打ちすると思い出した鏡音は若干顔を青くする。

『地獄の洗礼』はある程度の経験者でもしんどい。

 鶉を勧誘して、実際東雲学院に通うことになったとしても『地獄の洗礼』に耐えられるか。

 高校に通うこと自体を嫌がっている鶉が『地獄の洗礼』に耐えられるとは思えない。


「なんと言われようとおれは高校で勉強なんてしたくないでーす! ゲームだけしていたいんですよ!」

「はあ……。まあ、鶉の人生なので好きにしてください。オレには関係ないですから」

「鏡音先輩がどうしてもって言うなら、東雲学院芸能科に行ってあげてもいいですよ」

「別に無理にとは言わないですから、鶉の人生は鶉が決めればいいと思います」


 ぷい、と鏡音が顔を背ける。

 むー、と頬を膨らませる鶉。

 二人のこのすれ違いというか、やり取りがすれ違っているのが面白い。

 いや、鏡音はとても面白くなさそうなのだけれど。

 しかし相当、鶉には気に入られているようだ。


「ちなみに、東雲学院芸能科は学費を自分で支払えるよ。寮もあるし、親の許可が必要な医療部屋もある。学院側が“保護者”として責任を持ってくれるから」

「え? 学費、自分で……?」

「そう。アイドルとしての仕事をすればするほど、ちゃんとお給料をもらえるからね。ね? 鏡音くん?」

「まあ、そうですね。……鶉くんのご両親にもしも頼れないのであれば、学院の制度を色々利用してみてもいいのでは?」

「っ……」


 もしかして、と思って声をかけるとずいぶん驚いた顔をされた。

 やはり家庭になにかしら事情のある子だったのか。

 高校に行きたくない、行かない、という子どもはだいたい家庭になにか事情があると感じた。

 本当に勉強ができない、これ以上勉強したくない。

 早く就職して、お給金を稼ぎたい――など。

 鶉は成績が鏡音よりも悪くないようなので、それならば後者の可能性が高いと踏んだのだ。


「学院の方に問い合わせればパンフレットと受けることのできる学院の制度が書かれた冊子を取り寄せることができるので、興味があったらぜひ問い合わせてくださいね」

「は、はあ……」



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