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喉、死ぬ(1)


(ところでナッシーって……音”無”だからナッシー? 星光騎士団って独特なあだ名つけるらしいけど俺、ナッシーになったのかぁ)

 

 しかし、宇月がこんなに蔵梨を好きだというのなら宇月も『SBO』で一緒に遊ぼうと誘ってみるべきか。

 今もレイドイベント中なので蔵梨も佐藤とともにライブに来る、と思われる。

 

「って、お前も決闘から逃げるのかよ!?」

 

 ハッと顔を麻野に向ける。

 指さして睨みつける麻野に、若干居心地悪そうに視線を泳がせる宇月。

 しかし、そんな宇月の前に後藤が立つ。

 

「俺が受ける」

「ッ!?」

「美桜ちゃんは行きたかったイベントだから、邪魔させない」

「――ッ、よく言うじゃねえか! 人形持ってないと喋れねぇ日和見野郎!」

 

 後藤の腕に抱かれた黒髪のSD。

 ああ、抱いたままだったから後藤が珍しくスラスラ話していたのかと見上げた。

 ステージ上、前髪をM字に整えた後藤は『アイドル』として振舞うのに、普段はそうではない。

 SDを抱いていなければ「うぃ」しか喋らない。

 そんな後藤が――。

 

「ご、ごとちゃん! 大丈夫なの? 無理しなくていいよ!?」

「大丈夫。美桜ちゃんが行きたがってたイベントだから、ちゃんと楽しんできてほしい」

「はっ……! 上等だ! 今月の定期ライブ、俺と決闘しやがれ、後藤琥太郎!」

「わかった」

 

 えーーー!

 と、宇月と一年生トリオが驚愕の声を上げる。

 が、麻野が立ち去っていくと――。

 

「アイツ、バッッッッカだねぇ……。ごとちゃんは曲ジャンル全般得意だし、ダンスもラップ上手い、麻野の上位互換だってーの」

 

 んべ、と浅野の背中に舌を出す宇月。

 そうなの、と魁星と周がなぜか淳を見る。

 コクリ、と強めに頷く淳。

 星光騎士団、魔王軍、勇士隊は三大古参老舗グループ。

 が、今代は間違いなく星光騎士団の層が飛び抜けてぶ厚い。

 炎上スタートとはいえ現在は在校生唯一のプロデビュー済みの綾城珀。

 入学時、すでに読者モデルとして活動していた花崗ひまり。

 同じく読者モデル出身で、バレエ経験者の宇月美桜。

 音楽家一族出身のスポーツ万能の後藤琥太郎。

 魔王軍はリーダー、朝科旭単独の人気が高い。

 勇士隊は五人中三人がぶっ飛んでいるので人気があるというかあれはなんというか、珍獣を見る目で観察というか心配されている……? ような?

 そして問題の麻野。

 麻野が得意な音楽もラップもダンスも後藤の得意分野。

 特技である絶対音感もこういう学校では珍しいものではない。

 音楽家一族出身の後藤にも当然備わっている。

 むしろ、それ以外に服飾のデザインやステージ衣装を作り上げる器用さがある後藤の方がすごいような……。

 

「美桜ちゃん、安心してイベント楽しんできてね」

「ごとちゃん……ありがとう!」

 

 宇月が後藤に抱きつくと、それはもう嬉しそう。

 無表情なのに、後藤の背後に花が舞っているのが見える。

 やっぱり宇月大好きなんだろうなぁ、というのが伝わってきた。

 

「仲良しですね」

「まぁねー。ごとちゃんと僕は幼馴染だから!」

「え、そうだったんですか!」

「んふふー。そうー。バレエ習ってた時にごとちゃんも同じ教室だったんだよぉ。まあ、ごとちゃんはすぐ辞めちゃったけどねぇ。ごとちゃん、背も高いし今も続けてたら『王子様』役固定だっただろうねぇー。僕は身長伸びなかったから、辞めるの薦められちゃったくらいだけどぉ」

「美桜ちゃん……」

「いーのいーの、自分で辞めるって決めたんだから。それにぃ、今はアイドル声優になるっていう目標があるの。今はそっちの方が僕の人生の指針なんだからぁ。ごとちゃんもやりたいことやってよねぇ? 親から言われたこと、気にしちゃダメだよぉ?」

「……うん。ありがとう……美桜ちゃん」

 

 あれ? 俺たちの存在、先輩たちの中で消失してる……?

 そのままシカトして先輩たちが帰って行くのを見送ってしまったので顔を見合わせてから三人も帰路についた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 翌朝。

 起き上がった淳はあくびをした途端、喉に強い痛みと違和感を持って喉を掴む。

 

(っ!? 声がまったく出ない!?)

 

 風邪を引いた時のように痛み。

 掠れ声すら出ない。

 慌てて一階にあった救急箱から温度計を取り出して体温を測ってみる。

 熱はない。

 

「ふああ……。おはよう、淳。おや? 体温計? 体調が悪いのかい?」

「……! ……!」

「淳?」

 

 二階から下りてきたのは今朝の朝食&お弁当担当の父だ。

 涙目で振り返ってきた淳に首を傾げつつ、心配そうに手を伸ばして頭を撫でてくる。

 はっとして、急いで自室に戻りスマホを取ってきた。

 

『声 出ない』

 

 メモアプリに書き込み、父の目の前に出す。

 それを見て、父も驚いた表情。

 淳の声変りのことは知っていたけれど、こんなに急に、一気に症状が進むとは思わなかったのだろう。

 父自身、十三歳くらいにさらっと声変りが終わってしまったので淳のように声変りが遅く、症状も長引いているのは経験がなく淳のスマホを見て「病院に行こう。今日は学校を休みなさい。お父さんが学校と病院に電話するから、身支度を整えておきなさい」と言われて二階の自室に戻る。

 しかし、学校を休むとなるとグループのレッスンも出られない。

 

『練習には必ず出るようにしてください。出られない場合はチャット欄で連絡を事前にしてくださいね』

 

 綾城の言葉を思い出し、慌てて『イースト・ホーム』の星光騎士団チャット欄に『おそらく声変りの症状だと思うのですが、声が一切出せなくなったので本日病院に行き学校も休みます。レッスンも行けないと思います』と送ると、真っ先に宇月から『は? 歌詞を覚えたりダンス練習も難しいの? IG夏の陣舐めてんの? できることやらないと間に合わなくなるよ?』とポンポンメッセージが並ぶ。

 それを見て、なるほど、と感心する。

 声が出せなくても、できることはあるのだ。



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