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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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Sand先輩たちのお願い


 九月に入り、練習棟一階のブリーフィングルームに呼び出された。

 呼び出し主は宇月と『Sand(サンド)』の吾妻夕(あずまゆう)葉加瀬雅(はかせみやび)

 席につくと、早々に吾妻と葉加瀬がテーブルに額をブチ当てて「頼む! 苳茉(ふきま)を星光騎士団に入れてやってくれ!」と叫ぶ。

 目が点になる淳。

 今日呼び出されているのは淳だけなので、宇月の方をチラ見すると「まあ、今すぐ答えを出す必要もないし、とりあえず理由を聞いておくくらいでいいんじゃない?」と言われて「確かに」と吾妻たちに向き直る。

 

「理由を先にお伺いしても?」

「シンプルに俺たちが卒業したあとのあいつの居場所だ。『Sand(サンド)』は俺と雅が一年の時に作ったグループで、今年は一年の加入がなかった。元々誰も加入してこなくてもいいやって思っていたんだ。でも、こんな目立てないグループがいいって入ってきてくれたやつがいた。苳茉だ。あいつが俺たちが卒業したあと一人になっちまうって思ったら……」

「せめてあいつに居場所を残したいんだ。ど、どうだろうか? パフォーマンス能力は悪くないと思うんだ。家族が関わらなければ、意外と努力家だし……そ、その……どうだろうか?」

 

 どう、というのは苳茉を星光騎士団に移籍させる話だ。

 宇月の表情は険しい。

 おそらくは反対――。

 無理もない、原則星光騎士団は一年生の時に『地獄の洗礼』を生き抜かなければ加入を認められない。

 

「俺は構いませんよ。問題は本人の意思だと思いますから」

「え!? ほ、本当か!?」

「はい。星光騎士団に二年生、三年生から加入するのは前例がないわけではないので」

 

 何代目かに、二年生から、三年生から加入の例はある。

 今回のように卒業していった生徒の作ったグループがなくなり、行く宛をなくしたメンバーを受け入れたのだ。

 だが、その場合一年生たちと同じ第二部隊スタートだ。

 第一部隊はあくまでも一軍。第二部隊は二軍。

 そして一番重要なのは本人の希望。

 正直三年生になって二軍加入は意外と居心地が悪い。

 二軍にいるのは年下ばかりだ。

 来年になると新しい一年生の加入もあるので、ますます居心地が悪いと思う。

 一年間だけだからと我慢ができるのなら、それでいいとも思うけれど。


「――という注意点があります。苳茉くんはあんまり気にしないタイプだと思いますけれど、努力はしていただかないと困ります」


 あの家族とは距離を置くように、秋野直から命じられて現在は寮に入っていると聞いている。

 今回の炎上で顔を晒しただけでなく、苳茉を使って東雲学院のアイドルたちに対し悪逆の限りを尽くしていたこともどんどん掘り返されて拡散されているらしい。

 すでに東雲学院芸能科を出禁になっているものの、今回のことで他のアイドルイベントでも警戒されることだろう。


「わかった、苳茉本人に聞いてみるよ」

「はい。そうしてください。なにより本人のやる気次第ですから。環境もいいとは言い切れないですし」

「ありがとう! それでも加入そのものを断られなかっただけでも安心した」

「いえ。俺も苳茉くんのことはコラボユニットの時から気がかりだったので」


 ペコペコと何度も頭を下げてブーリフィングルームから出ていく吾妻たちに会釈して、取り残されるのは宇月と淳。

 宇月の方を見ることなく「なにかまずかったですか」と聞くが「今のリーダーはナッシーだからねぇ」という返答。

 予想通りの返しだ。


「実際前例があるのは僕も知ってたし、今のリーダーであるナッシーが受け入れるのならまあいいんじゃなぁい? 今の二年で来年三年生からの加入なら、第二部隊で問題ないだろうしぃ。ところで、次のリーダーについてはナギーとドカてんどっちにするかは決めてるの?」

「スケジュール的にも柳くんがいいかなと。鏡音くんにそれとなく聞いたらゲームの練習時間を確保したいので、と言われました。彼、一応本業プロゲーマーですからね」

「ああ、まあそうかもねぇ」


 もちろん最近だいぶアイドルとしての自覚も出てきたように見受けられる。

 実際IG夏の陣はかなり意識の変化をもたらしてくれたらしい。

 レッスンへの意気込みが以前より真摯になった。

 根っからのゲーマーなので、トーナメント式の夏の陣は相当いい刺激になったらしい。

 シンプルに「次は勝ちたいですね」と言っていた。

 ゲーマー、基本負けず嫌い。


「来年の四月には新しい一年生も入ってくることだしねえ」

「そうですね」


 急に沈黙が流れる。

 どうしたんだろう、と隣を見ると少し目元が潤んでおられてギョッとした。


「う、宇月先輩……!?」

「ごめーん。なんか来年のこと考えたらもう泣きそう〜。みんな頑張ってるけどさぁ、僕結局みんなのこと優勝させてあげられなかった。いや、去年の順位は珀先輩が偉大だったからなんだけどさぁ。僕は僕というアイドルの限界がアレだったってだけで」

「そんなことないですよ」


 これは本心。

 本当に、宇月は淳が憧れるアイドルだ。

 たくさんのアイドルを見てきたかるこそわかる。

 宇月美桜は、素晴らしいアイドルなのだから。


「ふふ、でも来年はナッシーの世代だからさあ。……頑張ってよ。来年はナッシー、珀先輩と同じことになるって言ってたけどさ。星光騎士団も、優勝まで連れてってよ。学生セミプロの星光騎士団がIGで優勝するところ見てみたいから」

「っ……」


 頑張ります、としか言えない。

 でも、この時間違いなくなにかのスイッチが入ったように思う。



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