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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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グループアイドルと“アイドル”


「ずいぶん自信があるな?」

「先輩たちが卒業する前に優勝しておきたいです。先輩たちがいるから負けたのではなくて、先輩たちがいるから優勝できたんだって証明したいので。Blossom(ブロッサム)が名誉出禁になっているので、チャンスは十分にあると思うんですよね」

「夏の陣で新曲は出し尽くしたんだろう? 今年からトーナメント方式に変わっているし、そんなにうまくいくもんか?」

「専用曲があるんですよねぇ」


 東雲学院の三大大手グループにはそれぞれメンバーごとの個人の専用曲がある。

 基本的に定期ライブなどで披露されるが、歌う機会が非常に少ない。

 なぜならグループ売りしているから。

 綾城や花崗(みかげ)もおそらく片手の数しか客の前で歌う機会には恵まれていない。

 そのくらい、レアなのだ。

 もちろん、石動も専用曲は持っている。

 だからこそ「それ意味ある?」と聞いてしまう。


「俺と魁星と周の専用曲がまだ未披露なんですよね」

「星光騎士団の知名度なら――なるほど、初日二日目はアリだな。それだけで勝ち抜ける可能性は高いか。相手次第だけどな」

「そうなんですよね。まあ、でも多分勝てますよ。初日の一曲を俺、二日目は周と魁星。それで三日目まで行ければ全員集合。ドルオタは好きですよ、全員集合。焦らされると余計に」


 ドルオタなのでわかる心理。

 最終日に全員集合を見るために初日と二日目に投票してもらう形。

 夏の陣では通用しない作戦ではあるが、冬の陣ならば通用する。

 なぜなら冬の陣は万人受けが狙い。

 最近のアイドル“グループ”についていけない『Ri☆Three(リ・スリー)』台頭前の世代では『アイドルとは一人で歌うもの』が常識だった。

 今は多人数の“グループ”が大量にデビューしているため二十代後半から上の世代にとっては『なんだこいつら?』となっている。

 要するに『数が多すぎて覚えられない』のだ。

 それより上の層など、もっとそういう意識がある。

 それならば一人ずつ出ていけば、逆に目を引く。

 もっとも、上手くいくかは賭けだけれど。

 淳の歌唱力なら少なくともその層には刺さる可能性が高い。

 グループアイドルになってから、歌唱力の高さは二の次になりつつあるからだ。

 グループ売りに抵抗感を持つ上の層の中には『最近のアイドルは顔とダンスばかりで歌が下手』と言う意見も見受けられる。

 ならば、グループであっても一人一人登場して、歌唱力でぶん殴ればいい。


「いいんじゃねーの。お前が目立つとFrenzy(フレンジー)の宣伝にもなる。しかし、一年の最初の頃はあんなにガサガサだったのになぁ、歌声」

「う……。それは……声変わりの時だったので……」


 今でこそ懐かしい。

 入学当初から、一年の半分ほどは声変わりでぐずぐずだった。

 ようやく声が出るようになってからは、春日芸能事務所の声帯に明るい講師にレッスンを受け、声楽の先生に師事を受け、お医者さんにも相談しつつやってきたことが実を結んだのだ。

 今では東雲学院芸能科の中でもトップクラスの歌唱力を持つ。

 周や千景も相当に歌が上手いが、彼らと肩を並べられるぐらいに。


「こほん。は、話を戻しますよ。えーと、その後初ライブは大晦日。場所は中央区のセンターホールの予定でしたが、東南区に建設中だった美桜公園アルティメット劇場の第一ホール……一番大きなメインホールですね。そこが完成するので、こけら落としをするそうです。年末の大晦日にやることで、劇場の新たな門出を大々的に祝うとか」

「ああ、なんかすげぇ数億かけて作ってたな……」

「す、数億……!?」

「俺、先々月その隣の古い劇場に観劇に行ったんですけど、その劇場が可哀想になるレベルでした。隣のショッピングモールの方は来年の三月に完成予定だそうで、その時にまた春日芸能事務所のアイドルでオープンキャンペーンライブをやる予定だそうです。東雲学院のアイドルにも声をかけていいとのことなので、こちらは俺の方で三大大手グループを始め色々聞いてみるつもりです」

「な、なにそれ? 劇場の横に、ショッピングモール……?」


 困惑の松田。

 そうか、知らないのか。

 現在四方峰町の東南区公園横で、超巨大な劇場が建設中なのだ。

 ステージは三つ分。小ステージも三つ建設されるそうな。

 二階までくり抜いて、相当に広く大きく複数の舞台が誕生すると期待が向けられている。

 しかもその横には日用品を購入できるスーパー、その上の階には雑貨屋や衣類系の店をテナントで招く。

 三階はレストランなどの飲食店。

 四階より上は春日芸能事務所のアイドルグッズ売店。

 春日芸能事務所のアイドル、コメットプロダクションのVtuberグッズ専門店ということで、件の春日芸能事務所オンラインショップで販売されるオリジナルグッズも実地販売される予定。

 しかも、三階のレストランとのコラボカフェやメニューが実施される予定もある。

 もっとも、このあたりは来年なので現在コラボメニューやコラボグッズの企画書を見られる程度。


「や、やばぁぁい……」

「本当、金の暴力って感じだよなぁ。でも一応、五階より上は他の芸能事務所のアイドルグッズとかも売るのか」

「委託販売という形のようですね。六階は不要なアイドルグッズの買取と中古グッズ販売店も予定しているらしい、まさにドルオタの聖地になる予定なんですよ! すごいですよね! 販売終了、生産終了しているアイドルグッズが手に入るかもしれないんですよ……! すごいですよねっ!!」

「ああ、ドルオタはそういう反応なのね。そう、よかったね」


 冷たい反応の石動。

 ドルオタの興奮を理解していただけない。


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