盛り上がってるコメプロ
先に石動と合流して第二スタジオに向かう。
別に会議室で話してもいいのだが、MVの話もしなければいけないのでジャージで軽い練習というか流れの確認を行いたい。
というわけでスタジオの椅子を持ち出してきてジャージに着替えて松田待ち。
集合時間は二時なので、まだあと十五分ほどある。
が、スタジオの扉が開く。
「…………なんでほぼニートの俺が最後なんだよ……!?」
「ニートではないだろう。一応Vtuber? 配信者? っていう職業だろ、お前」
「世間からまだ認められている職業じゃないんだよ! 登録者数だってまだ二万人に到達してないしさぁ」
「ちょくちょく増えてはいるじゃないですか。事務所所属にしては少ないですが、弱小事務所で一万人超えは普通にすごいです! 順調に増えてますよ!」
「慰めるなぁ! どうせ後輩のおかげで五千人増えたよぉ!」
「えーと、新しく二期生と三期生がデビューしていたからその話でしょうか」
「そう」
Vtuber事務所コメットプロダクション、現在は三期生までデビューしている。
一期生である松田は色々と期待されていたものの、Vtuberの世界は色々と世知辛いらしくて思いの外登録者数は伸び悩んでいた。
ちなみに同じ配信者枠の鏡音は「Vtuber、今本当に戦国時代みたいな感じですからね。一昔前のお笑い芸人やアイドルみたいに、大量発生しているんですよ。まあ機材を揃えれば手軽に始められて、承認欲求を得られやすいので人気ではあるんですけどまず立ち絵の用意や2D発注などかなりお金がかかるんですけど」との評。
実際松田が「立ち絵はイケメンに作ってもらったし、2Dもかなり滑らかでお金かかってて怖い」と言っていたらしい。
そういうものなのかぁ、と思って聞いていたがその手軽さから本当に無数のVtuberが誕生して人知れず消えて、しかし承認欲求の得られやすさから新たな立ち絵を得て『転生』する。
だから減ることはないし、増え続けているのだと。
Vtuber事務所も着実に増えており、しかも芸能系と同じく“搾取”目的、“色恋営業”目的も水面下で増えている。
なので新規事務所はやや警戒もされがち。
さすがにコメットプロダクションは春日芸能事務所の傘下なので、今後のタレント次第で相当大きくなりそうではあるが、その堂々たる一期生である松田には凄まじいプレッシャーなのだろう。
だが今回デビューした三期生と、その前にデビューした二期生の方が登録者数を伸ばしている。
特に二期生の『自称神様』はキャラ設定があまりにもしっかりしすぎている上トークが相当に面白いらしく、登録者十万人を突破。
個人勢や海外Vtuberにもコラボを申し込みまくりの、コミュニケーションの鬼。
おそらくこの事務所の中でも頭がおかしいレベルの多言語を操り、知識量も凄まじい。
生物学や心理学、医学の専門知識まであるのでお悩み相談などもサクサクと捌いていく。
あまり見る機会もないのだが、淳もチャンネル登録している。
様々なジャンルに幅広く知識を持つ人なので、軽快でわかりやすく噛み砕く解説力も相俟って人気が出るのはわかる自称神様Vtuber、トリシェ・サルバトーレ・神礼。
他の二期生、三期生もキャラの濃い異世界人設定なので、主にそのトリシェを入口にしてコメプロは盛り上がりを見せている。
グッズ展開やボイス展開もしており、着実にコメプロという事務所は知名度を上げていると思う。
事務所の知名度が上がれば、事務所の信頼度も上がる。
事務所の信頼度があれば、今後デビューする新人も注目度が上がりお客を呼び込みやすくなる。
松田はある意味Vtuber『松竹梅春』として、その事務所知名度アップのためにアイドルグループFrenzyのメンバーとして活動をするのだ。
が、Vtuberとしての登録者数は間違いなく現在のコメプロで一番少ない。
一番先輩なのに。
それが気になって仕方ないのだろう。
ちょっとだいぶネガティブ入っている。
「別にいいんじゃねぇの。お前、だってコレ以外にも配信もしてゲーム会社の仕事もしてんだろう? 正直かなり社畜してると思うんだよなぁ」
「それは俺も思います。働きすぎですよ。体調大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。ゲーム会社の仕事もあんまり重要なのは任せてもらえてなくて……俺、いる意味ある? とか思い始めてて……」
「でもやりたくて入ったんだろ?」
「そうなんだけど紫電の社長が、そのー……春日芸能事務所の技術顧問なんだけど」
「ああ、あの毒舌イケメンの……」
「仕事が早すぎてほぼ一人で全部やってて、出勤してる社員はその補佐みたいな作業と事務所で飼われている犬と猫の世話しかしてないみたいな」
「「え? 犬と猫?」」
ちょっとその話kwsk。
むしろそっちの話の方が興味ある。
詳しく聞けば、保護猫、保護犬をボランティアで預かる施設が隣にあり、社員はそちらの世話を頼まれるらしい。
これがなかなかの肉体労働。
もちろん、企画書を出せば自分たちの作りたいゲームを任せてもらえるらしいのだが、それは本当に自己責任ですべての作業を他の社員にプレゼンして手伝ってもらう、のような形式らしくて手伝ってくれる社員の確保が大変らしい。
割とのんびり保護犬猫との生活が楽しくて、お手伝い社員を確保してもスケジュール通りにいかないことも多いとかなんとか。






